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ニュースリリースのリリースコンテナ第一倉庫

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2025'12.06.Sat
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2006'11.27.Mon
 東京大学で10月27日、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)の第5回月例研究会が行われた。テーマは「ゲーム世界観の作り方とその実践」。株式会社ベックの芝村裕吏氏が講演を行い、ゲーム世界観の捉え方や、世界観構築の実例などについて語った。

 ゲーム開発の大規模化に伴い、日本のゲーム開発シーンの中でも「顔の見える」開発者やゲームデザイナの数は減少している。芝村氏はその中でも「名前でゲームが売れる」数少ない存在である。「無名世界観」の提唱者でもあり、「高機動幻想ガンパレード・マーチ」「ガンパレード・オーケストラ」「式神の城」「絢爛舞踏祭」「Aの魔法陣」(TRPG)など、ジャンルを越えて同一の世界観に基づく作品を発表している。

 はじめに芝村氏はテレビゲームにおける世界観の特殊性と、その一般化の経緯について語った。

 世界観とは本来は哲学用語で、世界についての統一的な見方・考え方の意味となる。19世紀に近代哲学が成熟する過程で、個人が社会を認識する概念として発明され、唯物論や観念論などは、その代表例である。現在ではこれが転じて、映画や小説、漫画などの世界設定であったり、コンセプトを示す言葉として定着している。

 芝村氏も「ゲームの世界観」とは、ゲームにおける世界設定のことである、とはじめに定義。しかしゲーム特有の「ハードウェアの限界」という事情により、世界観という用語の成立と定着が他のメディアとは異なっていたと述べた。

 おそらく世界観という言葉がゲームシーンで最初に使われるようになったのは、「ゼビウス」あたりだと思われるが、当時はハードウェアの限界から、クリエータの表現マインドの一部しかゲーム中で表現できなかった。その補完としてイメージイラストや小説などのサブテキストが提供され、クリエータの表現欲求と、世界観をもっと楽しみたいという一部のユーザニーズを充足させていた。

 つまり、当時はクリエータが本当に表現したかったものはゲーム中には存在せず、クリエータの心の中にしか存在しなかった。この状況に飽き足らなくなった一部のユーザが、限られた表現内容やサブテキストなどから、作者の心に思いをはせるようになった。それが転じて「世界観」という言葉がゲーム雑誌上で用いられるようになり、「世界観を消費して楽しむ」という行為が生まれるようになる。このように芝村氏によれば「ゲーム世界観」とは、開発者とユーザの共同正犯として誕生した、というわけだ。

 また80年代後半には、この「世界観」を効率的にユーザに伝える手段として、RPGという装置が発明されたことで、世界観をキーワードにしたゲームが大量に発売されることになる。実際はシューティングゲームやアクションゲームなど、他のジャンルにも世界観に優れたゲームは存在した。しかし限られたハード性能の上で、効率的に世界観を提示する手段としてRPGは適していた。ここでいう「世界観」とは「作者の心の中にあるもの」であり、「世界設定」とは世界観を他人に提示する道具であり、手段となる。

 しかし、テレビゲームの技術進化が急速に進むにつれて、今やクリエータの表現したい内容がすべてゲーム内で表現できる時代を迎えた。芝村氏によると、欧米のゲーム開発においてこの傾向は顕著であり、結果として「作者に思いをはせる」隙間がゲームから失われていく傾向にあるという。一方でグラフィック性能の向上に伴い、新しい世界設定をゼロから構築するコストが増加した。その結果、大規模プロジェクトほど、戦争モノや歴史モノなど、既存の設定資料が流用できる例が増える傾向にある。

 芝村氏はこの現状を、技術の進化に伴ってゲームのステージが上がり、ゲームの楽しみ方が変わったためと整理した。その上で世界観という概念におもしろさを感じるユーザは、日本の、特に高年齢層に多いと述べ、国内市場の1セグメントに特化したジャンルとして、世界観主体のゲームビジネスは生き残ると指摘。ゲームを元にウェブやインターネットで作者とユーザが直接コミュニケーションする、などのアイディアを述べた。

 第二部では、実際のゲーム開発におけるゲーム世界観の構築例について、「芝村流」講義が行われた。

 まず芝村氏はゲーム開発における作業序列を、川の流れにたとえて説明した。川の上流では川幅は狭いが、流れは速い。下流になると川幅は広くなるが、流れは遅くなる。これをゲーム開発に当てはめると、川幅は作業人員で、流れの速度が作業の重要度となる。企画や世界観構築などは上流、開発工程は中流、デバックなどが下流。その上で重要なのは、川の流れが逆流しないように、ゲームの開発工程においても、上流のミスを下流で挽回するのは非常に難しいとした。

 たとえば一般的にゲーム開発の工程は、「発起」→「企画」→「システム設計(仕様)」→「開発作業」→「デバック」となり、世界観設定はその中でも上流過程、だいたい企画の前段階に位置づけられるという。これがゲームが開発終了に近づいたところで、後付の世界設定をすると、たいてい失敗すると指摘した。これは芝村氏が過去100本近くゲーム開発に携わった中で得た実体験だという。

 次に芝村氏は自身の世界観構築の方法論について説明した。そこで最も重要なことは、ゲーム開発はビジネスであり、世界観構築においてもその原則から逃れることはできないとした。オリジナリティとはリスクのことであり、この原則は商品開発においても、また世界観においても当てはまる。確かに「オリジナリティ」の定義は難しいが、「リスク」と言われると非常にわかりやすい。

 芝村氏によると、ゲームビジネスにおいて利益を出す方法は、「独走する」か「模倣する」の2種類しかなく、この割合は状況に応じて変動するが、だいたい1:20だという。この割合はジャンルの設定や世界観の構築、ゲームシステム、グラフィックなど、すべてに当てはまる。そもそも人間というハードウェアに、ゲームというソフトウェアを売ることを考えると、求められる独創性の幅は自ずと決まってくる。手が6本ある美少女キャラは、確かに独創的だが、売れないというわけである。

 これらを念頭におくと、ジャンルも自ずとして決まってくる。芝村流に言えば「今まで誰も遊んだことのないようなゲーム」とは、最もリスクが高いというわけだ。ジャンルが決まったところで、ようやく世界観の構築に入る。ちなみに、キャラクタゲームではこの順序が逆になり、世界観にあわせたジャンル選択が求められる。これは作業工程の逆流を意味しており、過去にキャラクタゲームに凡作が多い理由の一つだという。

 次に芝村氏は、実際の世界観構築における作業を「立ち位置の決定」「キーワード作成」「考証作業」「評価試験」の4段階にわけて説明した。

 世界観構築においても、まずはじめに行うことはジャンルの決定同様に、自分の立ち位置を決めることである。これらは企画やゲームシステムなどによっても変わる。企画やゲームシステムが平凡な場合は、世界観で独創性を出す場合もあるし、その逆もまた然りという具合だ。また芝村氏は世界観は複数で構築すると、お互いの意識共有が難しいので、この段階では一人で行う方がベターだと述べた。

 ゲームデザイナなり、ディレクタなりの心の中で生まれた世界観が成熟してくると、次にそれを開発チームに伝える必要がある。ここで重要なのが「キーワードの活用」だ。いかに独創的な世界観を、できるだけ少ないキーワードに整理し、チーム内で一つの世界を共有できるか。実際に芝村氏が最もエネルギーをかけるところだという。一般にゲーム業界では、この共有感覚をうまく作り出せる人のことを、世界観作成の名人と呼び、センスや才能で片づける傾向にある。しかし芝村氏はゲーム業界に対する知識や市場の洞察力で、誰もが磨ける分野だとした。

 キーワードが出そろうと、次はキーワードの関連性や、矛盾点を解消する作業、いわばキーワードの肉付けを行っていく。世界設定の実作業となる段階であり、一般的に「考証作業」と呼ばれる過程である。メインとなるデザイナや、システム開発者とのキャッチボールで考証が進むことも多いという。これを実際のゲーム開発に必要なだけ繰り返す。昔はハードの表現能力が低かったため、無駄となる世界設定も多かったが、今では特にグラフィック関連の設定が増えたため、作業量が増加する傾向にある。

 この世界設定が終了しないと、実際の開発作業には移れない。そのため世界観設定を短縮することが、プロジェクトの期間短縮に繋がり、販売上の機会損失も最小化できる。そのため前述のように海外の大規模開発では、史実などをテーマにする例が増えていること。また芝村氏の場合は、最初に大量に考証作業を行い、複数のゲームで世界観の再利用を行っていると述べた。またグラフィックのテイストは陳腐化しやすいが、文章は日持ちがよく、変更も容易で、誰でも作成できるため、世界設定はテキストベースで行う方がベターだとした。

 最後にできあがった世界設定は、デザイナやプログラマ、システム開発者などからチェックを受ける。これが「評価試験」である。作業工程からいえば、これも最初に厳重なチェックを受けた方が、後のトラブルを減少させられる。時にはこの段階で、ターゲットユーザへのグループインタビューや、宣伝担当とのミーティングなどを行い、修正が行われることもあるという。また、時には特殊なゲームシステムを軟着陸させるために、世界観が利用されることもあるとして、自身がゲームデザインを担当した「絢爛舞踏祭」の例を紹介した。

 最後に芝村氏は、世界観構築において最も重要なのは、ジャンルの選択と立ち位置の決定であり、具体的な考証作業は最悪、他の人間に任せることもできること。作品や世界観よりも大切なことは、ビジネスであるという認識を持つこと。その上で作者が見ようとしていた世界観が何かを探求することは、ゲーム研究の分野でも重要ではないかと指摘し、講演を終えた。
(RBB TODAY) - 10月30日
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