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2024'11.28.Thu
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2007'04.16.Mon

理化学研究所、特殊な細胞周期「エンドリデュプリケーション」を制御する遺伝子を発見

特殊な細胞周期「エンドリデュプリケーション」を制御する遺伝子を発見

- 植物細胞の大きさを決める機構を解明 -  


◇ポイント◇ 
 ●細胞核のDNA量が増加したシロイヌナズナ変異株を探索して解明 
 ●遺伝子を過剰に発現させると子葉の細胞が太って、芽生えが大きくなる現象を確認 
 ●細胞核のDNAを増やし大きな作物の開発が可能に 

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、国立大学法人お茶の水女子大学(郷通子学長)と日本女子大学(後藤祥子学長)との共同研究で、特殊な細胞周期のひとつである「エンドリデュプリケーション」を制御する遺伝子として「ILP1遺伝子」を同定しました。これは、理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)植物ゲノム機能研究グループ・植物ゲノム機能研究チームの松井南グループディレクターと吉積毅リサーチアソシエイトによる研究成果です。
 生物の体の大きさは、個体を構成する細胞の数と大きさで決められています。植物細胞では、核DNA量が多くなるほど細胞も大きくなることが知られています。1個の細胞中の核DNA量の増加は、核DNAが複製した後に細胞分裂が起こらない「エンドリデュプリケーション」という特殊な細胞周期によって起こります。研究に使用した実験植物(シロイヌナズナ)では、核のDNA量は基本が2C(核DNA量はC(シー)という単位で表します。2n(エヌ)※1である生物は2Cとなります。)ですが、花以外の器官の細胞ではエンドリデュプリケーションによって4Cから32Cと核DNA量が倍加します。しかし、エンドリデュプリケーションがどのようにして生じるのか、これまでほとんどわかっていませんでした。
 今回、核DNA量が増加するシロイヌナズナの変異株を探索して解析したところ、「ILP1」というタンパク質がエンドリデュプリケーションを促進していることがわかりました。さらに、このタンパク質は核内に存在して遺伝子の発現を抑える機能があり、ILP1タンパク質が「サイクリンA2遺伝子」の転写量を抑えることで、細胞周期制御に関わることが知られている「サイクリンA2タンパク質」の機能が減少し、エンドリデュプリケーションが促進されて核DNA量が増えることがわかりました。
 ILP1遺伝子が過剰に発現する植物では、一部の器官が大型化する現象が観察されます。このため、将来ILP1遺伝子を利用した作物の大型化にむけた育種への応用が期待されます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『The Plant Cell』(10月号)にされます。 


1.背 景 
 エンドリデュプリケーションは「細胞分裂が伴わないDNA複製」と定義付けられた、特殊な細胞周期の1つです(図1)。そのため、何回ものエンドリデュプリケーションが起こった場合、核のDNA量は基本の2Cから倍増するので、4Cや8Cといった倍化した核DNA量を持つ細胞が生まれます(図1)。このエンドリデュプリケーションは、ショウジョウバエや線虫、そして動物でも見られます。植物ではしばしば観察され、トウモロコシの胚乳では多いときには数百Cという核DNA量に達します。実験植物であるシロイヌナズナでも花以外の器官でエンドリデュプリケーションが観察され、核DNA量の増加と比例して、細胞も大きくなることが知られています。
 生物の大きさは、個体を構成する細胞の数と大きさで決まるので、エンドリデュプリケーションは生物の大きさを決める仕組みの1つなのかもしれません。しかし、エンドリデュプリケーションがどのように生じるのか、そのメカニズムはほとんどがわかっていません。そのため、このメカニズムを解明することが、生物の大きさを決める仕組みを理解することになり、さまざまな利用も可能となります。  

2.研究手法と成果 
 研究チームは、エンドリデュプリケーションが観察しやすいシロイヌナズナを利用して、核のDNA量が多くなる変異株を探索し、そのような表現型が優性に現れる変異株(ilp1-1D)を見つけました(図2A)。変異株ではタンパク質(ILP1)をコードする遺伝子が過剰発現していたので、この遺伝子がエンドリデュプリケーションを促進する働きを持つことがわかりました。また、核DNA量の増加と比例して、芽生えも大きくなることが観察されました(図2B)。
 エンドリデュプリケーションも細胞周期の1つであるため、これまでに解析が進んでいる細胞周期に関わる遺伝子の発現を変異株(ilp1-1D)で調べました。その結果、エンドリデュプリケーションを抑制する働きがあると考えられている「サイクリンA2タンパク質」をコードする遺伝子の1つであるサイクリンA2(CYCA2)遺伝子の発現が減少していることがわかりました。
 細胞周期を車に例えると、この場合では、CYCA2遺伝子はエンドリデュプリケーションに対してブレーキとして働きます。ILP1タンパク質は、CYCA2遺伝子によるブレーキ量を抑えることにより、エンドリデュプリケーションを促進する働きがあると考えられます。
 さらに、マウスやヒトでもILP1に似たタンパク質があることがわかりました。マウスでも同様の働きがあるか調べたところ、予想通りマウスのILP1タンパク質もマウスの培養細胞でサイクリンA遺伝子の発現を抑えることがわかりました。このことは、ILP1タンパク質によるサイクリンA遺伝子の発現抑制が植物のみならず、動物などでも使われていることを意味します。しかし、マウスの個体ではほとんどエンドリデュプリケーションが見られません。おそらく、マウスではILP1はエンドリデュプリケーション以外の細胞周期現象に関わっているのではないかと考えています。  

3.今後の期待 
 ILP1遺伝子が過剰に発現していた変異株(ilp1-1D)では、芽生えの細胞が大きくなりました。このことは、ILP1遺伝子の発現をコントロールすると、植物細胞を大きくすることが可能であることを意味しています。将来はILP1遺伝子を利用して、作物の大型化に向けた育種への応用が期待されます。例えば、トマトの実ではエンドリデュプリケーションが生じることが知られているので、ILP1遺伝子を使って大きなトマトを生み出すような品種改良が可能かもしれません。 


< 補足説明 >
※1 n(エヌ) 
 n(エヌ)は1組のゲノムに相当する染色体数を指す。シロイヌナズナは二倍体(細胞や核に2セットの染色体をもつ生物)なため2n(エヌ)となる。 

 
図1 体細胞分裂(左)とエンドリデュプリケーション(右)の模式図 
 体細胞分裂では、1回の細胞周期に対して一度のS期(DNA複製期)とM期(分裂期)があるため、細胞は4Cより多い核DNA量を持たない。それに対して、エンドリデュプリケーションではM期がなくなるため、核DNAが倍増していく。何回もエンドリデュプリケーションが生じることで、細胞核は4C、8C、そして16Cとなる。 
 (※ 関連資料を参照してください。)
 
図2 変異株(ilp1-1D)における表現型 
A 野性株(上)と変異株(下)におけるDNA量を示したヒストグラム。縦軸は測定した細胞数、横軸はDNA量を示す。変異株では16Cを示すピークが野性株に比べて増加している。 
B 野性株(上)と変異株(下)の芽生えの形態。変異株では野性株に比べて、子葉の面積が30%ほど広い。  
 (※ 関連資料を参照してください。)

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