NTTとNTTコム、4Kデジタルシネマ品質の超高精細映像を広域多地点にライブ配信実験成功
4Kデジタルシネマ品質の超高精細映像を広域多地点ライブ配信する実験に成功
-第19回東京国際映画祭で次世代映像コンテンツの製作・流通支援技術を実証-
日本電信電話株式会社(以下NTT、代表取締役社長:和田紀夫)とNTTコミュニケーションズ株式会社(以下NTT Com、代表取締役社長:和才博美)は、超高速多地点ストリーム配信および伝送技術を開発し、ギガビットIPネットワーク上で、4Kデジタルシネマ*1品質(800万画素)の超高精細映像ストリーム(以下4K映像ストリーム)を10分岐して日本各地に同時配信する、多地点ライブ中継伝送実験に成功しました。
これは、大容量IPネットワークを介して4K映像を複数拠点間でリアルタイム共有する、次世代型映像コンテンツ制作・流通環境の持つポテンシャルを、世界に先駆けて実証するものです。学術・教育・医療・文化・娯楽など幅広い分野での活用に向けて、本日、第19回東京国際映画祭の「第2回digital TIFF シンポジウム」(六本木ヒルズ)において実証実験を行い、デジタルシネマ実験推進協議会(以下DCTF)、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構(以下慶應DMC機構)、株式会社バンダイナムコゲームス(以下BNG)の協力を得て、弦楽アンサンブル演奏やレーシングゲームのオンライン対戦など多様な4K映像の多地点配信を実演しました。
本件は、総務省の委託研究「次世代型映像コンテンツ制作・流通支援技術の研究開発」の一環として行われたものです。
<技術の概要>
1.超高速多地点ストリーム配信技術
4K映像ストリームのビットレートは、JPEG2000符号化方式*2で約1/15に圧縮されていても、なお平均400Mbpsにのぼり、瞬間的には1Gbpsに達することもあります。これを10地点にマルチキャスト配信できるように、NTT未来ねっと研究所では「超高速ストリーム分岐装置(スプリッタハードウェア)」を開発しました。実験に際してはNTTが開発したFlexcast(フレックスキャスト)プロトコル*3を採用し、ストリーム複製と配信先アドレス設定をハードウェア的に並列処理することで、スループット10Gbpsを達成しています。汎用サーバマシン上で動作する既存のスプリッタソフトウェアと比べて5~10倍も高性能です。
2.超高速ストリーム伝送技術
瞬間的に1Gbpsにも達する4K映像ストリームを伝送する場合、経路途中のルータで一時的に輻輳が発生して、パケット損失がおこる場合があります。このため、今回、NTT Comは、誤り訂正能力を強化した「高信頼映像伝送技術」を開発しました。誤り訂正には、NTT未来ねっと研究所にて4K映像伝送用に最適化したLDPC符号化アルゴリズム*4を適用し、4K映像コーデック*5上にソフトウェア実装することで、エラー耐性・リアルタイム性・経済性を高い次元で最適化することに成功しました。従来の単純なパリティ型誤り訂正符号に比べて、同じ8%程度の冗長度でも条件次第で1000倍以上もの映像フレーム誤り訂正能力を達成できます。
<実験の概要>
1.実験環境について
(1)慶應DMC機構(三田)で生成される4Kデジタル映像(非圧縮約6Gbps)を、4K映像コーデック*5において、[1]JPEG2000符号化により平均400Mbps程度にリアルタイム圧縮し、[2]誤り訂正符号化し、[3]IPストリーム化し、さらに[4]各IPパケットをFlexcastパケットにカプセル化して、4K映像ストリームに変換
(2)上記(1)を、ネットワーク内に配備したスプリッタハードウェアで10分岐し、「digital TIFFシンポジウム」会場を始めとする日本各地の4Kプロジェクタなど計10台の映像端末に、マルチキャスト配信
(3)バックボーンネットワークには研究開発ギガビットネットワークJGN II*6を、アクセスネットワークにはNTTのGEMnet2*7とNTT Com の「ブロードバンドアクセス(BBA)」*8を利用
2.実験内容について(図1)
(1)4Kカメラで撮影したコンサート映像の配信
慶應DMC機構の工房(スタジオ)から、4Kデジタル動画カメラで撮影したライブ講演映像や、同カメラで事前収録した弦楽アンサンブル演奏の4K映像および5.1チャネル音響信号を、マルチキャスト配信しました。ステージ全体を固定カメラで捉えるだけのシンプルな映像ながら、800万画素という超高精細性により、各地の巨大スクリーンには演奏者の弓使いや表情がリアルに再現されます(写真1)。これにより、クローズアップなどのカメラワークが不要なだけでなく、むしろ、そのことが臨場感を増し、大容量IPネットワークを介して遠隔多地点間でコンサートホール空間を共有できることを実証しました。
(2)遠隔4拠点でオンライン対戦するレーシングゲームの高精細映像をリアルタイムで合成した4K映像の多地点配信
レーシングゲーム「リッジレーサー7」(BNG製作)に遠隔4地点(三田、秋葉原、横須賀、京都)からオンライン参加する家庭用ゲーム機「プレイステーション 3」の画面を、IPネットワーク経由で三田に集めて4K映像をリアルタイム合成し、それを10地点にライブ配信する実験を行いました。各地の「プレイステーション 3」が出力するハイビジョン映像(200万画素)はMPEG2コーデックを介して三田に集められ、4画面を1画面にリアルタイム合成した4Kデジタルシネマ品質(800万画素)のライブ映像として、各地にライブ配信されます。こうして、遠隔地から対戦ゲームに参加する4名だけでなく、大容量IPネットワークを介して複数拠点で多数の観客が「ゲーム観戦」する新しい形態を実証しました(写真2)。
<今後の予定>
NTTとNTT Comは、今後も連携して、4Kデジタルシネマ品質の超高精細映像を複数拠点間でリアルタイム共有する次世代型映像コンテンツの制作・流通支援技術に関する研究開発を進めるとともに、実証実験などを通して学術・教育・医療・文化・娯楽など多方面で利用シーンの検討を進め、新たなビジネス機会の創出に取り組む予定です。
(参考)本実験に関する協力機関等一覧
・4Kコンテンツ:慶應義塾大学、東京工科大学、株式会社バンダイナムコゲームス
・4Kデジタル動画カメラ:オリンパス株式会社
・回線、拠点、機器:独立行政法人情報通信研究機構(NICT)、けいはんな情報通信オープンラボ研究推進協議会、慶應DMC機構、株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント
・シンポジウム主催:財団法人日本映像国際振興協会(ユニジャパン)
・シンポジウム協力:デジタルシネマ実験推進協議会*9(DCTF)
<用語解説>
*1 4Kデジタルシネマ
ハリウッドのメジャースタジオで組織するDCI(Digital Cinema Initiative)が劇場公開映画のコンテンツ配信用に定めた規格。4Kは横方向の画素数に由来する。1画面あたり約800万画素(4,096_2,160)の映像を、JPEG2000符号化方式*2で圧縮して配信する規格で、NTT未来ねっと研究所などが世界に先駆けて2001年に提唱したコンセプトが採用された*10。なお、DCIでは、今回のライブ中継など、劇場公開用ファイル配信以外の用途のことをODS (Other Digital Stuff)と呼んでいる。
*2 JPEG2000符号化方式
JPEGとは、Joint Photographic Experts Group が策定した、デジタルカメラで幅広く利用されている国際標準規格の画像圧縮方式のこと。1画面(フレーム)単位でデジタル情報量を減らす。JPEG2000はその発展形。フレーム間の相関を用いるMPEGに比べて圧縮率は低いが、(1)映像品質に優れる、(2)符号化遅延が少ない、(3)フレーム単位での編集作業が容易、などの利点を持つ。
*3 Flexcast(フレックスキャスト)プロトコル
通常のIPユニキャスト網上で、自律的に経路を構築してマルチキャスト機能を実現する方式(図2)。映像ストリームを複製して宛先を書き換える「ストリーム分岐装置(スプリッタ)」をネットワーク内のルータに横付けして、マルチキャストシステムを実現する。ルータの全面更改が必要なIPマルチキャストとは異なり、少ない設備投資でサービスを開始でき、需要にあわせて増設できることが特徴。NTT研究所が開発し、エヌ・ティ・ティ レゾナント株式会社の高品質テレビ会議システムWarpVisionなどに利用されている。
*4 LDPC符号
誤り訂正符号の一種で、極めて高い誤り訂正能力を持つ。LDPCとは低密度パリティ検査(Low Density Parity Check)のこと。あらかじめ冗長な情報(パリティ)を送信側で追加しておき、配信途中でパケット損失が発生しても、それが一定数以下ならば元の映像ストリームが正しく復元できる仕組み。
*5 4K映像コーデック
4Kデジタルシネマ品質の映像信号を、高品質符号化方式JPEG2000フォーマット*2で圧縮してIPパケットストリーム(4K映像ストリーム)に変換する、もしくは、逆に4K映像ストリームから映像信号を復元する装置。NTT未来ねっと研究所が開発。
*6 JGN II(Japan Gigabit Network II)
独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が平成16年4月より運用を開始した全都道府県ならびに米国にアクセスポイントを持つ研究開発テストベッドネットワーク。次世代高度ネットワークを国内外の産・学・官・地域連携によって早期実現させ、我が国、経済社会の活性化と国際競争力の向上を目的としている。
*7 GEMnet2 (Global Enhanced Multifunctional Network 2)
NTTが、武蔵野・横須賀・厚木の各研究開発センタ間を数10Gbpsの超高速度で接続して構築した新しい実験用ネットワーク。NTT研究所内の研究開発利用の他に、外部の研究・教育ネットワークとの連携により、国内外の研究機関との共同研究が可能である。国内では、スーパーSINET、JGN IIの二つの研究教育ネットワークと相互接続を行っている。
*8 ブロードバンドアクセス(BBA)
NTT Comの提供する回線サービス。お客さまビルとNTT Comビルの間を様々な用途でご利用いただけるLAN用インターフェース(10M/100M/1G/10Gイーサネット)で繋ぎ、各種IPトラフィックを統合的に伝送するサービス。
*9 デジタルシネマ実験推進協議会(DCTF)
総務省の協力のもと、独立行政法人情報通信研究機構(NICT)、ディジタルシネマ・コンソーシアム*10(DCCJ)および映像関連の企業・団体・個人を中心に、2004年5月に設立された協議会。超大容量のデジタルシネマをネットワーク流通における重要なデジタルコンテンツと捉え、「4K」規格のデジタルシネマの流通技術、品質評価技術、セキュリティ技術の確立を目指す実験、国際連携等を推進。
*10 ディジタルシネマ・コンソーシアム(DCCJ)
2001年1月に設立された NPOであり、世界で初めて4Kデジタルシネマの必要性を提唱した。実際、当コンソーシアムに所属する企業グループが世界で初めて開発した4Kデジタルシネマシステムを用いてハリウッドを始め世界各地でデモを行い、4KがDCI標準に採用されたことに大きく貢献をした。