松下電工、FRP(繊維強化プラスチック)の亜臨界水分解リサイクル技術を開発
世界初、FRP(繊維強化プラスチック)の亜臨界水分解リサイクル技術を開発
「新機能性高分子(スチレン-フマレート共重合体)」の創製に成功
松下電工株式会社は、リサイクルが非常に困難なFRP(繊維強化プラスチック)を亜臨界水で分解、再生化する過程で、その一部を高度な「新機能性高分子」にリサイクルする基礎技術の開発に、世界で初めて(※1)成功しました。
※1:2006年9月25日現在 当社調べ
当社は、これまでに亜臨界水分解により熱硬化性樹脂を理想的に分解できる理論を確立。回収した樹脂原料を新品樹脂原料に配合し、FRP用樹脂に再生できることを確認しています。また、FRP廃材から広範囲の応用が期待できる「機能性高分子(スチレン-フマル酸共重合体)」を独自の手法で回収することに成功し、研究を続けてまいりました。その結果、今回新たに「機能性高分子」を改質して、FRP用低収縮剤として再利用が可能な「新機能性高分子(スチレン-フマレート共重合体)」を創製することに成功しました。この新機能性高分子はFRP用樹脂原料である「スチレン」や「有機酸」の市販価格の約5~10倍程に評価されます。化学物質はリサイクルすれば一般的にグレードが低下するものと思われていますが、投入原材料の価値を上回る新材料を生む結果となりました。この発見は、まだ実用化への課題はあるものの、将来リサイクル事業の経済性を高め、リサイクル促進に貢献できるものと考えています。
なお、これら一連の技術は、大阪府立大学 吉田 弘之教授からご指導いただいた亜臨界水分解に関する基礎技術や、2002年から経済産業省の補助事業で(財)国際環境技術移転研究センター(ICETT)との共同研究の中で生まれたものです。
当社は今後さらに改質プロセスの低コスト化など、実用化に向けた研究を続け、2007年度には400kg/回(浴槽20個分、0.8t/日)の処理能力を持つ亜臨界水分解パイロットプラントを完成させ、2012年ごろにFRP浴室ユニットの製造工程端材、年間200t規模のリサイクルの実現をめざします。製造工程端材のリサイクル技術が確立すれば、将来的には使用済み廃材や浴室以外のFRPへの応用も考えていきます。また、この独創的な「機能性高分子」の新用途展開についても、研究を継続してまいります。
なおこれらの内容については、強化プラスチック協会のFRP CON-EX講演会(9月28、29日)、「ネットワークポリマー講演討論会」(10月18、19日)、「超臨界流体国際シンポジウム」(11月5~8日)にて、発表する予定です。
■ 世界初の新技術
(1)「新機能性高分子」の創製メカニズム解析と機能検証
(2)亜臨界水分解反応の最適化による、FRP用熱硬化性樹脂の分解理論確立
(3)FRP亜臨界水分解で得られた樹脂原料の、FRP用樹脂への再生の検証
■ 開発背景
FRPは、熱硬化性樹脂のため加熱再成形ができず、ガラス繊維や充填材など無機物の比率が5~7割と高いため、自己燃焼しません。そのためリサイクルが困難で、浴室ユニット、FRP船などから、年間40万t排出される国内の廃FRPのほとんどは、埋め立てられています。
当社はFRPリサイクル技術確立を目指し、強力な加水分解能を持つ亜臨界水に着目して、2002年から研究開始。経済産業省の補助事業などの支援などを受けながら、2004年にバッチ式亜臨界水分解ベンチプラントを社内に設置して、研究を継続してまいりました。
■ 技術について
(1) 「新機能性高分子」の創製メカニズム解析と可能性検証
廃FRPから機能性高分子(スチレン-フマル酸共重合体)が抽出できるとは、一般的には考えられていませんでした。当社はこの機能性高分子をFRPから抽出し、広範囲に応用できる可能性があると判断。
その後の研究で、スチレン架橋部からなる「機能性高分子」を、「塩化ベンジル」と「相間移動触媒」を用いて改質することで、「新機能性高分子(スチレン-フマレート共重合体)」を創製することに、成功しました。この「新高機能高分子」は、市販のFRP用ポリスチレン系低収縮剤と同等の機能を持つFRP用代替低収縮剤に再利用できる可能性を実証しました。
(2) 亜臨界水分解反応の最適化による、FRP用熱硬化性樹脂の分解理論確立
亜臨界水による分解で、熱硬化性樹脂を変質させずに理想的に分解できる理論を確立し、96%を「樹脂原料」と「機能性高分子」に分解できることを実証しました。
(世界初、2004年7月 ICETT経済産業省補助事業の成果発表会で公開)
(3) FRP亜臨界水分解で得られた樹脂原料の、FRP用樹脂への再生の検証
回収した樹脂原料(10%)を新品樹脂原料(90%)に配合することで、樹脂に再生できることを確認し、回収した無機物、低収縮剤と共にFRPに再生(水平リサイクル)できることを実証しました。
(4) 40kg/回(浴槽2個分)規模のFRP亜臨界水分解ベンチプラントの設計と実証
一回で浴槽2個分に当る40kgのFRPが処理できる、世界でも有数規模のバッチ式亜臨界水分解ベンチプラントを2004年11月に社内に設置し、ベンチスケール実証に成功。生成した樹脂原料、機能性高分子の分離も検討し、最終的にリサイクルが困難な熱硬化性樹脂の70%、無機物の95%、FRP全体では80%の再資源化を実現しました。
※ 回収樹脂原料による再生樹脂の試作と、再生樹脂および「新機能性高分子」を用いた成形板の試作・評価は昭和高分子株式会社の協力をいただきました。
■ 亜臨界水とは
臨界点(374℃、22.1MPa )よりも低い温度で、飽和水蒸気圧以上の圧力の高温・高圧の水。
加水分解に必要なイオン積が常温の1,000倍であり、誘電率が有機溶剤並みに下がって、樹脂とのなじみがよくなり、よく溶け合うため、強力な加水分解能を持つという特長があります。
■ FRPリサイクルフロー
* 関連資料 参照
以上
■ お問い合わせ先
松下電工株式会社 先行技術開発研究所
エコプロセス研究室 Tel:06-6908-1131(大代表)