清水建設、山留め壁内部に井戸ユニットを組み込む「ウェル・イン・ウォール工法」を開発
山留め壁内部に井戸ユニットを組み込む「ウェル・イン・ウォール工法」を開発
―掘削域の地下水制御と、周辺地盤の地下水流動の保全、両方が可能に―
清水建設(株)<社長 野村哲也>は、サンエー工業(株)<社長:浦矢鉄夫>と共同でこのほど、地中の山留め壁内部に井戸ユニットを組み込む「ウェル・イン・ウォール工法」を開発・実用化しました。本工法は、掘削域の地下水制御と、周辺地盤の地下水流動の保全、その両方を可能にした技術で、環境負荷の低減と同時に、コストの縮減ができます。今後両社は、土木・建築両分野で様々な種類の地下構造物への適用に向けて、本工法を事業者らへ積極的に提案していく予定です。
地下構造物の構築には、目的が異なる二種類の地下水対策が必要です。一つは、「施工中の地下水制御対策」。これは地下を掘る際に、「ディープウェル」と呼ばれる井戸を現場内に設けて、山留め壁に囲まれた掘削域の地下水位を下げるものです。そしてもう一つは、「地下水流動保全対策」。これは、地下構造物が周辺地盤の地下水流動を妨げないように、地下構築物の上流側と下流側に井戸などを設けて地下水を遮断することなく流れるようにするもの。特に道路トンネルなど大規模な地下構造物を造る場合、近年重要となっています。しかしこれら両対策をまとめてとれる工法は、今までありませんでした。
今回開発した「ウェル・イン・ウォール工法」は,山留め壁内部に、独自の機構を持った井戸ユニットを組み込んだのが特徴。本ユニットによって、施工中の掘削域における地下水制御対策と、施工中から施工後にわたる周辺地盤の地下水流動保全対策、その両方をまとめて可能にしました。その結果、コストの縮減が可能となりました。さらに,地下工事の円滑な施工に障害となっていたディープウェルを設ける必要がなくなるため、工期の縮減や品質の向上に貢献できます。
≪本ユニットの機構及びその仕組み≫
本ユニットはその内部に、集排水の役割を果たす井戸機構「ウェル」を地山側と掘削側に一本ずつセットにして配置。両ウェルがバルブを介して通水管で繋がれた構造となっています。
施工中に地下水位制御対策を行う場合、バルブを閉じたうえで、掘削側ウェルからポンプを使って掘削域の地下水をくみ上げます。
また施工後に地下水流動保全対策を行う場合、バルブを開放し、上流側の山留め壁,下流側山留め壁に設置した本ユニット部分を地下水が通過する仕組みとなっています。
なお、本工法の適用実績は、地下水位制御対策としては、首都高速道路中央環状新宿線代々木換気所工事(東京都渋谷区)ほか数現場。地下水流動保全対策としては東京都環状第8号南田中トンネル(東京都練馬区)で2年間にわたり試験適用。各現場にて、その性能・効果を確認済みです。
≪本工法のメリット≫
1.地下水流動を確実に保全
本工法の1ユニットあたりの通水性能は、数十リットル/分で、従来の地下水流動保全対策と同等性能を確保。※ 本ユニットを適切な間隔で設置すれば、地下構造物による地下水流動への影響を、確実に低減することが可能です。
また地下水の集水部分は通常、山留め壁施工時の泥膜やソイルセメントが残りやすく、ウェルの機能が低下する原因となりますが、本工法では,ウェルのフィルター部分を高圧ジェット水で洗浄する方法を確立しており、確実なウェルの性能を確保することが可能です。
2.コストの縮減
本工法は、両対策をまとめてとれる技術であるという特長のほか、構築物地下工事の円滑な施工には障害となっていたディープウェルを設ける必要がなくなるため、コストを縮減し、また構造物の品質を向上させることができます。井戸の設置費用は,従来のディープウェル工法に比べて3割程度縮減可能です。
3.その他
本工法は、ユニット全てを山留め壁内部に組み込んでいるため,敷地外などに井戸を設ける他の工法に比べて、省スペース設計が可能。敷地境界ぎりぎりに山留め壁を設置するような現場でも、適用可能です。また本工法は施工後、長期の使用によってウェル内のフィルター部が目詰まりした場合でも、洗浄しやすい構造をしており、メンテナンス性に優れています。
以 上
※ 通水性能は、地盤条件など様々な要因により変動します。試験工事を実施した東京都環状第8号南田中トンネルでは、60リットル/分の通水量を確認しました。
≪参 考≫
サンエー工業(株) 会社概要(非上場)
設 立 : 昭和43年4月6日
本社所在地 : 東京都練馬区羽沢3-39-1
資本金 : 2億738万4千円
代表者 : 代表取締役 浦矢 鉄夫
従業員数 : 150名
事業内容 : 各種ポンプ,土木建設機械の製造・販売・修理・賃貸
機械器具設置工事,管工事の請負,施工,監督
電気工事,水処理機械装置に伴う土木工事請負,施工,監督
土壌浄化,水質浄化機械の製造,販売,修理,賃貸,設置
「ウェル・イン・ウォール工法」 概要図 (*添付資料参照)