島津製作所、乳がんの診断・治療開発につながるタンパク質を発見
乳がんの診断・治療開発につながるタンパク質を発見
シンガポールのがん関連バイオベンチャー企業アジェニカ社と共同研究
島津製作所は、シンガポールのがん関連バイオベンチャー企業・アジェニカ リサーチ社(Agenica Research Pte. Ltd)と共同で乳がんの診断・治療に役立つ可能性のあるマーカ-タンパク質の探索研究を進めていましたが、その成果として、10個の乳がんマーカ-候補となるタンパク質を発見しました。
新たに発見した10個のマーカー候補タンパク質の中には、乳がん治療薬として知られているタモキシフェン(Tamoxifen)の薬効の現れ方や予後に関する情報を与える可能性を持つものもあります。これらの研究成果は、この分野で国際的な学術誌であるJ. Proteome Researchに近く掲載される予定です。
島津製作所は、2002年6月にアジェニカ リサーチ社に出資し、2004年から本格的な乳がんマーカ-タンパク探索プロジェクトを共同で開始しており、今回のたんぱく質発見は、その成果です。
アジェニカ リサーチ社は、シンガポール国立がんセンターの子会社NCCテクノロジー ベンチャーズ社と三井物産株式会社の共同出資により設立されました。
同社は、がん発症に関する詳細なデータベース(発がんに関係する新規遺伝子、抗がん剤の効き方・耐性、またこれらのデータに添付される個人の家系・生活習慣・病歴などの関連情報)を構築し、創薬や遺伝子研究などの分野にこのデータベースを販売するとともに、新たな診断方法の開発を目指しています。
今回の共同研究では、装置として、島津製作所のタンパク質解析用質量分析装置MALDI‐TOF‐MSであるAXIMA-CFR PlusおよびAXIMA-QIT、試料調整ロボットXciseなどを使用し、2DE/Gel(2次元ゲル電気泳動)手法と島津が開発したNBS試薬を組み合わせる方法でタンパク質の解析を行いました。マーカ-候補タンパク質の絞り込みは、島津製作所とアジェニカ リサーチ社が共同で開発したBioinformaticsに基づき、タンパク質と遺伝子の発現情報を組み合わせる独自な方法により、高い精度で行いました。
今後、島津製作所とアジェニカ リサーチ社は、これらのマーカ-候補タンパク質について、引き続きさらなる評価をすべく、さまざまな生物学的評価検討や臨床研究に向けて準備を進めて行きます。
≪シンガポールにおける診療への取り組みについて≫
シンガポールでは診療の質を向上することを目的に、徹底したインフォームド・コンセント(患者個人への十分な説明と同意)及び独自の審査基準を経て、国立がんセンターにおいて各個人の病歴や薬物投与データなどの蓄積とともに、同一患者の正常細胞と癌細胞の両方の遺伝子解析などが行われています。日本を含め主要な先進国に先立ち患者個人の組織試料と一貫した病理データが法律に則って容易に入手出来るようになったため、シンガポールは、早くからこのような研究を進めています。
≪アジェニカ リサーチ社について≫
社 名:Agenica Research Pte Ltd., Singapore
所在地:シンガポール国立がんセンター内
2001年 設立資本金:380万シンガポールドル(2.8億円)
2002年 島津製作所より追加出資274万シンガポールドル(約2億円)
株主構成(2002年6月5日から)
(株)島津製作所:5.6パーセント(60株)
三井物産(株):47.2パーセント(500株)
NCC(エヌシーシー) Technology Ventures Pte Ltd.
(シンガポール国立癌センター100%出資の技術移転会社):47.2パーセント(500株)
設 立:2001年3月
代表者:最高執行責任者 高野 守
社員数:15人(研究者12人)
事業内容:がん関連遺伝子情報データベースの構築と販売など
≪NBS試薬について≫
タンパク質に含まれるトリプトファン(アミノ酸の一種)を質量の異なる2種類の安定同位体試薬で標識する試薬キット。がん細胞と正常細胞から抽出したタンパク質を異なる質量の試薬で標識し、質量分析装置で測定することにより、がん細胞と正常細胞に含まれるタンパク質の種類や量の違いを解析できる。(NBS:2-ニトロベンゼンスルフェニル)