ヤクルト、腸内フローラ解析システム「YIF-SCAN」を開発
最新鋭の腸内フローラ解析システム「YIF-SCAN」を開発
~グループダノンとの共同研究を拡大~
株式会社ヤクルト本社(社長 堀 澄也)では、最新鋭腸内フローラ解析システム「YIF-SCAN」(Yakult Intestinal Flora Scanの略、イフ・スキャン、なお、「YIF-SCAN」および「イフ・スキャン」は商標登録出願中です)を完成させました。「YIF-SCAN」は、2002年に開発したDNAを解析対象とする「全自動腸内フローラ分析装置」をさらに発展させた腸内フローラ解析システムであり、腸内細菌のDNAだけでなくRNAも解析対象とすることにより、これまでよりも格段に高い検出感度で腸内細菌を定量できます。
「YIF-SCAN」は、個々の腸内細菌が持つ特徴的な遺伝子配列(RNAとDNA)を目印として細菌を選択的に定量する斬新な当社独自のヒトの腸内フローラ(※1)の解析システムです。
この「YIF-SCAN」を使用することにより、従来のシャーレを用いた解析方法(培養法)に比べ格段に迅速・簡便・高精度な腸内フローラ解析が可能です。培養法では一人の研究員が1年かかる分量の腸内フローラ解析作業が、「YIF-SCAN」を使用すれば3日で終わらせることができます。
当社は、さらに、プロバイオティクス研究で提携しているグループダノンのダニエル カラソー リサーチセンター(※2)に、「YIF-SCAN」についての技術を供与します。今後、当社とグループダノンは、この「YIF-SCAN」システムを用いて、種々の腸内フローラ基礎研究とプロバイオティクス研究を行うとともに、「YIF-SCAN」を腸内フローラ解析法の世界標準法にすることも視野に入れて共同研究を拡大していきます。
なお、「YIF-SCAN」の詳細については下記のとおりです。
記
1.「YIF-SCAN」の詳細
「YIF-SCAN」は、ソフトウェア(操作マニュアルと腸内細菌の遺伝子配列情報)とそれを実施するためのハードウェアで構成されています。また、操作マニュアルとしては、2002年に技術完成したDNAを目印とする定量的PCR法(※3)と、この度新たに完成させたRNAを目印とする定量的RT-PCR法(※4)を含んでいます。
(1)ソフトウェア構成
「YIF-SCAN」には、細菌DNAを解析対象とする定量的PCR法と細菌中に多量に含まれているリボソームRNAを解析対象とする定量的RT-PCR法の各操作マニュアルと腸内細菌の遺伝子配列情報が含まれます。この遺伝子配列情報を用いて、約500種類と云われている腸内細菌のうち約300種程度の腸内細菌を把握できます。
(2)ハードウェア構成
ハードウェアとしては、〔1〕核酸自動抽出装置(糞便に含まれる細菌からRNAまたはDNAを抽出するための装置)、〔2〕試薬分注装置(細菌から抽出したRNA/DNAや解析に必要となる試薬を解析用のプレートに取り分ける装置)、〔3〕DNA増幅・検出装置(定量的PCR/RT-PCR法により増幅したDNAを検出する装置)の3装置を用います。
(3)主な特長
〔1〕定量的RT-PCR法では、DNAの1000倍以上存在するリボソームRNAを解析対象にしていますので、DNAを解析対象とする定量的PCR法より1000倍も検出感度が向上し、腸内フローラ中の菌数レベルが低い菌種も定量できるようになりました。
〔2〕さらに、定量的RT-PCR法では、腸内細菌の生菌のみを精度よく定量することができます。ただし、定量的RT-PCR法では今のところ菌株レベルの解析が難しいのに対して、定量的PCR法では菌株レベルの解析ができるため、ヒト投与試験でのプロバイオティクス菌株の定量には定量的PCR法を用います。
〔3〕YIF-SCANでは熟練した技術は不要で、研究者による実験誤差が極めて少なく、嫌気培養操作※5も不要です。
〔4〕現在の分子生物学的分類体系に対応した遺伝子レベルでの正確な分析結果が得られます。
〔5〕汎用性が高く、病原菌や土壌細菌等、あらゆる微生物の定量に応用可能です。
2.グループダノンへの技術供与について
当社は、グループダノンと2006年12月に「腸内フローラ解析技術の使用許諾に関する覚書」を取り交わし、「YIF-SCAN」技術をダノン社に技術供与することを合意しました。
「YIF-SCAN」はフランスのダニエル カラソー リサーチセンターに設置し、同装置の設置および技術供与協力のため、当社中央研究所の研究員1名を2007年6月に同研究所に派遣する予定です。
今後、「YIF-SCAN」を使った両社の共同研究を広げていく考えです。
3.「YIF-SCAN」と腸内フローラ研究
今後、YIF-SCANを用いてプロバイオティクスがヒトの腸内フローラと健康にどのような影響をもたらすのかをこれまで以上に精密に解析してゆきます。
そればかりでなく、世界中の研究機関との協力関係をつくり、世界の色々な民族(地域・人種)間の腸内フローラの違い、小児から老人までヒトの成長過程(加齢)における腸内フローラの変化、健康なときと病気のときの腸内フローラの違い等、様々な状態のヒトの腸内フローラのデータベースを世界に先駆けて構築し情報の共有化を目指します。
この腸内フローラデータベースの構築を通して、健康な人のフローラの特徴や特定の疾患をもつ人のフローラの特徴を解明します。これらの研究から、当社プロバイオティクス商品の有用性がより明確になっていくとともに、新たなプロバイオティクス商品開発の機会につながると期待しています。
※1 腸内フローラ
人間の腸内には約500種類、約100兆個の腸内細菌が住みついており、これら多種多様の菌は、それぞれ集団となっています。その様子が花畑(フローラ)のように見えることからこう呼ばれています。
※2 ダニエル カラソー リサーチセンターの概要
(1)名称
The Daniel Carasso research center (Palaiseau - France)
ダニエル カラソー リサーチセンター(フランス パレゾー市)
(2)2006年予算
1.4億ユーロ(約225億円)(グループ売上の1.2%)
(3)スタッフ
618名(内、科学技術の各分野の専門科学者362名)
※3 定量的PCR法
分類学的に異なる細菌ごとの特徴的なDNA配列をPCR法によって増幅し、糞便中の腸内細菌を定量する方法です。特定の細菌の遺伝子配列コピー数が一定の個数になるまで増幅するのに要する速さを測定することにより、糞便中に存在した特定の細菌遺伝子量、すなわち、特定の細菌数を求めることができます。
※4 定量的RT-PCR法
分類学的に異なる細菌ごとの特徴的なRNA配列をDNAに変換(逆転写)し、そのDNA配列をPCR法によって増幅して、糞便中の腸内細菌を定量する方法です。定量的RT-PCR法では細菌RNAをDNAに変換するステップが追加されているだけで、その後の手順は同じです。
※5 嫌気培養操作
腸内に住む細菌の多くは酸素があると増殖できません。このような細菌は嫌気性菌と呼ばれ、酸素があると死に易いため、人工的に酸素の殆どない環境を嫌気培養装置で作り出し、嫌気性菌の培養操作を行います。
以上