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2025'12.09.Tue
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2007'01.15.Mon

農業生物資源研究所など、病原菌を認識し防御反応を引き起こす遺伝子をイネで発見

病原菌を認識し防御反応を引き起こす遺伝子をイネで発見  


 (独)農業生物資源研究所、(独)理化学研究所、明治大学の研究グループは共同で、高等植物に病原菌への防御応答を引き起こすタンパク質(受容体タンパク質)の遺伝子を、イネを用いて世界で初めて単離することに成功しました。
 植物病害のうち約8割はイネいもち病菌などの糸状菌(カビ)によって引き起こされます。糸状菌の細胞壁には主要成分としてキチン※1が含まれており、その加水分解産物であるキチンオリゴ糖は、イネ、オオムギ、ニンジン等の種々の高等植物において、病原菌などに対する防御応答を引き起こす物質(エリシター※2と呼ばれます)であることが知られていました。病原菌の成分として普遍的に含まれるエリシターは、病原菌の種類を選ばずに病害に対する高等植物の抵抗反応を誘導すると考えられ、植物に病害抵抗性を付与する戦略の重要なターゲットであるため、その認識機構の解明が待たれていました。
 今回、研究グループは、イネを用いて、このキチンオリゴ糖と結合し、病原菌への防御応答を引き起こすタンパク質(受容体タンパク質)を細胞膜から精製し、そのアミノ酸配列を解読しました。このタンパク質を「CEBiP(Chitin Elicitor Binding Protein)」と命名し、CEBiPの遺伝子を単離しその構造も明らかにしました。
 今回の発見により、今後この遺伝子の機能を利用することによってイネ等の重要作物に病害抵抗性を付与する新しい途が開かれました。

この結果はアメリカ科学アカデミー紀要に7月18日に掲載されました。


【研究代表者】 
 農業生物資源研究所 理事長                                    石毛 光雄 
  
【研究推進責任者】【研究内容の問い合わせ先】 
 農業生物資源研究所 (現・明治大学農学部生命科学科助教授)              賀来 華江 
                                            Tel : 044-934-7805 

【研究担当者】 
 農業生物資源研究所 植物・微生物間相互作用研究ユニット 
                                  西澤 洋子・秋本千春・南(石井)尚子・南 栄一 
 
明治大学農学部 生命科学科教授                                  渋谷 直人 
 
理化学研究所播磨研究所 放射光科学総合研究センター 城生体金属科学研究室    瀧尾 擴士 

理化学研究所中央研究所 先端技術開発支援センター バイオ解析チーム          堂前 直 


【一般的内容の問い合わせ先】 

 農業生物資源研究所 広報室長                                  小川 雅文 
                                            Tel : 029-838-8469 
 

【背景】 
 イネなどの高等植物は病原微生物を認識して抵抗性反応を展開する能力を備えています。このような抵抗性反応は、病原菌の菌体成分を植物が認識することによっても起こることが古くから知られ、このようにして誘導された抵抗性を特に基礎的抵抗性と呼んでいます。基礎的抵抗性は病原菌の種類をあまり選ばないという点で農業上有用な形質であり、これを増強することで幅広い病害に対して抵抗性を増強させることが可能となると考えられます。このような基礎的抵抗性を誘導する物質として注目を浴びているのが病原微生物の菌体成分からなるエリシターとよばれる物質です。エリシターにはキチンオリゴ糖をはじめとしてたくさんの種類が知られていますが、これまで植物がどのような受容体によってそれを認識し抵抗性反応を引き起こしているかについてはほとんどわかっていませんでした。 


【詳細】 
 植物病原糸状菌(カビ)の細胞壁にはほぼ共通してキチンが含まれており、その加水分解物であるキチンオリゴ糖はきわめて低い濃度でもイネ、オオムギ、ニンジン等の植物に、活性酸素生成や遺伝子発現変化などの病害抵抗性反応を引き起こします。すなわちキチンオリゴ糖は強力なエリシター作用を持っています。一方、キチンオリゴ糖の分子構造をわずかでも変化させるとこのような抵抗性反応は起きなくなることから、植物にはこのキチンオリゴ糖エリシターをきわめて鋭敏に、かつ厳密に識別できるタンパク質(受容体)が存在しており、このエリシターはこの受容体を通じてイネに抵抗性反応を誘導するものと考えられます(図1)。この共同研究グループのこれまでの生化学的な解析によってキチンオリゴ糖ときわめて効率よく結合するタンパク質がイネの細胞膜中に存在することがわかっていました。そこで、今回この結合活性を手がかりとしてこのタンパク質(CEBiP(Chitin Elicitor Binding Protein)と命名)をイネの細胞膜から精製し、その部分アミノ酸配列を解読しました。その情報に基づいてCEBiPをコードするmRNAおよび遺伝子の構造を明らかにしました。その結果、CEBiPは最終的に328個のアミノ酸からなり、キチンオリゴ糖との結合に重要と推測される“LysMドメイン※3”と呼ばれる配列が2カ所に含まれていることが明らかになりました(図2)。CEBiP遺伝子の発現をRNAi法※4によって抑制すると、細胞膜へキチンオリゴ糖が結合しなくなると同時に、キチンオリゴ糖を処理しても活性酸素生成や遺伝子発現変化などの抵抗性反応が顕著に抑制されることがわかりました。
 これらの結果はCEBiPがキチンオリゴ糖エリシターを細胞膜上で認識し、そのシグナルを細胞内に伝達する受容体として機能することを示しています。今回の成果は、CEBiPの構造をより低濃度のキチンオリゴ糖を認識できるように改変する等によって、イネ等の作物の持つ基礎的抵抗性を増強する新規戦略の確立に貢献するものと期待されます。 


【実施研究事業】 
 本研究成果は生研機構基礎研究推進事業「エリシターシグナル伝達過程の解析に基づく高度環境適応性作物の開発のための基礎研究」(1998年度~2002年度)、農林水産省委託プロジェクト(重要形質)「エリシター応答に関わる遺伝子の機能の解明」、生研センター基礎研究推進事業「イネにおける病原菌感染シグナルの受容・伝達機構の解明」を実施する中で得られたものです。  


<補足説明>
※1 キチン 
 β-1,4結合したN-アセチル-グルコサミンの重合体。糸状菌の細胞壁の主要な構成多糖の一つである。エビやカニ、昆虫等の殻の主要成分でもある。 
 
※2 エリシター 
 植物の生体防御反応を誘導する作用のある物質の総称。重金属イオンのような非生物起源のものと、病原菌由来の多糖・オリゴ糖、タンパク質・ペプチドなどの生物起源のものとがある。 
 
※3 LysMドメイン 
 細菌の細胞壁に含まれる高分子の一つでキチンとよく似た多糖を骨格とする構造体(ペプチドグリカン)と結合することが知られているアミノ酸配列。 
 
※4 RNAi法 
 RNAiはRNA interferenceの略であり、ニ本鎖RNAの導入によって、相同なmRNAが配列特異的に分解され遺伝子発現が抑制される現象を指す。多くの動植物細胞でこうした現象が確認されており、遺伝子機能の解析に利用される。この場合、機能を調べたい遺伝子について二本鎖RNAを合成するような遺伝子を導入するなどにより対象とする遺伝子の発現を抑制し、その影響を調べる。 


※ 以下、添付資料参照

図1.キチンオリゴ糖の認識と信号伝達 
図2.CEBiPの構造の概略図 

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