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ニュースリリースのリリースコンテナ第一倉庫

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2025'05.17.Sat
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2007'05.08.Tue

理化学研究所、うつ病と統合失調症の2系統モデルマウス開発に成功

世界初:うつ病と統合失調症の2系統モデルマウス開発に成功
-精神疾患の解明や治療法の開発に貢献する貴重な変異マウス系統を確立- 


◇ポイント◇ 
・統合失調症に関与する遺伝子にアミノ酸置換変異をもつモデルマウスを開発 
・同じ遺伝子上の異なる変異がうつ病と統合失調症を発症することを発見 
・狙った遺伝子上の点突然変異を高速に発見するシステムを活用して探索 


 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、Disc1(ディスク1)という従来、統合失調症に関与するといわれていた遺伝子にアミノ酸置換変異をもつマウス2系統を開発し、カナダマウントシナイ病院研究所(ジョゼフ・マパ理事長)、英国エジンバラ大学(ティモシー・オシェ学長)との共同研究により、この系統が統合失調症だけでなく、うつ病のモデルマウスになることを明らかにしました。これは理研ゲノム科学総合研究センター(榊佳之センター長)個体遺伝情報研究チームの権藤洋一プロジェクト副ディレクター・チームリーダーによる研究成果です。
 統合失調症は思春期以降に世界人口の1%ほどの人が発症するといわれています。また、うつ病の発症率は10%とされ、特に働き盛りの日本人において増加傾向にあるといわれています。ともに発症の原因やメカニズムがよくわかっておらず、その解明と、予防・治療法の開発が待ち望まれています。
 これらの精神疾患を発症するモデルマウスの開発は、遺伝的要因を明らかにするだけでなく、環境や投薬などとの因果関係を調べるうえで必須なものとして期待されていました。統合失調症は、家系解析・遺伝子多型の解析などが進み、関連する遺伝子として100以上の報告例があります。Disc1遺伝子は、そのなかでも主要な役割を果たしている遺伝子として着目されていました。今回、研究チームが開発したマウスは、Disc1遺伝子に点突然変異※1をもつ2系統で、それぞれ異なったアミノ酸置換を起こしていました。Disc1タンパク質の31番目のグルタミンがロイシンにアミノ酸置換した変異マウス系統でうつ病を発症し、100番目のロイシンがプロリンに突然変異を起こしたもう1系統は統合失調症を示すモデルマウスとなることが明らかとなりました。同じ遺伝子上の点突然変異が、うつ病と統合失調症という異なる精神疾患モデルマウスとなる例はこれまでありません。それぞれの精神疾患の解明や治療法の開発に大きく貢献するばかりでなく、ヒトの精神構造の成り立ちそのものを基礎研究の面から解明して行くうえでも貴重なモデル系として期待されます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『NEURON(ニューロン)』(5月3日号)に掲載されるに先立ち、オンライン版(5月3日付け:日本時間5月4日)に掲載されます。 


1.背 景 

 近年、マウスの特定の遺伝子を丸ごと標的破壊するノックアウトマウス法を駆使して疾患モデルを開発するプロジェクトがEU連合、米国、カナダの3拠点において始まりました。一方、理研では、理研変異マウスライブラリー※2を構築し、さらに、解析対象の遺伝子上に点突然変異を持つ系統を高速にスクリーン発見する高速変異発見システム※3も独自に整備して、ライブラリーから変異モデルマウスを開発する研究を進めてきました。この変異マウスライブラリーと高速変異発見システムによってはじめて、ゲノム上のどの遺伝子についてもアミノ酸置換変異を持つマウスを開発することが可能になりました。理研では、この手法を総称して「理研ENUジーンドリブン(gene-driven;遺伝子主導)マウスミュータジェネシスシステム」(図1)と名づけ、このシステムを一般研究者に広く公開しています。理研は、解析依頼に応じて、解析対象の遺伝子に点突然変異を探索し、見つかれば必要に応じてモデルマウスとして提供しています。
 2004年、カナダのマウントシナイ病院研究所の研究グループ(ジョン・ローダー博士)から、「理研ENUジーンドリブンマウスミュータジェネシスシステム」の利用申込があり、ライブラリーのスクリーンを依頼されました。その遺伝子の1つ、Disc1遺伝子に理研が変異を発見し、そのうち2系統をカナダ側研究者に提供しました。この変異マウス2系統の疾患モデルとしての解析には、イギリスのエジンバラ大学の研究グループ(デイヴィッド・ポータス博士)も加わり、今回の成果となりました。 

2.研究手法・成果 
 
 研究チームは、「理研ENUジーンドリブンマウスミュータジェネシスシステム」を用いて、Disc1タンパク質の特定のアミノ酸が別のアミノ酸に置換を起こした、L系統およびP系統の異なる2系統の変異マウスを開発し、マウントシナイ病院研究所にモデルマウスを提供して解析を進めました。英国エジンバラ大学の研究者も加わり、詳細に解析したところ、Disc1タンパク質の31番目のグルタミンがロイシンにアミノ酸置換したL系統はうつ病モデルマウス、また、100番目のロイシンがプロリンに突然変異を起こしたP系統は統合失調症モデルマウスであることを明らかにしました(図2)。疾患症状の実験解析は、行動学的診断、解剖学的診断、生化学的解析、薬理学的解析の4種類を行いました。
 
(1)行動学的診断 
 行動学的解析は、聴覚、視覚、嗅覚、味覚など感覚器官には異常がないことを確認した上で行いました。うつ症状は、強制水泳試験※4、社会行動学的解析※5、報酬反応※6によって診断しました。その結果、L系統が劣性のうつ形質を示すことがわかりました。統合失調症は、プレパルス抑制実験※7、潜在抑制実験※8によって診断しました。その結果、P系統が優性の統合失調症形質を示すことが明らかとなりました。
 この2つの疾患では、ともにまだ明確なモデル動物系が確立されていないなかで、1つの遺伝子の異なった2ヶ所のアミノ酸置換がそれぞれうつ病と統合失調症を起しうるという発見をしたことになります。
 
(2)解剖学的診断 
 うつ病、統合失調症、双極性障害といった主たる精神疾患罹患群では、脳に萎縮が見られるケースがあります。そこで、L、Pの両系統の脳を、遺伝子型ごとに、核磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)を用いて解剖学的解析を行いました。その結果、P系統には13%の脳容積減少が優性形質として現れ、L系統も6%の脳容積減少を優性形質として示すことが認められました。この脳容積の減少は、ともに、統合失調症罹患群でよく観られる脳内の特徴的な萎縮領域と一致していました。とくにこの中で共通してみられている小脳の萎縮は、うつ病と統合失調症を伴う罹患群の所見と一致しています。 
 
(3)生化学的解析 
 L、Pの両系統で、DISC1変異タンパク質や、DISC1タンパク質に直接結合してシグナル伝達を司っているとされるPDE4タンパク質の発現量に差がないにもかかわらず、L系統をホモ接合にもつマウスの脳では、PDE4活性が1/2に減少していました。この所見は、L系統がもつDISC1タンパク質のアミノ酸置換そのものが、正常なPDE4タンパク質活性を下げていることを強く示しています。 
 
(4)薬理学的解析 
 L、Pの両系統に、それぞれ人のうつ病に使用される抗うつ剤と統合失調症に使用される抗精神薬を投与したところ、特徴的な反応※9を示しました。これにより、薬理学的な面からもモデルマウスとして有用であることが示されました。また、うつ病も統合失調症も関連する要因によっていくつかのサブグループに分類されており、さらに複合的に両方の疾患症状を示す罹患群もあります。今回、同じ遺伝子上のアミノ酸置換の違いによって異なった症状を示すモデルマウスが確立できたことで、より明確な診断と適切な薬理療法の開発が可能となります。
 なお、L系統とP系統のマウスを交配することによって、L/Pというヘテロ接合体の遺伝子型をもつ複合変異体を産出することができます。この複合変異体は、優性効果をもつP変異の表現型である統合失調症を示し、劣性形質であるL変異のうつ症状は示しませんでした。  
 
 今回の変異マウス系統の確立は、理研が独自に開発した「理研ENUジーンドリブンマウスミュータジェネシスシステム」の活用によって可能となったもので、さらに、うつ病や統合失調症といった精神疾患研究の専門家からの提案とその解析システムの活用によって、実際の遺伝子機能解明へとつながりました。分野を越えたそれぞれの専門家の連携によってはじめて可能となった融合的研究です。 


3.今後の期待 

 Disc1遺伝子の変異マウス2系統は、それぞれうつ病、統合失調症、さらには、その2疾患の遺伝的要因と環境要因、投薬治療などの研究開発に大きく寄与することが期待されます。
 「理研ENUジーンドリブンマウスミュータジェネシスシステム」は、点突然変異をどの遺伝子にも提供できることから、精神疾患に限らずさまざまなヒト疾患の遺伝子機能研究に広く貢献できるものです。また、モデル系統を提供することにより、ヒト疾患解明や臨床応用面でもさらに利用が広がって行くものと考えています。とくに、欧米加では2006年からノックアウトマウスプロジェクトがはじまり、大規模なヒト疾患モデルマウス開発に着手しました。理研のシステムは、ノックアウトマウスを補完するシステムとしても注目されています。2007年3月ベルギー・ブリュッセルにおいて第1回国際ノックアウトマウス会議が開催され、理研もメンバーとして、点突然変異マウス開発全般の状況と今後の計画について報告しました。その直後に今回の成果となりました。欧州連合、米国、カナダのプロジェクトがこれから目指している大規模ヒト疾患モデル開発計画を、日本が一歩先んじて成功したことになります。  


<補足説明>

 ※添付資料を参照

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