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ニュースリリースのリリースコンテナ第一倉庫

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2024'10.06.Sun
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2007'04.11.Wed

理化学研究所、北里大学などと共同で細胞内共生細菌から生物界最小のゲノムを発見

共生細菌から生物界で最小となるゲノムを発見

- キジラミに共生する細菌カルソネラの全ゲノム塩基配列決定 -  


◇ポイント◇ 
 ・これまでの常識を覆しゲノムサイズは、たった16万塩基対(既知最小値の3分の1) 
 ・生物が必要な最小遺伝子セットについて重要な示唆 
 ・共生細菌のオルガネラ化メカニズム解明に期待 

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、北里大学、放送大学、米国のアリゾナ大学と共同で、細胞内共生細菌である「カルソネラ」の全ゲノム塩基配列を決定し、そのゲノムがこれまで知られている生物界のゲノムのなかで際立って小さいことを明らかにしました。これは理研中央研究所(茅幸二所長)工藤環境分子生物学研究室の中鉢淳客員研究員と理研ゲノム科学総合研究センター(榊佳之センター長)ゲノム基盤施設シーケンス技術チームの服部正平客員主管研究員らのグループによる研究成果です。
 カルソネラは、半翅目昆虫「キジラミ」※1の共生細菌で、キジラミ体腔内の特殊な細胞(菌細胞)の細胞質内で生きており、菌細胞の外では生存できません。大腸菌などと同様γ-プロテオバクテリアに属し、腸内細菌を起源とするとされますが、宿主細胞内に侵入したあとは2億年にわたりキジラミの親から子へと垂直感染のみによって受け継がれてきたと考えられています。
 今回北米産のキジラミの一種を用い、カルソネラの全ゲノム塩基配列を決定したところ、そのサイズはこれまで最も小さいとされていたブフネラ(アブラムシ共生細菌)の一系統のゲノム(45万塩基対)の3分の1となる16万塩基対と極端に縮小していることが明らかになりました。このゲノムは単に遺伝子の数が少ないだけではなく、遺伝子の長さが短く、さらに遺伝子同士がオーバーラップしているという、これまでに知られていなかった極限まで切り詰められた特殊な構造を示しました。
 ゲノムからは生命活動を維持するのに必須と思われる遺伝子の多くが失われており、宿主昆虫の遺伝子やそれに由来する代謝産物への大幅な依存が示唆されます。しかし、細菌に特異的なプロセスにかかわる遺伝子は昆虫から確保できません。このためミトコンドリアや葉緑体といったオルガネラの例で見られるように、宿主核へ遺伝子が転移している可能性も考えられ、今後の研究の展開で共生細菌のオルガネラ化※2機構の解明につながると期待されます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『Science』(10月13日号)に掲載されます。 


1.背 景 
 近年のゲノム解析の進展により、さまざまな環境にすむことのできる自由生活性の細菌のゲノムは、200万~600万塩基対程度の大きさで、数千の遺伝子を持つことが明らかとなっています。また、多細胞生物の細胞内のみをすみかとする寄生細菌や共生細菌のゲノムの多くは、100万塩基対以下のサイズしかなく、遺伝子数も数百と、遺伝子を大幅に失いながら宿主への依存度を高める方向に進化していることが明らかになってきました。しかし、さまざまな系統の細菌ゲノムの解析が進んだにもかかわらず、いずれも50万塩基対程度が最小で、生物ゲノムはこれ以上小さくなることができないと考えられてきました(図1)。 

2.研究手法・研究成果 
 キジラミ(図2)はこれまでに2500種ほどが知られていますが、今回はカルソネラ以外に共生微生物を持たないことが確認されているPachypsylla venusta(パキシラ・ベヌスタ)を用いました。このキジラミは、北米産のエノキの仲間の葉柄に虫こぶ※3を作るので、こうした虫こぶから虫を採集し、解剖することでカルソネラの共生する菌細胞(図3)を集めました。この菌細胞に含まれるゲノムをMDA法※4で増幅したのち、全ゲノムショットガンシーケンス法※5によりカルソネラの全ゲノム塩基配列を決定しました。その結果、以下のような事実が明らかになりました。 
 
(1)ゲノムサイズが16万塩基対と、大腸菌ゲノムの1/30、これまで最小とされていたブフネラ(アブラムシ共生細菌)の一系統のゲノム(450kb)の1/3程度に過ぎず、葉緑体ゲノム(120kb-180kb)と同程度のサイズになっていました(図1)。 
(2)ゲノム上のORF(オープンリーディングフレーム:タンパク質をコードする遺伝子)の数は182しかなく、生命維持に必須と思われる遺伝子の多くが存在していませんでした。 
(3)ただし宿主キジラミの唯一の餌である植物師管液に欠けている必須アミノ酸の合成に関わる遺伝子は比較的良く保存されていました。 
(4)ORFが他の細菌のオーソログ(相同遺伝子)よりも平均20%程度短いものでした。 
(5)ORFの大部分(90%)が隣接する他のORFとオーバーラップしていました。 
 
 このようにカルソネラは、遺伝子を極端に減らすだけではなく、遺伝子自体を短くし、さらにオーバーラップさせることで極限までゲノムサイズを小さくしていることが分かりました。3)はカルソネラが宿主にとって必須の存在であることを示していますが、一方で2)にあるようにカルソネラのゲノムが生命維持に必要と思われる多くの遺伝子を欠いているため、カルソネラがどのように生きているかに興味が持たれます。 

3.今後の期待 
 ミトコンドリアや葉緑体といったオルガネラが、原始真核細胞に共生した細菌由来であるとする細胞内共生説が現在広く受入れられています。これらオルガネラは独自のゲノムを持ちますが、そのサイズは縮小しており、大部分の遺伝子は宿主の核ゲノムに移行しています。カルソネラは宿主である昆虫が補償できない、細菌に特異的なプロセスに関わるものも含めて極端に多くの遺伝子を失っているため、オルガネラと同様、宿主の核に遺伝子を移行させている可能性が考えられます。こうした現象は、これまでオルガネラ以外の系で見出されたことがなく、細菌のオルガネラ化を理解する上で重要な示唆を与えるものと期待されます。
 また、キジラミは重要な農業害虫種を含みますが、いずれの種もカルソネラがいないと繁殖できないと考えられています。今回解明したカルソネラのゲノム構造にもとづいて共生系の存立基盤を理解し、これを標的とすれば、生態系に負荷のかからない安全な害虫防除法の開発につながると期待されます。  


<補足説明>
※1 キジラミ 
 半翅目・腹吻群のキジラミ上科に属する昆虫の総称。世界で2500種ほどが知られている。腹吻群に含まれる他の昆虫(アブラムシ、カイガラムシ、コナジラミ)と同様、植物師管液のみを餌とし、植物病原体を媒介するので多くの重要な農業害虫種を含む。なお、動物に寄生する「シラミ」とは無関係である。 
 
※2 細菌のオルガネラ化 
 ミトコンドリアや葉緑体といったオルガネラは、20億年ほど前にそれぞれ真核生物の共通祖先や植物の共通祖先の細胞内に共生した細菌に由来するという「細胞内共生説」が現在広く受入れられている。これより起源が新しく、1~2億年前に動物との共生を開始したのがさまざまな菌細胞内共生細菌である。これら細菌はゲノムサイズが縮小し、宿主細胞への依存度が高いという点においてオルガネラに似るが、これまで遺伝子を核ゲノムに移行させているとの証拠は得られていない。 
 
※3 虫こぶ 
 昆虫などの寄生による刺激で植物組織が異常発育して形成されるこぶ状の構造。寄生者の種類によって形成される部位、形状などが決まっている。寄生する昆虫にとって虫こぶは餌を提供してくれる安全なすみかである。 
 
※4 MDA(multiple displacement amplification)法 
 高い伸長性と強いDNA鎖置換能を持つファイ29ファージのDNAポリメラーゼを利用してゲノム全体を増幅する手法。増幅の偏りが非常に少ないことが確認されており、ゲノムサンプル量が少ない場合に標準的に用いられる。 
 
※5 全ゲノムショットガンシーケンス法 
 全ゲノムを数千塩基対の断片にランダムに切断して各断片の塩基配列を読み、十分に多くのデータが集まった時点で断片をコンピュータ上でつなげ、ゲノム全体の塩基配列を決定する手法。現在ゲノム塩基配列決定の標準的手法となっている。 

 
図1 細菌等のゲノムサイズと塩基含量の分布 
図2 キジラミの幼虫 
図3 キジラミより取出した菌細胞 
 (※ 関連資料を参照してください。)

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