清水建設、超長尺先受け工「ELPS工法」を道路トンネルの工事現場に初適用
超長尺先受け工「ELPS(エルプス)工法」がトンネル工事で初適用
―地表面変位の抑制や切羽の安定に、高い効果を発揮―
清水建設(株)<社長 野村哲也>がライト工業(株)、(株)エーティック、マック(株)と共同で開発した超長尺先受け工「ELPS工法」はこのほど、道路トンネルの工事現場で初適用されました。適用現場においては、長距離削孔を自在に方向制御できる本工法の特徴が十分に活用され、高精度な施工が計画どおりに完了。地表面変位の抑制や切羽の安定に高い効果が得られたことを確認できました。
ELPS工法は、トンネルの地山補強のために使われる支持鋼管の「先受け工」を、50mと従来の4倍以上に超長尺化。これを高精度に方向制御して削孔・打設するものです。本工法を使えば、切羽の安定や地表面の沈下抑制に高い効果を発揮できます。本工法は鉄道盛土の耐震補強工事で既に適用実績を上げています。
トンネル工事に本工法が初適用された現場は、岩手県発注の「一般国道455号(仮称)北山トンネル築造工事」(施工 前田建設工業・間組・梨子建設JV)です。本工法は、坑口付近のトンネル上部の地山補強に、使用されました。
地山補強にあたってはまず、超長尺の支持鋼管(長さ50m・外径140mm)を64本、60cm間隔で打設。次に、鋼管に一定間隔で設けた孔から薬液を鋼管周辺部分へ注入し、トンネル上部を固結しました。
施工場所は、土砂化した緑色岩の未固結地山で崩壊しやすい地質でしたが、本工法によってトンネル上部の地山が安定。次工程のトンネル掘削が、安全に行えるようになりました。
≪初適用現場で確認できた本工法のメリット及び技術的な特徴は、以下のとおりです≫
1.地表面変位の抑制や切羽の安定に高い効果
本工法は、先受け部分が従来の4倍以上長くなるため、地山の補強箇所がより安定します。今回の施工では、トンネル掘削時の地表面沈下量は、同条件下で従来工法を適用した場合に推定される地表面沈下量に比べて、約3分の1。地表面変位の抑制や切羽の安定に高い効果が得られました。
2.長距離削孔を高精度施工
今回の施工では特に、本工法の高精度な施工技術が威力を発揮。長距離削孔を自在に方向制御することで、計画線長さ50mに対するズレは±3cmの範囲に納まりました。
3.専用のジャイロ式計測器を搭載し、短時間で位置計測が可能
本工法の技術的な特徴の一つは、専用のジャイロ式計測器を搭載している点にあります。この計測器は、先受け工内部に挿入し、坑口から先端部までを往復させ、先端部を含む先受け工の位置を計測するもの。往復の際、止めることなく計測できるため、計測時間が50m約10分と、短時間で済みます。
本工法は続いて、九州の道路トンネル工事1件で採用が決まっており、当社は今後、さらなる普及に向けて、道路トンネルや鉄道トンネルなどの事業者らに対して、本工法の適用を積極的に提案していく予定です。
また本工法が様々な地質条件に適合できるよう、削孔ビットや施工システムを充実させ、適用条件の拡大を図る予定です。
以 上
≪参 考≫ELPS工法(Extremely Long Pre-Supporting Method )の概要
1.開発背景
近年、都市部のトンネル工事においては、コスト面から、NATM工法が採用される事例が増えていますが、土被りが浅い、未固結地山であるなど特有の条件から、トンネル掘削に先行して地山を補強する先受け工が使われることが多くなっています。また都市部に限らず、坑口付近のトンネル上部の地山補強には、通常は先受け工が使われます。この先受け工は通常、トンネル切羽前方上部の地山に直径120mm・長さ12mほどの鋼管を打設し、鋼管内部から地盤改良材を地山に注入し、切羽の崩壊や地表面の沈下を防ぐものです。
2.ELPS工法の特徴
本工法は、高精度の方向制御削孔技術の開発により、先受け工を50mと従来の4倍以上にしたのが特徴。本工法を適用すれば、超長尺化した先受け工が、切羽の安定と地表面沈下の抑制に高い効果を発揮します。
本工法では、超長尺先受け工を高精度で削孔・打設するために、2つの新システムを採用。(1)先端の削孔ビットを自由に方向制御できるシステム、(2)削孔部分の位置を計測できるシステムによって、削孔計画線からのズレを修正しながら施工します。
3.メリット
(1)削孔のズレが、長さ50mでズレ量30cm以内と、高精度。
(2)先受け部分が長くなるため、切羽がより安定。また、解析の結果ではトンネル直径10m、土被り20mの未固結地山の場合、従来工法に比べ地表面沈下を、10%~30%低減可能です。
(3)坑口付近のトンネル上部の地山補強にELPS工法を適用した場合には、先受け工とトンネル掘削を平行して行えるため、トンネル工事全体の工期短縮が可能です。