三菱電機など、単一光子源量子暗号システムで80kmの原理検証実験に成功
単一光子源量子暗号システムで世界最長の80kmの原理検証実験に成功
三菱電機株式会社(執行役社長:下村節宏、以下「三菱電機」)ならびに北海道大学(総長:中村睦男、以下「北大」)は、BB84プロトコル(※1)を使用した量子暗号システムとして、単一光子源を組み込んだ高精度な量子暗号通信装置を共同開発し、世界最長の80kmの量子暗号原理検証実験に成功しました。
この研究は、三菱電機は情報通信研究機構(理事長:長尾真、以下「NICT」)の委託研究「量子暗号の実用化のための研究開発」の一部として、北大は科学技術振興機構(理事長:沖村憲樹、以下「JST」)の戦略的創造研究推進事業(CREST)「量子情報処理システムの実現を目指した新技術の創出」領域の一環として実施しました。
(※1)BB84: C.H.Bennett とC.Brassardが1984年に提案した量子暗号プロトコル
【開発の背景と概要】
「現代暗号」と呼ばれる現在の暗号技術(暗号アルゴリズム)は、解読するために膨大な計算量(時間)が必要であることを安全性の根拠にしており、超高速処理が可能な量子コンピューター等が出現した場合には、この安全性が脅かされると指摘されています。
これに対して「量子暗号」は、盗聴されたことを検知できるという「現代暗号」には無い特長があることから、絶対に解読されない究極の暗号として実用化が期待されています。しかし、これまでの量子暗号通信システムのほとんどが、光源としてパルスレーザーを弱めた擬似的な単一光子源を用いているため、同じ情報を運ぶ光子が同時に2個以上発生する確率が無視できず、そのうちの1個を取り出して情報を盗聴され、暗号を解読される可能性があることが判明しています。
今回、同時に2個以上の光子が発生する確率を1万分の1以下に抑えた「単一光子源」を北大が開発し、三菱電機がこの「単一光子源」を組み込んだ高精度な「量子暗号通信装置」を開発して、共同で「単一光子源を実装した量子暗号システム」として世界最長の80kmの原理検証実験に成功しました。
【主な開発成果】
1.同時に2個以上の光子が発生する確率が1万分の1以下の「単一光子源」を開発(北大・JST)
従来「擬似単一光子源」として多く用いられている微弱なパルスレーザー光源は、同一時刻に複数個の光子が発生する確率が無視できず、そのうちの1 個を取り出されると、盗聴されたことを検知できずに、暗号が解読される可能性がありました。今回北大電子科学研究所竹内繁樹助教授らは、非線形光学効果を利用した「単一光子源」を開発し、2個以上の光子が発生する確率が1万分の1以下という通常の微弱パルスレーザー光源では実現できない精度を達成しました。
2.精度と安定性に優れた「量子暗号通信装置」を開発(三菱電機・NICT)
従来三菱電機は光子源に取り扱いの容易なパルスレーザーを用いていましたが、今回北大の開発した単一光子源を組み込み、伝令信号と呼ばれる電気信号と時間精度の高いクロック信号を併用することによって、単一光子検出の精度と安定性に優れた「量子暗号通信装置」を開発しました。
3.安全性の厳密な定量評価方法を開発し、世界最長の80kmの通信を確認(三菱電機・北大・NICT・JST)
これまで単一光子源を利用する量子暗号システムの評価は、単一光子源の特性に依存するため定量的に評価できていませんでしたが、今回、光子生成プロセスまで踏み込んで漏洩情報量を定量的に見積もる方法を開発しました。また、単一光子源による世界最長の80kmの原理検証実験(単一光子干渉実験)を行い、この評価方法を用いて80kmで安全に通信できることを確認しました。
【今後の展開】
今後は今回開発した技術をベースに、装置の小型化および高速化に取り組み、5年後を目標に単一光子源を用いた量子暗号装置の実用化を目指します。
【開発内容の詳細】
※ 関連資料 参照