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2024'11.25.Mon
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2007'05.01.Tue

理化学研究所と東大、極低温の基底状態にある反水素原子を効率的に生成する新手法を開発

冷たい「のろのろ反水素原子」の生成に新手法
- 自然のささやきに耳を傾ける第一歩 -


◇ポイント◇
 ●開発したカスプトラップ法は反物質の生成のみならず冷却にも有効
 ●基礎物理学で重要な「対称性」の高感度テスト実現に向けた新たな方法
 ●反物質研究が新たな段階へ


 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と国立大学法人東京大学(小宮山宏総長)の研究グループは、独自開発してきた「カスプトラップ法」という方法で、絶対零度に極めて近いミリケルビン領域という極低温の基底状態※1にある反水素※2原子を効率的に生成できることを明らかにしました。これは、基礎物理学で重要な“反物質研究”に新たな手法を提供することになります。この成果は、理研中央研究所山崎原子物理研究室の山崎泰規主任研究員(東京大学院総合文化研究科広域科学専攻教授)、永田祐吾ジュニア・リサーチ・アソシエイト(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻大学院生)と米国ハーバードスミソニアンセンターのThomas Pohl(トーマス・ポール)博士らの研究成果です。
 ビックバンから始まったと考えられている私たちの世界は、物質と反物質が等量存在するはずですが、広く宇宙を見渡してみても、“物質”ばかりで構成されているようです。この不思議な現状を理解するため、高エネルギー粒子による激しい衝突現象を用いて様々な研究が進められてきました。本研究では発想を逆にし、極低温の反水素原子を生成し、格段に高い感度と精度を実現して、“自然のささやき”に耳を傾けようとしています。
 最も簡単な反物質である反水素原子は、反陽子※3と陽電子※4から構成されていますが、これを空間の一点に固定し観察することは、反物質世界と私たちの物質世界を比較する研究、特に最も基本的な“CPT対称性※5”を研究する際に必須の実験技術です。しかし、“物質”である通常の中性粒子を真空中に捕まえることですら、最先端の技術を要します。これまでに報告された反水素原子の生成は、蓄積効果のない装置を用い、(1)反水素原子の消滅信号を検出することで、あるいは、(2)反陽子と陽電子にもう一度分解することで、それ以前に反水素原子が存在していたこと推測していたもので、反水素原子を直接観察したものではありませんでした。
 研究グループは、開発を進めているカスプトラップ法が、反水素原子の元となる反陽子と陽電子を安定に蓄積でき、これを高い効率で反水素原子に変換できるばかりではなく、絶対零度に近いミリケルビン領域という極低温に冷却・蓄積できることを示しました。これにより反水素原子の性質をゆっくりと時間をかけて観測できる環境が整ったわけで、自然界の大きな謎の解明に一歩近づくと期待されます。“生きた”反水素原子の研究は、まさに始まろうとしています。
 本研究の成果は、米国の科学雑誌『Physical Review Letters』11月24日号に掲載されます。


1.背 景
 最も簡単な反物質は、反粒子である反陽子(:ピーバー)と陽電子(e+:イープラス)が結合した反水素原子(e+)です。この反水素原子の性質を詳しく観測し、水素原子と比べることにより、私たちを取巻く物質の世界と、反物質で構成される世界が同じか違うか、さらに違うとすればどのように違うのか(物理学では、「対称性」と呼ばれます)を探ることが出来るようになります。このような対称性は、それ自身で大変興味深い基礎物理学の重要な研究対象ですが、同時に、私たちの住むこの宇宙がなぜ物質だけで出来ているのか、についての基本的な情報を提供すると期待されます。
 これらの謎に挑戦するため、研究グループは、大変冷たい“よたよた”状態の反陽子を大量に生成する方法を開発してきました。研究グループは、スイスのジュネーブにあるヨーロッパ原子核研究所(CERN:セルン)で、高周波4重極減速器(RFQD: Radio Frequency Quadrupole Decelerator)と多重電極トラップという装置を組み合わせ、従来の50倍から数百倍高い効率で低速反陽子を蓄積し、数ケルビンにまで冷却する手法を開発しました(平成16年11月2日プレス発表)。
 さらに研究グループは、この大量の反陽子を用いて反水素原子を効率的に生成し、水素原子と詳細に比較するため、平成14年に「カスプトラップ法」を考案し、その開発をすすめてきました。
 これまでの研究で、カスプトラップ法は、(1)使用する磁場が軸対称性を持っているため、反陽子、陽電子プラズマを安定に蓄積、かつ、操作可能で、(2)反水素原子を効率的に生成・蓄積でき、(3)スピン偏極した反水素原子をビームとして引き出せることが明らかになっていました。


2.研究手法と成果
 反水素原子冷却の原理は、以下のようなものです。
(1)カスプトラップは、ソレノイドコイル2個を同軸上に置き、電流の向きを逆にしたもので、中心でゼロとなる軸対称な磁場を形成します(図1)。この軸対称性のため、反水素原子の“原料”である反陽子と陽電子を高い密度で大変安定に蓄積できます。このことは、カスプトラップ法が他の反水素合成法※6より遙かに優れている点です。
(2)この様に高い密度の陽電子群と反陽子を混ぜ合わせると、いわゆる3体結合反応により、高い励起状態に反水素原子が生成されます。
(3)高励起状態にある反水素原子は、その状態に対応した高い磁気モーメントを持って(強い磁石になって)いるので、容易にカスプトラップの磁場に捉えられ、トラップ中で振動運動をします。
(4)この様に振動運動をしている反水素原子は、磁場の弱くなる中心付近では速く動き、振幅が最大になる磁場の強いところではほぼ止まっています。すなわち、反水素原子はほとんどの時間を大きな振幅を持った位置で過ごすことになります。さらに、低い励起状態への遷移の確率は磁場と共に大きくなります。この二つの効果が相俟って、低い励起状態への遷移はほぼ最大振幅のあたりで起こることになります。低い励起状態にある反水素原子の磁気モーメントは小さくなり、ポテンシャルエネルギーも小さくなり、結果的に冷却されるというわけです。
 今回の理論計算によると、例えば15ケルビンで形成された反水素原子は400ミリケルビンまで冷却できることが分かりました(図2)。これは、反陽子や陽電子の蓄積温度である液体ヘリウム温度(4ケルビン)よりはるかに低い温度への反水素原子生成が可能であることを示した初めての報告となっています。
 今回の研究は、カスプトラップ中での反水素原子の振る舞いを注意深く考察し、極低温基底状態にある反水素原子が生成できることを明らかにしました。このことは、当初の研究目的であるCPT対称性テストを大変高い精度で実現できるばかりでなく、反水素原子に陽電子が結合したイオン“反水素イオン(e+e+)”生成への道を拓きます。反水素イオン(e+e+)は、負の水素イオン(pe-e-)の反物質ですが、これは正に帯電しているので、様々なイオンと安定に混合することのできる初めての反物質となります。
 従って、例えば反水素イオンとアルカリ土類イオンを混合し、アルカリ土類イオンをレーザー冷却することでマイクロケルビン領域の反水素イオンを得ることも可能です。(原子物理研究室でも不安定ベリウム(Be)イオンのレーザー冷却に最近成功しています。)冷却の後、反水素イオンの陽電子一個をそっと剥がしますと、やはりマイクロケルビン領域にある極低温の反水素原子が生成されます。これは、反物質が物質である地球との重力相互作用、反物質のボーズアインシュタイン凝縮※7などこれまで想像の世界にあった研究を実現する第一歩となります。いくつもの未踏の領域を研究する基本的な技術を提供する極めて重要な装置として使えることがわかります。


3.今後の展開
 以上のように、本研究は、ミリケルビン領域の極低温反水素原子が効率的に生成できることを明らかにしました。これは反水素原子の蓄積を容易にすると共に、CPT対称性テストの実験精度を大幅に向上します。さらに、カスプトラップ中では反水素イオンが生成でき、レーザー冷却法と併用することにより、さらに絶対零度に近いマイクロケルビン領域の反水素原子生成も可能になります。これは反物質と物質の重力相互作用の実験的研究を初めて可能にするとともに、反物質のボーズアインシュタイン凝縮状態実現への道も拓けます。反物質研究が新たな段階に入ると言えます。


 ※ <補足説明>は添付資料を参照

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