東北大学先進医工学研究機構、がん細胞内抗がん剤運動のナノメートル精度での検出に成功
がん細胞内抗がん剤の運動をナノメートル精度でとらえた
東北大学先進医工学研究機構の渡辺朋信元助手と樋口秀男教授(ナノ医学)らは、抗がん剤である抗体に蛍光性ナノ結晶を結合し、抗がん剤が細胞内を輸送される過程をひとコマ10000分の3秒の高速動画として取得し、3次元的な位置を2ナノメーター精度で検出することに成功しましたのでお知らせいたします。その結果、抗がん剤は、小胞膜に包まれた後に小胞に結合したモーター分子によって、レールタンパク質上を数ナノメートルのステップ状の運動をしながら細胞核に到達することが明らかにされました。この成果は、抗がん剤の薬効の分子メカニズムの解明に道を開き、ひいては、抗がん剤の薬効の向上に資するものと期待されます。
21世紀はナノテクノロジーとバイオテクノロジーの世紀と呼ばれている.特に,近年ではナノテクノロジーを医学に活かすナノ医療の分野が芽生えつつある. 我々は,蛍光ナノ粒子の立体的な動きを高精度高感度で観察できる動画取得システムを開発した.この装置では粒子位置検出精度を2ナノメートルに向上させかつ,時間分解能をビデオの100倍(0.3ミリ秒)に上げることに成功した.この装置を用いて,乳がんの治療薬であるトラツズマブ(製薬名ハーセプチン)の細胞内動態をナノメートル精度で追跡した.抗がん剤に蛍光性ナノ粒子を化学架橋し,乳がん細胞と混合したところ,まずナノ粒子は細胞膜に結合し,1時間ほどの間に,細胞内に膜ごと小胞を形成して取り込まれた.その後,抗がん剤を乗せた小胞の周りにはモータータンパク質が結合し,抗がん剤は細胞膜に沿ったレールタンパク質上を17および30ナノメートルの歩幅で輸送され,一旦止まった後に細胞の中心方向に方向転換をした.方向転換をした後は,細胞核に向けてレールタンパク質を中心に円弧を描きながら8ナノメートルの歩幅で輸送された.抗がん剤がレールタンパク質の乗り換えや,レール上で停止する現象を立体的かつ分子レベルで解析できたことから,この技術は薬効の分子メカニズムを解明し,高効率な抗がん剤の開発につながるものと期待される.
成果は6月2日に生物物理学の専門誌に掲載される予定です。
●細胞内を移動する抗がん剤
●抗がん剤の細胞内3次元の輸送過程
(※ 関連資料を参照してください。)