古河電工、イットリウム系高温超電導ケーブルで交流損失を低減する技術を開発
イットリウム系高温超電導ケーブルで、世界最小の交流損失を達成
~1kA通電で交流損失0.05W/mを確認、
CVケーブル比50%以下の送電損失に目途~
古河電気工業は、次世代超電導ケーブルの開発に向けた重要課題の一つである、交流損失を飛躍的に低減する技術の開発に成功し、現用の電力ケーブルの1/11(約9%)の交流損失に相当する、1kAの通電で0.05W/mという世界最小の交流損失の達成を確認しました。
この成果は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から財団法人国際超電導産業技術研究センター(理事長:荒木浩)超電導工学研究所(所長:田中昭二)等が受託した「超電導応用基盤技術研究開発プロジェクト」(プロジェクトリーダー:塩原融超電導工学研究所副所長)において達成したものです。今回の技術開発にあたっては、財団法人国際超電導産業技術研究センター超電導工学研究所が研究のとりまとめ、中部電力株式会社がイットリウム超電導線の試作、古河電気工業がイットリウム線材の後加工とケーブルの開発・製作、横浜国立大学がケーブル設計支援(解析)と交流損失の評価を実施しました。
■開発の背景
高温超電導ケーブル(注1)は、大容量の電力を低損失で送電することが可能であることから、従来技術では実現し得ない革新的ケーブルの実現を可能とする共に、省エネ・CO2削減に大きく貢献できると期待されています。超電導材料には、マイナス270℃まで冷やさないと超電導状態にならない低温超電導材料(金属系超電導材料)と、マイナス196℃(液体窒素温度)まで冷やせば超電導状態になる高温超電導材料とがあります。本プロジェクトにおいては次世代高温超電導材料とも呼ばれる「イットリウム系超電導材料」を超電導ケーブルに適用するための要素技術開発を進めており、導入メリットをより顕著とするための交流損失低減の技術開発で大きな成果を得ることができました。
超電導ケーブルに交流電流を流すと超電導線における微小な損失により僅かな熱が発生するため、温度上昇を抑えるための冷却が必要となります。交流損失が大きいと熱の発生も大きくなるため、大型の冷凍機を用意しなければならず、経済性を損なうこととなるため、交流損失の低減は重要な研究課題とされてきました。高温超電導ケーブルの開発としては、ビスマス系超電導線材(注2)を用いた超電導ケーブルの開発が先行して進められてきており、現用の電力ケーブル(100MVA級CVケーブル)の交流損失0.54W/mの半分の値に近い約0.3W/m(通電電流1kA)まで交流損失の低減を実現しておりました。
■開発品の特徴
今回の超電導ケーブルの開発は、中部電力株式会社がCVD法(注3)により開発したイットリウム系超電導線材(注4)を用い、古河電気工業が新たに開発したイットリウム超電導線材の低損失化技術(細線化処理技術(注5))及びイットリウム系超電導ケーブルの交流損失増加の原因となっていた垂直磁界を抑えたケーブル構成技術を組合せて、有効長30cmの超電導ケーブルを作成し、横浜国立大学 雨宮尚之教授のグループによる交流損失の評価(電気的方法)を行いました。この結果、世界最小の交流損失を達成していることが確認され、その他の損失や冷凍機の効率を考慮したケーブルの全損失(送電損失)としては、現用のCVケーブルに比べて50%以下に低減できる目途がつきました。
古河電気工業の試算(注6)では、2015年から超電導ケーブルが市場に本格的に投入されるとした場合、2030年にはCO2の排出量として年あたり約400千トンの削減量となります。今回、イットリウム系線材を用いた超電導ケーブルの優位性を確認できたことから、将来の実用化を目指してイットリウム系超電導ケーブルシステムの開発をさらに進めていく予定です。
■用語解説
(注1)高温超電導ケーブル:
超電導ケーブルは、液体窒素温度(マイナス196℃)で超電導状態となる高温超電導線材を電流が流れる導体に使用することにより、小さな断面積で大電流を、低損失で流すことができることから、現用の送電用ケーブルと比較して軽量かつコンパクトな大容量送電線を実現することが可能です。そのため、既存のケーブルを超電導ケーブルに置き換えることで、地下ケーブルトンネルを増やすことなく、送電容量を上げられることができ、また送電容量当たりのコストの削減が可能となります。高温超電導ケーブルの構造は、フォーマと呼ばれる芯にテープ状の高温超電導線を多数本螺旋上に巻きつけ、更にその上に、電気絶縁層、超電導シールド層、保護層を設けることでケーブルコアを形成しており、そのケーブルコアを断熱管の中に収納したものです。
高温超電導ケーブルの冷却には、液体窒素冷却システムが必要ですが、今回開発したイットリウム系超電導ケーブルでは、設計ではビスマス系超電導ケーブルに比べて冷却システムを半分の大きさにすることができ、その設置間隔も長くすることができます。そのために、システム全体として低コスト化が達成でき、超電導ケーブルの適用範囲も広がると考えられます。
(注2)ビスマス系超電導線材:
ビスマス、ストロンチウム、カルシウム、銅等からなる酸化物超電導材料を銀パイプに充填して伸線し、この線を多数本束ねてさらに伸線を行い、圧延と熱処理を繰り返してテープ状にした超電導線材で、液体窒素温度(-196℃)において超電導状態となります。単長1500mの線材がすでに商用化されています。
(注3)CVD(Chemical Vapor Deposition)法
原料となる超電導物質をガス状態で供給し、これを基板表面で反応させることで、結晶軸を同じくする方向で超電導結晶を生成する方法です。
(注4)イットリウム系超電導線材:
IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法にて中間層を成膜したテープ状金属基板上に、イットリウム、バリウム、銅等からなる酸化物超電導材料を結晶合成させながら成膜した超電導線材で、液体窒素温度(-196℃)において超電導状態となります。その特性としては、ビスマス系超電導線材に比べて、電流密度が10~100倍で、磁場中でも特性低下が少なく、また交流損失も小さく液体窒素で使用可能な最も性能の高い超電導線材です。
(注5)細線化処理技術
イットリウム線材は10mm幅で製造されますが、超電導ケーブルの場合交流損失を低減するためには、フォーマに馴染ませて巻くために細く分割する必要があります。古河電工ではレーザを用いて線材を分割する方法で、ほとんど線材の性能を劣化させることなく線材幅を2mmまで細く切り分ける技術を開発しました。
(注6)CO2削減量の試算
<試算条件>
現用ケーブル(古河電気工業品):
500MVA送電線で60%負荷率で送電しているときの1kmあたりの送電損失 35kW/km
超電導ケーブル:
{断熱管ロス+交流損失×導体本数×運転電流値換算}÷冷凍機効率=(0.7kW/km+0.05kW/km×3×(2.7kA/1kA)2)÷0.1=17kW/km
超電導ケーブルの送電損失(現状比)=17kW/km/35kW/km= 48.6%
CO2排出原単位:0.372kg/kWh
2030年の超電導ケーブル予想導入量 6700km
<試算結果>
(CO2削減量)年間送電損失低減量 1,039,559,940kWh CO2排出量:392,953t