東工大と富士通研究所、シリコン基板上の光学結晶膜で赤外光伝播に成功
世界初!シリコン基板上の光学結晶で赤外光伝播を実現
~超小型の光通信デバイス実現に前進~
国立大学法人東京工業大学(注1)篠崎和夫(しのざきかずお)助教授グループと株式会社富士通研究所(注2)は、世界で初めて、シリコン基板上の光学結晶膜に赤外光を伝播させることに成功しました。今回の成果は、光変調器や光スイッチなどの光デバイスとシリコンLSIとを一体化した小型の光通信デバイスへの道を開くものです。
本技術は、将来の超小型光通信システムに向けて開発したもので、文部科学省の科学技術振興調整費、産学官共同研究の効果的推進(マッチングファンド)を利用して達成されたものです。
なお、本技術の詳細は、5月23日より京都で開催される第24回強誘電体応用会議(FMA-24)、および5月27日より奈良県で開催される強誘電体応用国際会議(ISAF2007)で発表します。
【 背 景 】
ユビキタス社会において、大容量で高速な光通信システムの小型化、低価格化がますます求められています。現状の光通信システムは、光信号を処理するデバイスと、電気信号を処理するシリコンLSIによるデバイスとを別々に製造し、組み合わせています。これら2種類のデバイスをシリコン基板上に一体化した小型の光通信用デバイスが実現すれば、光通信システムのさらなる小型化、低価格化が可能となります。
図1 赤外光伝播の確認実験
添付資料をご参照ください。
【 課 題 】
シリコン基板上に光スイッチや変調器などの通信用デバイスを実現するにあたっては、まず電気光学効果(注3)を持つ材料を基板上に形成し、その中に光を伝播させることが必要となります。すぐれた電気光学効果を持つ材料として、強誘電体(注4)であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛 (注5))が知られています。しかし、シリコン基板上に直接PZTの単結晶膜を形成すると結晶の乱れによる伝播損失が大きく、これまで光を伝播させることは困難でした。
【 技術の概要 】
今回、シリコン基板の表面に、3層構造(注6)の中間層を導入し、その上にPZT単結晶膜を形成しました(図1)。これによって、PZTとシリコンの反応や原子配列の乱れをおさえ、原子が規則正しく配列した高品質の強誘電体PZTの単結晶膜を形成する技術を開発しました。
【 効 果 】
(1)光通信で用いられる波長(1.55マイクロメートル)の赤外光で、PZT単結晶膜の伝播損失を、1センチメートル当り1デシベル(1dB/cm)以下と、従来の約10分の1にまで抑えることができました。さらに、シリコン基板上に形成した光学結晶膜に赤外光を伝播させることに、世界で初めて成功しました。
(2)電気光学効果の大きさを表す電気光学定数(注7)は、赤外光で1ボルト当たり76ピコメートル(76pm/V)の値を確認しました。この値は、現在光変調器として広く使用されているニオブ酸リチウム単結晶の約3倍です。
【 今 後 】
今回開発した結晶成長技術を利用し、各種の光デバイスをシリコン基板上に形成する技術の開発を進めます。
以 上
【 注 釈 】
注1:国立大学法人東京工業大学:学長 相澤益男、所在地 東京都目黒区。
注2:株式会社富士通研究所:代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
注3:電気光学効果:電圧を加えることにより屈折率が変化する性質。
注4:強誘電体:電圧を加えることで分極を反転させることのできる材料で、分極反転を利用したメモリや、圧電性を利用したアクチュエーターなどに利用されている。
注5:PZT(チタン酸ジルコン酸鉛):化学式はPb(Zr,Ti)O3。鉛とジルコニウムとチタンの複酸化物。強誘電体として代表的な材料であり、幅広い分野で利用されている。
注6:3層構造:SrRuO3(132nm)/ CeO2(52nm)/ Y-ZrO2(64nm)の3層から構成される。
注7:電気光学定数:加えた電圧量に対する屈折率の変化量を示す定数。数値が大きいほど単位電圧当たりの屈折率変化が大きくなる。
【 関連リンク 】
国立大学法人 東京工業大学
http://www.titech.ac.jp/
株式会社 富士通研究所
http://jp.fujitsu.com/group/labs/
【 本件に関するお問い合わせ 】
技術に関するお問い合わせ先
国立大学法人東京工業大学 大学院理工学研究科 材料工学専攻 篠崎研究室
電話: 03-5734-2518 (直通)
E-mail:info@sim.ceram.titech.ac.jp
株式会社富士通研究所 基盤技術研究所 新材料研究部
電話: 046-250-8362(直通)
E-mail:msl@ml.labs.fujitsu.com
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