富士経済、バイオマス利用技術と製品市場の調査結果を発表
バイオマス利用技術と製品市場の調査を実施
12年度、京都議定書の第1約束期間の目標達成に向け05年度の3.5倍、2,528億円に急成長
総合マーケティングビジネスの(株)富士経済(東京都中央区日本橋小伝馬町 代表取締役 阿部英雄 03-3664-5811)は、地球温暖化防止と戦略的産業創成を目的に成長するバイオマス技術・製品の市場について5月~7月に調査を実施した。その結果を報告書「2006年版 バイオマス利活用市場の全貌と将来予測」にまとめた。
*第1約束期間:京都議定書で定められた温室効果ガスの削減への取り組みの第一段階の目標期間で2008年から2012年までの5年間のこと。日本はこの5年間に温室効果ガスの平均排出量を、1990年の排出量から6%削減するよう義務付けられている。
バイオマスビジネスは政府、企業、地方自治体、NGO/NPO、そして一般市民が参画し、徐々に拡大、成長を遂げてきたユニークな市場である。2006年3月にバイオマスの総合的利活用を推進する「バイオマスニッポン総合戦略」の内容が改定され、輸送用燃料などにバイオマスエネルギーの導入を促進する国のバイオマス利活用の方向・指針が示された。
日本は2005年2月に発効した京都議定書で、温室効果ガスの削減義務を負っている。そのためCO2削減に向けた取り組みは、産業部門では省エネ新技術の導入、生産工程の見直しなど、一部で既に進められているが、運輸・民生部門では逆に増加し、2012年度の削減目標達成に向けて待ったなしの状況である。CO2削減対策の切り札はバイオマスエネルギーを導入する燃料転換の産業化である。ガソリン、軽油に一定のバイオマス燃料を混合してCO2の排出量を削減する。しかし取り組みは始まったばかりで、市場の顕在化には時間を要する。こうした動きに予算を配分し事業を補助する施策は徐々に進められているが、国家ビジョンを明示し、戦略的産業を創成するという当初の目的はまだ果たされていない。
また、バイオマスビジネスはかねてより経済性を得ることが市場成長の鍵となっており、民間レベルではさまざまな技術開発がなされているが、既存市場と比べまだ経済性が得られている市場とは言い難く、今後に課題を残している。
EUをはじめとする欧州の締約国の燃料・農業・環境面の政策取り組み、議定書の批准を拒否したアメリカの独自の燃料・環境政策など、海外の先進諸国はすでにそれぞれ国家戦略として積極的に取り組みを進めている。
<今後の注目ビジネス市場>
●エタノール発酵
技術(国内・海外向け) 05年度実績 40億円 12年度予測 250億円(05年度の6.3倍)
製品(国内) 07年度予測 3億円 12年度予測 75億円(07年度の 25倍)
京都議定書目標達成計画における2010年度の新エネルギー対策の導入見込みでは、輸送用燃料におけるバイオマス由来燃料は50万キロリットルとなっており、この目標に向けてバイオエタノールの製造プラントの整備が進む。商業用の製造プラントとしては、バイオエタノール・ジャパン・関西が廃木材を原料にしたバイオエタノール製造プラントの第1号機を整備中であり、日揮も米ベンチャーのアルケノールと共同出資で2006年に事業会社を設立し、2009年に米国で廃木材を利用した自動車燃料用バイオエタノールの製造・販売に乗り出すとしている。
実証段階にある施設は全国に6ヶ所ある。2007年には新日本製鐵がNEDOの委託を受けて食品廃棄物からエタノールを製造する実証事業を開始する予定である。2007年度以降には大手商社が参入を予定している。事業が本格化すれば、安定した資源の供給量確保には作物プランテーションの経営が不可欠になると見られるためである。バイオエタノールはブラジルが最大生産国であり、日本は当面、海外生産→国内輸入に依存し、その間に国内での生産体制を構築すると見られる。
●バイオディーゼル(BDF)
技術(国内・海外向け) 05年度実績 10億円 12年度予測 72億円(05年度の7.2倍)
製品(国内) 05年度実績 8億円 12年度予測 54億円(05年度の6.8倍)
国内のバイオディーゼル製造プラント/装置は廃食油を原料としており自治体向けの100~500リットル/日程度の小型装置の納入が中心となっている。一方で、海外の小型・大型プラント案件も見込まれ、市場の拡大が期待される。装置メーカーは海外市場への進出を視野に入れており、小型装置では東アジアに納入した実績を有するケース、合弁会社の設立を行うケースなどが見受けられ、主に国内事業の延長上で事業展開を行っている。大型プラントでは東南アジアでパームヤシのプランテーション系バイオマスを原料とした大型BDF製造プラント受注を目指して事業を展開しているケースがある。こうした背景には国内の廃食油を原料としたリサイクル市場には供給量に限界があり、将来BDFを市場に流通させるにはプランテーション系バイオマスの必要性が高くなるためで、海外生産→国内輸入を含めた展開を期待する関連企業の動きが見られる。
市場拡大の直接のきっかけは原油価格の高騰であり、これによりBDF価格が競争力を持つようになっている。増産のため新規製造プラント建設を進めるメーカーもあり、活況を呈してゆくと見られる。今後ガソリンスタンドなどでの混合軽油の販売を想定した場合、巨大な需要を満たす供給量の確保が必要となってくる。その方策として東南アジアのパームオイルを原料とした輸入BDFによる対応が最も有望視されており、商社を含めた参入が予想されている。品質面では、2006年度中に成立すると見られるBDF規格化を受けて一定の品質確保が期待できるとの見方が強い。ただし、大規模なプランテーションの構築が新たな森林破壊を引き起こす懸念も強く、本来の意義と矛盾すると指摘する向きもある。
<調査結果の概要>
バイオマス利活用市場の動向
分野 2005年度 2012年度予測 成長率
技術市場(国内) 423億円 1,433億円 3.4倍
技術市場(海外向け) 30億円 469億円 15.6倍
製品市場(日本企業) 267億円 626億円 2.3倍
合計市場 720億円 2,528億円 3.5倍
バイオマス利活用市場として技術10市場と製品9市場の調査を行った。技術、製品両面で成長が特に期待できるのは液体燃料市場である。
バイオマス利活用市場は2005年度で約720億円、2008年度には約1,380億円、そして2012年度には約2,530億円へと3.5倍に成長すると予測される。そのうち利用技術市場は05年度現在450億円余に達しており、2012年度には1,900億円超、4.2倍に成長すると予測される。
技術10分野ではバイオマス直接燃焼を中心に、メタンガス化、炭化システムの技術が比較的大きな市場を形成している。エタノール発酵、バイオマスガス化→発電は上市したばかりでまだ実績は少ないものの、実証事業などの取組みが順調に進んでいる。小型設備の市場投入が増加しており大量のバイオマスを必要としないことで導入に向けての課題が徐々に解消されており、2012年度に向け成長が期待される。さらに研究開発・実証の段階にある技術、ポリ乳酸化、バイオマスガス化→液体燃料化、超(亜)臨界水処理の技術も2012年度までには実用成果が期待される。日本企業の海外市場向けバイオマス利用技術の2005年実績は30億円と全体に占める割合はわずかであるが、2012年には15倍以上に成長し約470億円となる。その代表的技術は直接燃焼技術やエタノール発酵技術、ポリ乳酸化技術になる。海外市場向けが伸びるのは、国内ではバイオマスエネルギーの賦存量が分散しており、小型プラント/装置の技術市場が中心になるのに対して、海外ではプランテーション系バイオマスエネルギーを利用した大規模プラントの設置が可能で、潜在需要も大きいと見られることが挙げられる。また日本政府が承認するCDM(クリーン開発メカニズム)/JI(共同実施)プロジェクトの主要技術の一つとしてバイオマス利活用技術が採用されるケースが増加しているためである。
バイオマス製品についても大きな成長が期待される。最も成長が見込まれる分野は液体燃料である。特に自動車用燃料として既存のガソリン、軽油に混合して使用するバイオエタノール、バイオディーゼルが本命となっている。現在の市場はどちらも微々たるものであるが、2008年度以降大幅な成長が期待できる。
<主要技術市場>
●バイオマス直接燃焼
国内・海外向け 05年度実績 268億円 12年度予測 500億円(05年度の1.9倍)
2004年の林野庁資料によると、木材産業における木質バイオマス発電機の設置数は国内29基、同じく木質資源利用ボイラの設置数は354基であった。2006年度以降の各設置数はさらに増加していく。最近の大型案件ではファーストエスコが国内最大クラスの1万kW級発電所の商用運転を2006年に開始した。2008年7月からは中国木材(株)が鹿島臨海工業地帯でバイオマス発電事業を開始する。
●メタンガス化
国内・海外向け 05年度実績 56億円 12年度予測 220億円(05年度の3.9倍)
家畜糞尿を対象にしたメタンガス化は、2004年11月の家畜排泄物処理法の本格施行を背景とした受注件数の増加が期待されたが、コスト高が壁になり畜産農家への普及は進展していない。最近低コストの小規模ユニット型システムのニーズが現れ始めている。食品工場などで発生する食品残渣を対象としたメタンガス化は、食品リサイクル法本格施行によって普及し始め、これまでに国内で数十ヶ所のメタン発酵施設が建設されている。最近では、廃棄物の海洋投棄を禁じるロンドン条約の批准を2007年に控えて、焼酎粕の海洋投棄廃止が現実に迫っており、未対応の中小蔵元での需要拡大が期待できる。
●ポリ乳酸化
国内・海外向け 05年度市場未形成 12年度予測 450億円
この技術はこれまで米国のカーギルダウ社が世界で独占しており、製造プラント市場はまだ立ち上がっていない。国内のプラントメーカーは近年取り組みを開始したがいずれも実証段階で、今後市場参入を目指すとしている。荏原製作所が生ゴミや古古米、廃木材などを対象にしたポリ乳酸化技術の確立に取り組み、Hitz日立造船は、キャッサバのデンプンから安価なポリ乳酸樹脂を製造する技術を開発したC・P・Rと提携して生分解性ポリ乳酸樹脂事業に乗り出すことを2006年6月に公表している。
●バイオマスガス化 → 発電
国内・海外向け 05年度実績 27億円 12年度予測 105億円(05年度の3.9倍)
2005年度はJFEエンジニアリングが発電効率において国内最大級の商用施設を受注した。出力は国内最大の2000kWで、余剰電力は売電する。直近では2006年3月に月島機械が秩父市から出力120kWの施設を受注している。実用化に向けた参入メーカーの動きをみると、中小規模の施設に注力する動きが目立つ。
●バイオマスガス化 → 液体燃料化
国内・海外向け 05年度市場未形成 12年度予測 150億円
現在のところバイオマスガス化→液体燃料化の市場は形成されていない。各社の取り組みとしては、三菱重工業が木質バイオマスなどをガス化し、メタノールやジメチルエーテルといった液体燃料合成技術を開発しているほか、荏原製作所は2003年から千葉県で都市ゴミや産業廃棄物を対象に熱分解ガスシステムの実証試験を実施、2005年に液体燃料化技術の開発に本格的に乗り出し、早期実用化を目指している。
<調査の概要>
1.調査の対象
(1)バイオマス利用技術 10技術
バイオマス直接燃焼、エタノール発酵、バイオディーゼル化、メタンガス化、ポリ乳酸化、バイオマスガス化(発電)、バイオマスガス化(水素、液体燃料化)、炭化システム、ペレットボイラ、超(亜)臨界水処理
(2)バイオマス由来製品 9種類
生分解性プラスチック、機能性物質、健康食品素材、炭化製品、高付加価値木材製品、木質ペレット、バイオエタノール、バイオディーゼル、生分解性応用製品
2.調査方法
弊社専門調査員による、関係企業、研究機関、官公庁などへの直接面接取材約100件を基本に、電話ヒアリング、文献調査により補完
3.調査期間 2006年5~7月
以上
資料タイトル:「2006年版 バイオマス利活用市場の全貌と将来予測」
体裁 : A4判 265頁
価格 : 100,000円(税込み105,000円)
調査・編集 :富士経済 大阪マーケティング本部 第四事業部
TEL:06-6228-2020(代) FAX:06-6228-2030
発行所 : 株式会社 富士経済
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