花王、温熱シートの加温と軽い運動の併用による筋力・筋肉量の増加を確認
運動だけに比べ、温熱を併用すると、筋力と筋肉量が増加
~温熱シートによる加温と軽い運動の、筋肉への効果を検討~
花王株式会社(社長・尾崎元規)ヘルスケア第2研究所は、豊橋創造大学リハビリテーション学部の後藤勝正教授(聖マリアンナ医科大学非常勤講師)と共同で、温熱シート(40℃前後)による筋肉部への加温と軽い運動の併用が、適用部の筋肉にどのような影響を及ぼすかについて、検討しました。
今回の試験では、温熱シートがつけやすい・日常生活ヘの影響が出にくい・実験精度が高いなどの理由から、人の上腕の筋肉について調べました。片方の腕に温熱加温と軽い曲げ伸ばし運動を、比較のために反対の腕には軽い運動のみを、10週間継続して実施したところ、以下が明らかになりました。
腕を曲げるときの筋力を比較すると、運動だけの場合は筋力が11.5%アップしたのに比べ、運動に温熱を併用した場合は18.4%で、さらにアップしました。
筋力アップの原因を調べるため、腕を曲げる筋力の中心を担う上腕二頭筋の太さ(断面積)を測定したところ、運動だけの場合は0.3%増加でほとんど変化が認められなかったのに対して、運動に温熱を併用した場合は7.5%の増加が認められました。
上腕筋全体の太さ(断面積)を比較したところ、運動だけの場合は0.8%、運動に温熱を併用した場合は1.4%増加で、変化はわずかでした。この理由として、上腕二頭筋が占める断面積は上腕筋全体の約1/3程度であり、継続した運動が上腕二頭筋だけに負荷をかける曲げ伸ばし運動で他の筋肉はほとんど変化しなかったためと、推測されました。
以上より、温熱シートによる筋肉の加温と軽い運動の組み合わせで、筋肉が効率的に増強することが明らかになりました。また、温熱療法には、従来から知られている血行促進などの効果に加えて、加齢による筋肉の萎縮や筋力低下・高齢者の寝たきり防止策・健常者の筋肉強化などの一端につながる可能性があることが示唆されました。
本成果は、第52回日本宇宙航空環境医学会(2006年11月9~11日、米子)で発表しております。
■研究の背景
高齢化社会を背景に、関節周囲の筋肉の萎縮により転倒や骨折、関節痛が原因で寝たきり状態となる高齢者の増加が問題になっています。また高齢者のみでなく、運動が少なく、下肢の筋肉が衰えているといわれる現代人全般の問題もあります。こうした問題への対策は、従来は筋肉トレーニングや運動療法の組み合わせが中心でした。しかし、筋力向上にはある程度高い負荷での長期間トレーニングを必要とすることから、軽い負荷でも効率的に筋力を向上するトレーニング手法が望まれていました。
関節の痛みやこわばりを改善するための研究については、これまで花王では家庭用温熱パックによる加温の膝関節への効果を検討しています。その結果では、日常生活の中で温熱パックを用いて膝関節周囲を長時間・長期間温めると、痛みが緩和され、試験終了後もその効果が持続しました(花王ニュースリリース 2006年9月26日掲載)。緩和効果が持続した原因については、血行促進や痛み低減などの従来言われている温熱療法の効果に加え、痛みが緩和し生活活動度が上がることと、この加温による筋肉増強効果とが重なって関節周囲筋の筋力が強化されたことも要因の一つであると推測しています。
また、温熱刺激(38℃以上)により筋肉の増量が誘発される現象については、培養骨格筋細胞やラットを用いた研究があります(Goto et al., Pflugers Arch.,447: 247-253, 2003、 Kobayashi et al., Biophys. Biophys. Res. Commun., 331: 1301-1309, 2005)。しかし、人を対象とした同様の研究は行われていませんでした。
以上を背景に、筋肉の加温と適度な運動が筋肉に与える影響について、人による試験を実施しました。