英ARM、次世代自動車の開発コストを下げるフォールトトレラント・プロセッサーを発表
ARM、未来の自動車の開発コストを下げるフォールトトレラント・プロセッサを発表
ARMの新Cortex-R4Fプロセッサが、浮動小数点のサポートによって高速処理を実現、次世代の自動車設計を促進
英ARM社(本社:英国ケンブリッジ、日本法人:横浜市港北区、代表取締役社長:西嶋貴史、以下ARM)は、米国カリフォルニア州サンノゼで開催されたFall Microprocessor Forumで、将来の車載電子技術のコスト削減と設計時間短縮に貢献する新しいARM(r) Cortex(tm)-R4Fプロセッサを発表しました。Cortex-R4Fプロセッサにより、ARMのパートナー各社は、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)、車両安定性システムなど次世代の自動車アプリケーションにおいて、厳しいエラーフリー安全規格と高性能要件を満たすことが可能となります。
自動車市場に特化したCortex-R4Fプロセッサの高度な機能には、ECC(Error-Correcting Code)メモリのサポート、内部バス相互接続まで対象を拡大したエラー検出機能、合成オプションの浮動小数点ユニット(FPU)などがあります。
米Strategy Analytics社のオートモーティブ・プラクティス担当副社長であるChris Webber氏は、次のように述べています。「自動車機器メーカは、消費者のニーズの変化に合わせるとともに、厳しくなる排出規制や安全規制に適合できるよう、継続的な革新を必要としています。ARMのCortex-R4Fプロセッサの発表は、非常に時宜を得ています。本質的に知的な構造がいずれ最も手頃な価格の車にまで搭載されることを見越し、次世代車載制御システムの設計者が、それに必要な堅牢性の高い浮動小数点プロセッサ・ソリューションを求めているからです。」
独Robert Bosch社のエンジニアリング・マネージャであるBerthold Fehrenbacher氏は、次のように述べています。「当社の厳しい安全基準を維持するために、自動車システムには、極めて高い信頼性と高性能が求められます。当社製品の条件にぴったり合う機能を数多く備えたCortex-R4Fプロセッサにより、Boschはそれを実現できます。」
Cortex-R4Fプロセッサの機能は、Cortex-R4プロセッサの高度な機能をさらに発展させたものです。このような機能の1つとして、きめ細かいメモリ領域の保護が可能なメモリ保護ユニット、キャッシュ、密結合メモリ、DMA、各種デバッグ機能を通じ、プロセッサを多様なアプリケーションに合成時に最適化するコンフィギャビリティがあります。このコンフィギャビリティによって、基本となるARM(r)命令セットの互換性が損なわれることはなく、アプリケーション開発者やサードパーティ各社は、ソフトウェアに対する今までの投資を最大限に再使用できます。
また、Cortex-R4Fプロセッサは、独立したソフトウェア・タスクの緊密な制御を可能にする高分解能メモリ保護機能により、安全性を非常に重視しています。これは、オープンエンド・アーキテクチャ向けのOSEK規格に対応したアプリケーション、JasPar規格の車載ソフトウェア・プラットフォーム・アーキテクチャ、AutoSAR規格のランタイム環境にとって非常に重要なことです。ARMは、BMW、Bosch、Continental、DaimlerChrysler、Ford、GM、Siemens、VWなどの各社を会員に持ち、幅広い業界サポートを得ているAutoSARのプレミアム会員です。トヨタ、日産、ホンダなどをボードメンバとするJasParの会員でもあります。
ARMのマーケティング/ビジネス・ディベロップメント担当執行副社長であるMike Inglisは、次のように述べています。「自動車業界は転換期を迎えています。32ビット・プロセッサの登場がきっかけとなり、将来の自動車技術における機能性、インテリジェンス、性能の新しい基準が確立されつつあります。新しいCortex-R4Fプロセッサは、Cortex-M3プロセッサとともに、ARMの自動車技術の進化における次の段階として、過去10年間にわたって業界を推進してきたARM7TDMI(r)、ARM9E(tm)プロセッサの伝統を受け継いでいます。」
株式会社ソフィアシステムズのCEO(最高経営責任者)兼COO(最高執行責任者)である樫平扶氏は、次のように述べています。「ソフィアシステムズのEJ-Debug、EJ-Extremeデバッグ・ソリューションを使えば、設計エンジニアの皆様にARM Cortexファミリを搭載した次世代機器を短期間で容易に開発していただくことができます。
複雑化の進む車載システムにおいて安全基準を維持するには、システムのすべての部分について十分な視認性が必要です。このため、Cortex-R4FプロセッサにはCoreSight(tm)デバッグ・インフラが組み込まれています。これも、ARMが常に市場のニーズにプロセッサの機能を対応させている例です。」
◆自動車を進歩させる各種機能
Cortex-R4Fプロセッサは、プロセッサから、内部バス相互接続、ペリフェラルを網羅するシームレスなエラー検出機能を通じ、ARMのパートナー各社がエラーフリー車載安全規格に適合できるよう設計されており、本格的なシステム全体の保護を提供します。
ECC技術は、メモリ・アクセスを監視し、エラーを検出、訂正するものです。メモリ・エラーが発生すると、ECCロジックは、エラーを伝え、システムを停止するだけでなく、それを訂正します。Cortex-R4Fプロセッサにエラー訂正機能が内蔵されているため、ARMパートナーは、外部ECCロジックを設計する必要がなく、実装が簡素化されるとともに、IEC61508規格への適合も容易となります。プロセッサ・パイプライン内にECCを慎重に統合すれば、このレベルの保護機能に通常伴う性能ペナルティも生じません。
次世代SoC内で伝送されるデータ量が増えるにつれ、システム設計者がシステム全体に対応するエラー検出機能を提供し、車載アプリケーションのフォールト・トレランスを強化することが重要となります。Cortex-R4Fプロセッサは、従来のエラー検出機能の対象をSoC全体にまで拡大します。つまり、以前は場当たり的にチェックされていたデータが、継続的にエラー検出の対象となり、システム全体の信頼性が高くなります。
◆Cortex-R4Fプロセッサ搭載システムの利点
Cortex-R4Fプロセッサは、他のアプリケーションにも多大な利点を提供します。例えばネットワーキング・アプリケーションでは、意図しない機能停止を最小限に抑えることが重要です。なぜなら、これは収益の損失、オーバータイムの増加、従業員の生産性低減につながるからです。「The Consequences of Network Downtime」と題されたInfonetレポート・サービスのレポートによれば、企業用アプリケーションのダウンタイムの平均コストは1分当たり10,000ドルにもなります。Cortex-R4Fプロセッサの組み込みECCメモリは、考えうるシステム障害の原因を取り除くことで、ネットワークの回復力を高め、障害の影響を防ぎます。
さらにCortex-R4FプロセッサのFPUは、浮動小数点演算を実行し、固定小数点演算よりも広いダイナミック・レンジと精度を実現します。FPUは、初期のARM FPUとの後方互換性を備え、車載アプリケーションに最も一般的な単精度処理に最適化されています。倍精度に変換することなく単精度値を使ってデータを表現することにより、データを2倍の速度で処理しつつ必要な精度を維持し、SoC設計の効率性を高めることができます。FPUは、高度な制御アプリケーションにおいて特に有利です。このようなアプリケーションでは、多くのアルゴリズムがSimulinkやASCET-SDなどの環境でモデリングされ、コードはReal Time Workshop Embedded Coder、ASCET-SE、dSPACE Targetlinkなどのツールで自動生成されます。
米The MathWorks社のMathWorksフェローであるJim Tung氏は、次のように述べています。「浮動小数点処理など、Cortex-R4Fプロセッサにおいて最適化された技術は、高度なシステム設計にとって重要であり、そのような機能を提供するプラットフォームは設計者にとって明らかに有利です。システム設計者の課題克服を助けるARM、The MathWorksなどの企業は、設計者が、より短時間でより多くの成果をあげられるツールの開発に長年投資してきています。ARMは、顧客の声を聞き、Real-Time Workshop Embedded Coderを使って組み込みシステム向けの高度に最適化された単精度プロダクション・コードを自動生成できるよう、Simulinkを使ったモデルベース設計環境に対応する新製品を提供しています。」
Cortex-R4Fプロセッサは、2つの命令を発行できる高度なマイクロアーキテクチャを採用し、ARM Artisan(r) Advantage(tm)ライブラリをベースとして性能を最適化した90nm実装では、800 Dhrystone MIPS以上の性能を発揮します。また、実装面積を最適化した90nm実装では、占有面積1mm2未満、消費電力0.27mW/MHz未満で、システム開発者にとって重要なコストと消費電力を削減します。レベル1メモリのタイミングが緩和されれば、高密度で低消費電力のRAMを使うことができるため、プロセッサ・ロジックの実装面積だけでなく、総コストの大部分を占めるメモリの実装面積も縮小されます。
ARMは、設計と製品化にかかる時間を短縮するため、新しいプロセッサをサポートするあらゆる技術を開発しました。総合的なシステム・ソリューションには、開発/デバッグ・ツール、モデリング技術、フィジカル・セル・ライブラリが含まれます。
lCortex-R4Fプロセッサは、組み込みシステムを短期間で開発するためのARM RealView(r) DEVELOPソフトウェア開発ツール・ファミリ、RealView CREATE ESLツール/モデル・ファミリ、CoreSightデバッグ/トレース・テクノロジーによってサポートされています。
l効率的な設計により、従来のARMプロセッサより低いクロック周波数で高い性能を提供し、最適化されたArtisan Metro(tm)メモリが組み込みシステムのサイズとコストのさらなる引き下げを可能にします。
lAMBA(r) Designer設計自動化ツールは、高度なAMBA相互接続サブシステムに対応する設計フローを提供し、実装コストの引き下げと製品化期間の短縮を実現します。また、AMBA 3 AXI(tm)相互接続(PL301)、コンフィギャブル・ダイナミック・メモリ・コントローラ(PL340)、スタティック・メモリ・コントローラ・ファミリ(PL350)、L2キャッシュ(L220)などのAMBA 3 AXIプロトコル対応ARM PrimeCell(r)ペリフェラルも、さらにプロセッサの性能を高めます。
Cortex-R4Fプロセッサは、ARMv7 ISAを実行し、世界中で何十億個ものシステムを動かしている既存のARMコードと完全な下位互換性を維持しています。また、Thumb(r)-2命令セットに最適化されています。Thumb-2命令セットとARM RealView Development Suiteの使用は、オンチップ・メモリ・サイズを30%縮小し、システム・コストの大幅削減を可能にします。またThumb-2命令セットは、ARM946E-S(tm)プロセッサ上で実行される従来のThumb命令セットに比べ、40%高い性能を発揮します。これは、チップ上でメモリが占める割合が大きくなるにつれ、車載設計にプロセッサを使用するチップ・メーカにとって、実装面積とコストの大きな節約になります。
◆提供時期
ARM Cortex-R4Fプロセッサは、現在、多くのサポート技術とともに、ライセンスを供与されています。Cortex-R4Fプロセッサ用の命令セット・シミュレータとRealView Development Suiteツール環境は、現在、リード・ライセンシ、既存ライセンシに提供しているほか、要望に応じて一般にもリリースしています。AMBA 3 AXI相互接続(PL301)、コンフィギャブル・ダイナミック・メモリ・コントローラ(PL340)、スタティック・メモリ・コントローラ・ファミリ(PL350)、L2キャッシュ(L220)など、完全なSoCソリューションを実装するための補完的な技術はすべて現在提供中です。
◆ARM社概要
ARMは、ワイヤレス、ネットワーク、デジタル家電、画像、自動車、セキュリティ、そしてストレージ機器といった高度なデジタル製品のコアとなる技術をデザインしています。ARMが提供する総合的な製品・IP(知的財産)には、16/32 ビット組込みRISC マイクロプロセッサ、データエンジン、3Dプロセッサ、デジタルライブラリ、組み込みメモリ、ペリフェラル、ソフトウェア、開発ツールならびにアナログ機能や高速インターフェース製品が含まれます。ARM は、ARMの幅広いパートナーコミュニティと共に、信頼性の高い製品を迅速に市場へ投入するためのトータルシステムソリューションを、大手エレクトロニクス企業に提供しています。ARMについて詳しくは当社Webサイトをご覧ください。(http://www.jp.arm.com/)
◆ARM Connected Community概要
ARM Connected Communityは、約350の企業からなる世界的なネットワークで、ARMアーキテクチャベースの製品を開発するために必要な、システム設計から量産および消費までをカバーした完全なソリューションを提供しています。ARMは、販売促進プログラムや、お客様によりよいソリューションを提供するためのメンバー間のネットワーキングの機会など、さまざまなマーケティングプログラムを提供しています。
ARM Connected Communityについて詳しくはWebサイトをご覧ください。
http://www.arm.com/community
※ARM、AMBA、Thumb、ARM7TDMI、PrimeCell と RealViewはARM社の登録商標です。
ARM9E、ARM946E-S、AXI、Cortex、Advantage、Metro と CoreSight はARM社の商標です。Artisan ComponentsとArtisanは、ARMの子会社であるARM Physical IP Incの登録商標です。その他のブランドあるいは製品名は全て、それぞれのホールダーの所有物です。「ARM」とは、ARM Holdings plc、その事業会社であるARM Limited、各地域の子会社であるARM INC.、ARM KK、ARM Korea Ltd.、ARM Taiwan、ARM France SAS、ARM Consulting (Shanghai) Co.Ltd.、ARM Belgium N.V.、AXYS Design Automation Inc、AXYS GmbH、ARM Embedded Solutions Pvt. Ltd.、ARM Physical IP,Inc. およびARM Norway,ASの全部または一部を意味します。