独ベーリンガーとファイザー、COPD治療薬「スピリーバ」の軽症COPD患者に対する肺機能改善を実証
COPD治療薬スピリーバ(R)、軽症COPD患者の肺機能を有意に改善
-早期段階のCOPDへのスピリーバ(R)の有効性をプロスペクティブ(前向き)に検証した初の試験-
-成人の概ね10人にひとりが罹患しながら多くが未診断との実態がある中で重要な知見-
2006年9月5日 ドイツ、ミュンヘン
軽症のCOPD患者をスピリーバ(R)(一般名:チオトロピウム)群とプラセボ群に割り付けた比較試験で、スピリーバ(R)投与群に有意な肺機能の改善が見られたとの成績が示されました。この試験成績は、このほどミュンヘンで開催されている第16回欧州呼吸器学会(ERS)年次総会で発表されたものです(*1)。幅広い重症度のCOPD患者の中でも特に、軽症COPD患者に焦点を絞って実施された、初めてのプロスペクティブ(前向き)な臨床試験です。
スピリーバ(R)は1日1回吸入で有効性を発揮する革新的な長時間作用型抗コリン薬で、COPDの臨床経過に良好に介入し、疾患を伴う患者の生活の改善に寄与します(*2,3)。COPD治療剤として、世界で最も多く処方されている薬剤です。
当試験の主任研究者で、スウェーデンのウプサラ大学公衆保健・介護科学科に所属する臨床医のグンナー・ヨハンソン医師は、「なるべく早期の段階で比較的軽症なCOPDを診断し有効な治療を施すことは、長期に及んでの病態の悪化、また合併症の発症を防ぐのみならず、患者の活動的な生活を維持する上でも非常に重要な意味を持ちます」と述べました。更に加えて、「試験の結果は、軽症COPD患者にもスピリーバ(R)による治療が大いに有益であることを示唆するものでした」と、見解をまとめています。
試験は224人の軽症COPD患者(スウェーデンの重症度スケールに基づく:FEV1/FVC70%未満)を対象に、プラセボ対照無作為割付二重盲検で12週にわたって実施されました。試験結果は、FEV1(※)やFVC(※)などの指標から、スピリーバ投与群ではプラセボ投与群と比べ有意な肺機能の改善が見られたことを示すものでした(*1)。肺機能の改善度は、中等症から重症のCOPD患者にスピリーバ(R)を投与した場合と同等でした。
(※)FEV1(努力性呼出1秒量)は、思い切り息を吸ってから強く吐き出したときの最初の1秒間で吐き出せる息の量を意味し、息を吐くときの空気の通りやすさを示す指標です。FVC(努力性肺活量)は、思い切り息を吸ってから強く吐き出したときの吐き出せる空気の量を意味します。それぞれスパイロメトリーという、侵襲の無い簡便な検査で測定することが出来ます。
試験結果は、スピリーバ(R)がプラセボと比較して:
・ 服薬直後0-2時間のFEV1-時間曲線下面積(AUC0-2h)を有意に8.4%改善した(p<0.0001)
・ トラフ(次回服薬直前で薬物濃度が最低となる時点)でのFEV1を有意に6%改善した(p<0.0001)
肺機能の改善は、最初のスピリーバ(R)投与から30分で顕著に見られ、その後は1日中(24時間)、試験期間の12週にわたり持続しました(*1)。
COPDは徐々に進行する呼吸器系の疾患で、この患者では肺機能が低下し、慢性の呼吸困難(息切れ)に苦しむようになります(*4)。早期段階のCOPD患者では、症状が他の原因と結び付けられる(例えば息切れが加齢によるものとされる)ことなどで、診断がきちんとなされているとはいえません(*5)。世界では現在でも6億人がCOPDに罹患していますが、今後も更に罹患率が増加し、死亡原因としても2020年には世界で第3位にまで上昇することが懸念されています(*6,7)。最新のグローバルの解析では、概ね10人にひとりがCOPDに罹患していると推計されています(*8)。しかしながら、米国では50%、欧州では75%近くまでが、COPDに罹患しながら診断されていません(*9-10)。
「COPDは患者個人に、そして社会に重大な悪影響を与えていますが、早期段階で有効な治療を受けることの重要性については、未だほとんど知られていないのが現実です。今回の試験結果から、早期段階のCOPDでも治療による肺機能の改善を見られることが明らかになりました。早期の治療介入は、患者の活動レベルおよび生活の質(QOL)を高レベルで維持するという、治療の本来的な目的を達成する上で重要性が高いことがわかります」と、英国肺基金のスポークスパーソン、マイク・モーガン氏は見解を述べました。
■ スピリーバ(R)(一般名:チオトロピウム)について
スピリーバ(R)はベーリンガーインゲルハイムが発見・開発し、日本を含めグローバルでファイザー社とコ・プロモーションを展開する、1日1回吸入型の革新的な気管支拡張薬です。COPDによる慢性の気流制限は、強く息を吐こうとする時に余分な空気を肺に封じ込んでしまいます。「エア・トラッピング」として知られるこの状態が息切れの主な原因となり、階段を上ったりシャワーを浴びたりといった日常活動を制限しますが、スピリーバ(R)はこのエア・トラッピングを改善することで、患者の日常生活での障害を改善します。
スピリーバ(R)は2002年6月に欧州5カ国(デンマーク、フィンランド、ドイツ、オランダ、スウェーデン)で新発売されました。日本では2004年10月22日に「COPDの気道閉塞性障害に基づく諸症状の緩解」を効能・効果として輸入承認を取得、その後、12月8日の薬価収載を待ち同年12月10日に発売されました。2006年4月現在では米国を含む計80カ国以上で販売されています。なおスピリーバ(R)の2005年のグローバルでの売上は10億米ドルを超え、ベーリンガーインゲルハイム初のブロックバスター製品となりました。現在、25,000人の患者を被験者として、広範な臨床試験が実施されています。また、スピリーバ(R)はGOLD(※)や日本呼吸器学会によるCOPD治療ガイドラインなど主なガイドラインで、COPDに定期的に使用する治療選択肢として推奨されています。
スピリーバ(R)は吸入用カプセルで、専用開発されたハンディヘラー(R)という器具を用いて吸入します。日本ベーリンガーインゲルハイムとファイザーは、スピリーバ(R)の適正使用の推進を目的に、専用吸入用器具ハンディヘラー(R)の使用法を紹介したホームページ「SpiNet( http://www.spinet.jp/ )」を開設しています。
(※)Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease:慢性閉塞性肺疾患の診断、管理、予防のグローバルストラテジー:世界的にCOPDへの意識を高め、予防と治療を向上させる目的で、米国国立心肺研究所(NHLBI)と世界保健機構(WHO)が共同で推進するプロジェクト
■ 肺の生活習慣病COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:慢性閉塞性肺疾患)について
スピリーバ(R)が適応とするCOPDは、徐々に進行する呼吸器系の疾患です。現在、全世界でCOPDにより死亡する患者数は年間で275万人にのぼり、死亡原因の順位としては第4位(1999年)にあります。COPDは患者の肺機能を著しく低下させ、やがては日常生活に支障をきたすまで障害は悪化し、更に進行すれば死亡に至らしめます。
COPDの初期には症状は起こりにくく、症状として体動時の息切れ、慢性的な咳、痰などがあらわれた時点では、しばしば病状は進行しています。COPDの進行抑制と治療は可能ですが、そのためには、早期の診断と対策が重要です。COPDは通常、中高年から発症します。他の多くの疾病の管理が充実し健康余命が延びる中で、早期診断がなされないことによりCOPDの深刻さは更に増していくと懸念されており、COPDの社会啓発の意義は深いものとなっています。COPDの主な原因は喫煙です。
日本ではNICEスタディと呼ばれる全国的な疫学調査により、500万人以上がCOPDに罹患していると推計されます。しかしながら、厚生労働省の患者調査(1999年)によれば、実際に治療を受けているのはそのうちの約21万人に過ぎません。
従来COPDは予防、治療の極めて難しい疾患として取り扱われてきました。スピリーバ(R)が世界的に医療現場で使用されるようになって以来、労作時の息切れの改善とそれによる運動耐容能ならびに生活の質(QOL)の向上が得られるようになりました。いまやCOPDは治療可能な疾患として、積極的な医療対応が望まれるようになってきています。
■ ベーリンガーインゲルハイムについて
ドイツのインゲルハイムに本拠を置き、全世界47カ国に143の関連会社を持つベーリンガーインゲルハイムグループは、1885年の設立以来、革新的な医薬品を世に送り出してきました。2005年度にはおよそ95億ユーロ(約1兆3,000億円)を売り上げ、世界でトップ20の製薬企業の一つとなっています。同社は2005年も引き続き、医療用医薬品売上高のほぼ5分の1を研究・開発に投資しました。詳細な情報は: www.boehringer-ingelheim.com (Boehringer Ingelheim)、 www.boehringer-ingelheim.co.jp (日本ベーリンガーインゲルハイム)からご覧いただけます。
■ ファイザーについて
米国ニューヨークに本拠を置き、世界150ヶ国以上に医薬品を供給しています。2005年度の全世界の売上は約513億USドルでした。特に中核事業となる医薬品事業部門では、循環器系、精神・神経系、感染症・アレルギー系、泌尿器系、筋骨格系、眼科、癌、内分泌系と、疾患領域を幅広くカバーしています。
ファイザーについての詳細情報は: www.pfizer.com (Pfizer Inc.) www.pfizer.co.jp (ファイザー株式会社)からご覧いただけます。
<References>
*1. Johansson G, Lindberg A, Romberg K, et al. Bronchodilator efficacy of tiotropium (TIO) in patients with mild COPD. Poster presented at ERS, Tuesday 5 September 2006.
*2. Casaburi R, Kukafka D, Cooper CB, et al. Improvement in exercise tolerance with the combination of tiotropium and pulmonary rehabilitation in patients with COPD. Chest 2005; 127:809-817.
*3. Vincken W, van Noord JA, Greefhorst APM, et al. Improved health outcomes in patients with COPD during 1 year's treatment with tiotopium. Eur Respir J 2002; 19:209-216.
*4. Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease. Global Strategy for the Diagnosis, Management and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease. Executive Summary. GOLD website ( http://www.goldcopd.com ). Updated 2005.
*5. Halpin DM. Chronic obstruction lung disease. 2001. London: Mosby.
*6. World Health Organization. World Health Report 2004. Statistical Annex. Annex table 2 and 3: 120-131.
*7. Murray CJL, Lopez AD. eds. The Global Burden of Disease: a comprehensive assessment of mortality and disability from diseases, injuries, and risk factors in 1990 and projected to 2020. Cambridge; Harvard University Press; 1996.
*8. Halbert RJ, Natoli JL, Gano A, et al. Global burden of chronic obstructive pulmonary disease: systematic review and meta-analysis. Eur Respir J 2006; 28:1-10
*9. Centers for Disease Control and Prevention. Surveillance Summaries, August 2, 2002. MMWR: 51 (No SS06). http://www.cdc.gov/mmwr
*10. Rudolf M. The reality of drug use in COPD: The European Perspective. Chest 2000; 117(suppl): 29S-32S.