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2024'11.25.Mon
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2007'06.05.Tue

理化学研究所、RIビームファクトリーでウランイオン加速に成功

RIビームファクトリーでウランイオン加速に成功
-日本の加速器史上初、リングサイクロトロン4基の多段式加速では世界初-


◇ポイント◇

●天然に存在する最も重い元素「ウラン」を光速の70%まで加速
●リングサイクロトロン群による多段加速システムの確かさを実証
●元素の起源解明など原子核物理の根元的な研究へ新たな一歩

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、仁科加速器研究センター(矢野安重センター長)の「RIビームファクトリー※1」において、3月23日(金)21時00分、ウランイオンを加速することに成功しました。ウランイオンを加速したのは日本では初めてのことであり、また、4基ものリングサイクロトロン※1を使った多段式加速としては、世界で初めての成果です。
 ウランは、地球上で産出される元素のうち、最も原子番号の大きいものですが、その合成過程は謎のままです。一方、ウランイオンの加速により多種多様な元素を生成することで、ウラン自身の謎を解き、さらに元素誕生の謎を知ることができます。しかし、これまでの技術では、ウランのような重い元素を加速するのは難しいものがありました。
 今回、既存の加速器施設のイオン源(ECRIS)※1からウランイオンを発生させ、線形加速器(RILAC)※1、理研リングサイクロトロン(RRC)※1で加速した後、RIビームファクトリー計画で新たに建設した3基のリングサイクロトロン【固定加速周波数型リングサイクロトロン(fRC)※1、中間段リングサイクロトロン(IRC)※1、超伝導リングサイクロトロン(SRC)※1】で順次加速し、重イオン※2ビームとして取り出すことに成功しました。ビームエネルギーは核子当り345MeV※3(光速の70%の速さに相当)を達成しました。今回、ウランイオン加速に成功したことは、国際的に熾烈な開発競争を続けているRIビーム発生用加速器の開発に日本が先鞭をつけるとともに、原子核物理の根源的な研究へ新たな一歩を踏み出し、元素誕生の謎へ一歩近づいたことを意味します。
 今後、加速したウランイオンビームを生成標的(ターゲット)に照射してRIビームを生成し、未知の新同位元素発見に取り組みます。さらに来年度からは、生成したRIを詳細に解析する装置を順次整備し、RIビームを活用した世界初となる本格実験に挑戦していきます。
 なお、RIビームファクトリーでは、平成18年12月28日に施設の心臓部にあたる世界初の超伝導リングサイクロトロン(SRC)からアルミニウムイオンでのファーストビームを取り出すことに成功し、さらに平成19年3月13日には、クリプトンイオンを使ってRIビームの発生にすでに成功しています。


1.ウランイオン加速の意義

 ウラン(U)は、原子番号が92で、天然に存在する元素のうち最も原子番号が大きく重い元素です。しかし、宇宙の開闢と言われるビックバンから始まった137億年の歴史の中で、ウラン元素がどのように生み出されたのかはわかっていません。このウラン合成には、およそ1,000種類の未発見の放射性同位元素が鍵を握ると言われています。
 放射性同位元素は、簡単に崩壊してしまうので“不安定核”と呼ばれますが、ウランを生み出す為には重要な役割を果たしたと考えられています。ウランそのものをビームにして加速し、そこから大量に発生する不安定核を調べることが、ウラン合成に至る過程を理解するために最も有効な手段です
 ウラン合成に関する仮説はありますが、これを実証することはこれまでの実験装置では不可能でした。RIビームファクトリー計画では、この仮説を実験的に再現するために、必要不可欠な未発見の放射線同位元素生成を目的として既存の加速器施設に新たに3基のリングサイクロトロンを建設し、すでにアルミニウムイオンやクリプトンイオンを使った多段式加速には成功していました。今回、計画の目標である、天然に存在する一番原子番号の大きい元素であるウランの加速に挑戦しました。


2.ウランイオンビームの加速実験方法と結果

今回のウランイオンの加速は、次のようにして行いました(図1)。
1)ECRイオン源(ECRIS)で、ロッド状の金属ウランから取り出したウラン原子をプラズマ状態にして、ウラン-238の35価のイオンを生成
2)生成したイオンを線形加速器(RILAC)で核子当り0.67MeV(光速の4%程度)まで加速
3)理研リングサイクロトロン(RRC)でさらに核子当り11MeV(光速の15%)まで加速した後、炭素薄膜を通過させてイオンの電子の一部を剥ぎ取り71価に変換
4)71価になったイオンを固定加速周波数型リングサイクロトロン(fRC)で核子当り50MeV(光速の30%)まで加速した後、また炭素薄膜を通過させてイオンの電子の一部をさらに剥ぎ取り86価に変換
5)86価のイオンを中間段リングサイクロトロン(IRC)で核子当り114MeV(光速の45%)まで加速
6)世界最大の超伝導リングサイクロトロン(SRC)で核子当り345MeV(光速の70%)まで加速
7)ビーム発生をSRCの直後に設置したビーム電流値及びビームの断面形状を計測する検出器で確認

 加速エネルギーは、目標値を達成しましたが、ビーム強度は初めての挑戦ということもあって、最終目標に比べてまだまだ微弱なものでした。今後、さらに調整を進め、世界一のビーム強度を誇るビームを出すよう取り組みます。世界では、ドイツ重イオン国立研究所(GSI)のシンクロトロン加速器において、ウランイオンビーム加速の実績がありますが、4基のリングサイクロトロンで多段式にウランイオンビームを加速したのは、今回が初めてのことです。


図1 ウランイオンの加速

 ※添付資料を参照


3.今後の期待

 ウランイオンビームは、RIビームファクトリーにとって最も重要なビームの一つで、これにより大きく原子核の世界を広げることができます。
 RIビームを生成する反応は、主に2種類あります。一つは、世界の研究所で従来から利用されている「入射核破砕反応※4」で、もう一つは、ウランビームを用いた「核分裂反応※5」です。核分裂反応を用いると、元素番号20(カルシウム:Ca)から60(ネオジウム:Nd)に至る元素の原子核で中性子が過剰な放射性同位元素(RI)を大量に生成することができるようになります。例えば、ニッケル-78原子核の生成能力は、核分裂反応と入射核破砕反応で比較すると、約1,000倍も核分裂反応が優れています。
 ウランイオンビームを用いてRIビームを生成すると、核分裂反応と入射核破砕反応が同時に起きるため、特に元素番号20から90(トリウム:Th)までの広い範囲のRIビームを効率良く生成することができます。このウランビームの有効性に着目して、ドイツやアメリカなどで次世代のRIビーム施設の建設計画が進んでいますが、理研のRIビームファクトリーはこの次世代RIビーム施設の先鞭をつけたことになります。
 ウランイオンビームにより、核図表※6が大幅に拡大されるだけでなく、強力かつ豊富なRIビーム生成が可能となり、ウランまでの元素が超新星爆発時にどのように創られたのか、そのメカニズムにも密接に関係する中性子過剰なRIの特異な現象・性質の解明など、世界の研究者が切望するさまざまな研究を展開することができます。
 このように、ウランイオンビームは原子核研究の可能性・将来性を格段に広げる重要なツールであり、今後、その中心的役割を日本のRIビームファクトリーが担うことになります。


<補足説明>

 ※添付資料を参照

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