東北大学病院、光環境が新生児・乳幼児の脳に与える影響を解明
光環境が新生児・乳幼児の脳に与える影響を解明
小児発達期における光環境の重要性を指摘
東北大学病院周産母子センター(センター長岡村州博教授)太田英伸博士らのグループは米国バンダービルト大学のマックマーン教授らの共同研究を通じて、昼夜連続して照明が点灯する光環境が新生児・乳幼児の脳の活動を乱し、発達過程において異常な睡眠覚醒リズムを形成させる可能性を明らかにした。この研究成果は、米国小児科専門誌ぺディアトリック・リサーチ(米国時間8月21日)に掲載予定である。
わが国において毎年約100,000人の早産児が出生し保育器管理が必要となる。保育器内の長期滞在を余儀なくされる早産児にとって、光・温度・湿度といった人工環境の整備は健全な発達にとって重要であり、特に光環境が早産児の成長スピードに影響することが以前より報告されていた。
本研究グループは、新生児マウスを24時間明るい光環境(恒明環境)で哺育したところ、睡眠覚醒リズムに関与する脳細胞の活動が遺伝子レベルで乱れることをつきとめた。この脳細胞は生物時計の機能をもつ視交叉上核と呼ばれる神経核で、昼夜の区別のある光環境では数万個に及ぶ脳細胞が一日に一度、同じタイミングで一斉に活動することが知られている。ところが恒明環境では、お互いの脳細胞間に存在するネットワークが乱れ、ばらばらのタイミングで活動することが明らかになった。昨年同グループは、恒明環境が同様の効果を大人マウスに与えることを発見し英国科学雑誌ネイチャー・ニューロサイエンスに報告している。今回の研究では発達早期のマウスが大人に比較し、恒明環境に対し感受性がより高く、かつその影響が成長した後も異常な睡眠覚醒リズムとして持続することを明らかにした。同時に本研究は、恒明環境により乱れた睡眠パターンを発達させた若年マウスに対し、昼夜差のある規則正しい光環境を導入することにより、その睡眠覚醒リズムを補正できることを示した。
生物時計と呼ばれる視交叉上核は、最近の研究から体全体に存在する時計遺伝子を介し、睡眠に加え、心臓・肝臓・肺といった主要臓器のサーカディアンリズム・生理機能を制御することが明らかになっている。本研究により、新生児集中治療室の人工光・現代家庭における夜間照明といった発達早期の光環境が小児の睡眠・発達に与える悪影響について、脳科学の分野から警鐘を鳴らすことになる。