東北大学、アスベスト廃棄物の処理技術確立にむけた実証実験を実施
アスベスト廃棄物の高効率・高信頼性溶融無害化処理技術の第一次実証試験を実施
―(平成18年10月24日~26日,於:最上クリーンセンター(山形県最上町)―
【概要】
当研究所資源変換・再生研究センターの葛西研究室では、本年度環境省廃棄物処理等科学研究費補助金による研究プロジェクト採択を受け、10月24日~26日の日程で山形県最上町の最上クリーンセンターにおいて、アスベスト廃棄物の高効率で信頼性の高い処理技術確立にむけた実溶融炉による第一次実証試験を行いますのでお知らせします。
高額な分析機器や高度な高温融体への知識を持たない現場技術者が、迅速かつ的確に溶融炉の操業状態を制御することができる汎用マニュアルの確立が目的です。
【内容説明】
本実証試験は、平成18年度の環境省廃棄物処理等科学研究費補助金事業に採択された研究プロジェクト「アスベスト廃棄物と廃棄物焼却灰の高効率・高信頼性溶融無害化および資源化」研究の一環として行われるものです。
本研究プロジェクトの目的は、アスベスト廃棄物の安全・確実な無害化と再資源化を低コストで実現するための溶融処理マニュアルを確立することにあります。すなわち、高額な分析機器をもたない廃棄物処理施設において、高温融体に関する高度な知識をもたないオペレーターがアスベスト廃棄物の溶融処理を行う際に、自動化された低価格の小型電気炉装置による簡単な溶融試験(溶融シミュレーター)から得られる情報に基づき、廃棄物の混合割合や溶剤の添加量を、現場で迅速かつ的確に判断できるような汎用マニュアルの構築です。
*関連資料1「アスベスト廃棄物溶融シミュレーションのイメージ」参照
これまで、研究室レベルの実験データを蓄積しており、今回の実証試験期間では、実溶融炉を用いた原理確認と、炉の温度変化、排ガス組成変化の測定、炉内状況のビデオ撮影やアスベストの完全分解の確認、溶融スラグの性質把握等を行う予定です。また、操業が順調であれば、複数の低コスト溶剤の使用効果についても検討します。
研究期間は平成18~20年度の3年間の予定であり、次年度以降は、溶融試験装置(溶融シミュレーター)の自動化、および耐火物損傷を最小化し、炉寿命を大幅に延長するための操業技術開発を行い、最終年度までに汎用操業マニュアルの完成を目指しています。
*関連資料2「溶融シミュレーション実験」「試料の溶融流動状態」参照
【従来技術との相違】
・ 1600℃以上の高温状態を維持してアスベスト廃棄物を溶融するための装置開発ではなく、現在、廃棄物焼却灰の溶融処理に使用されている溶融炉を用いて、比較的低温でも安定した低エネルギー型溶融技術の確立のための研究です。
・ アスベスト廃棄物を低温で溶融するために、塩化物(ハロゲン化物)などの特殊な溶剤を用いる技術開発ではなく、廃棄物焼却灰や山砂、粘土など、既設の焼却施設周辺で簡単に手に入れることが可能な溶剤の利用を狙いとしています。これによって、塩化物による耐火物の損傷やダイオキシン類など、有機塩素化合物の発生も抑制することが可能になります。
【研究組織】
研究代表者: 東北大学多元物質科学研究所 教授 葛西栄輝
研究分担者: 東北大学多元物質科学研究所 助手 村上太一,林直人
研究協力者: 最上クリーンセンター 所長 阿部良春
最上環境化学研究所 後藤廣
ニチアス建材事業本部 黒坂和弥
実験担当学生: 東北大学工学部4年生 真瀬裕伴
【用語および研究背景の説明】
アスベスト(石綿)およびアスベスト廃棄物: は天然に産出する数種の鉱物の総称で、その軽量性、断熱性、安定性など優れた性質より、建築材、機械部品、フィルターなど多くの用途に使用されてきました。我が国の1925~2005年のアスベスト総輸入量は約1,000万トンと膨大であり、これらのアスベストを含む廃材は今後30年以上にわたり年間100万トン以上の規模で排出され続けるものと考えられています。
*関連資料3「アスベストの輸入量の推移」「アスベスト含有建設廃棄物排出量の推移予想」参照
アスベスト廃棄物の処理に関する問題点: アスベストを含む廃材は、飛散性の有無によって処理基準が異なりますが、最終(埋立)処分場の残余容量の逼迫などを考慮すると、現状では溶融処理による建設材料への再資源化が有効な手段と考えられます。しかしながら、例えば、使用量が最大であるクリソタイル(白石綿)は、単独では1,800℃以上の融点(液相線温度)を示し、モルタルなどと混合された建築廃材でも融点が1,600℃以下であるケースはあまり多くありません。しかも、その混合状態が一定ではないため、局所的な成分偏在によって融点の大きなばらつきが存在します。
このため、溶融炉の運転時には、燃料(主に重油)使用量を極端に増加させて炉内の温度上昇を図っても、全く溶融せず操業がストップするケースがかなり頻繁に起こります。このような場合は、溶融炉の稼働率低下や炉内残留物除去などの労力以外に、炉内耐火物の損傷のために新たな廃棄物が発生することになり、加えて、このような過剰な燃料使用による温室効果ガス(二酸化炭素)の排出量増加による環境負荷も懸念されます(一つの溶融炉の影響は小さいが、今後の処理量増大を考慮すると、無視できない量になる可能性があります)。
このようなことから、昨年度までに許可を受けた溶融処理施設は全国で15箇所、東北では2箇所に留まっています。最上クリーンセンターはそのうちの一つです。
状態図: ある化学組成を持つ物質が、どのような温度で、どのような状態(固体、液体(融体)、気体など)になるかを示す図です。
例えば、鉛と錫(すず)の合金(ハンダ)の状態図は右図(*関連資料参照)に示すようになっており、混合割合によって、融点が大きく異なります。アスベスト廃棄物の場合は、もっと複雑なものになりますが、基本的にはハンダの場合と同様に、低融点で流動しやすい融体の生成を目指して、処理対象の廃棄物の条件に合わせて時々刻々と化学組成を設計・制御していくためのシステムが必要です。
*関連資料4「鉛-錫合金(ハンダ)の状態図」参照
【実炉試験を行う施設】
株式会社大場組最上クリーンセンター (所長 阿部良春)
山形県最上郡最上町大字東法田字大沢山928
TEL(0233)43-4710,FAX(0233)43-4720,
http://www.o-bagumi.co.jp/cleancenter/
【添付資料】 本研究プロジェクトの概略イメージを表すポスター資料