タカラバイオ、「がん免疫療法」でレトロネクチン併用によるがん細胞殺傷能力の上昇を発表
「がん免疫療法」において行われるヒトリンパ球の拡大培養の際に、
レトロネクチン(R)を用いることにより、がん細胞を特異的に殺傷する能力が
従来法と比べて約2倍となることを発見
タカラバイオ株式会社(社長:加藤郁之進)のバイオ研究所では、「がん免疫療法」において行われる、ヒトリンパ球の拡大培養(リンパ球を増殖)の際に、インターロイキン2(IL-2)及び抗CD3モノクローナル抗体(抗CD3抗体)に加え、当社が開発したレトロネクチン(R)を併用することで、生存能力が高く、抗原認識能も高いナイーブT様細胞を約2倍多く含む細胞集団が得られることを確認しました。また、これらの細胞から、がん細胞を特異的に殺傷することのできる細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導したところ、従来技術(抗CD3抗体とIL-2のみで刺激)により拡大培養した細胞を用いた場合と比べて、がん細胞に対する傷害活性が約2倍に上昇することを発見しました。これらの成果の詳細は、本年9月28日より横浜市で開催される第65回日本癌学会総会で発表します。
がんに対する治療法として知られる「活性化リンパ球療法」はがん免疫療法の1種で、がん患者のリンパ球を体外で抗CD3抗体とIL-2で刺激することにより拡大培養した活性化リンパ球を、再び患者に戻すという治療法です。この治療法は患者自身のリンパ球を使用するため、他の外科手術や放射線治療、抗がん剤治療などに比べて、患者に対する負担が少ないことが特徴です。
当社ではリンパ球の拡大培養時に、抗CD3抗体とIL-2に加え、レトロネクチン(R)をコートした培養容器を用いることで、効率よくリンパ球の拡大培養を行うことができる技術を開発し、第62回日本癌学会総会(2003年)で発表しています。
また、レトロネクチン(R)を用いて拡大培養したがん患者自身の細胞群を、新薬として用いる腎がんを対象としたがん免疫療法の臨床試験を、中国医学科学院がん病院と当社の子会社である宝日医生物技術(北京)有限公司が共同で北京薬品監督局に申請中です。
今回得られた結果として、レトロネクチン(R)を用いて拡大培養された細胞を解析したところ、ナイーブT細胞の指標とされている細胞マーカーのCD45RA+CCR7+T細胞が多く含まれることが確認されました。従来の「活性化リンパ球療法」は、拡大培養した時点ですでにがん細胞に対する傷害作用は持っていますが、体内に投与したときに腫瘍局所への集積能や体内での寿命が短いなどの問題点が指摘されていました。一方、ナイーブT細胞はがん細胞に対する傷害活性は持たないものの、腫瘍局所近辺で教育を受け、がん細胞を特異的に殺傷できる能力があるCTLになることができます。
実際に、レトロネクチン(R)により拡大培養した細胞集団から、がん細胞に特異的な殺傷能力をもったCTLを誘導することができました。さらに従来技術により拡大培養された細胞集団からよりも、レトロネクチン(R)を用いた方が約2倍の効率でがん細胞を殺傷できる細胞集団が得られることが明らかになりました。つまり、レトロネクチン(R)を併用すると、リンパ球の培養効率が高くなるだけでなく、増殖したリンパ球の抗がん能力も上昇することが明らかとなりました。したがって、このリンパ球拡大培養法は、世界中で広く行われている「がん免疫療法」を大きく前進させるものと期待されます。
がん免疫療法には「活性化リンパ球療法」の他にも、「がんワクチン療法」や「樹状細胞療法」など、腫瘍に対する特異的免疫の誘導を期待した治療法が行われていますが、本技術により拡大培養された細胞は、これらの治療法にも応用可能で、今後の発展が期待されます。
*添付資料あり。
