富士通と東北大学、ミリ波イメージセンサー用の超低雑音・高利得増幅器を開発
ミリ波イメージセンサー用の超低雑音・高利得増幅器を開発
富士通株式会社(以下、富士通)と国立大学法人東北大学(以下、東北大)(注1)は、インジウムリンHEMT(注2)を用いたミリ波(94ギガヘルツ帯)イメージセンサー(注3)用超低雑音・高利得増幅器の開発に成功しました。本技術の適用により、イメージセンサー受信器の画像取得時間を、従来の技術に比べ約10分の1に短縮することができます。今後はITSやセキュリティ、医療用途などへの適用が考えられます。
本研究は、総務省の戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)の助成を受けています。
なお、今回の技術の詳細は、6月3日から8日まで米国ホノルルで開催されているマイクロ波の際学会、2007 IEEE MTT-S International Microwave Symposiumにて発表します。
■背景
ミリ波には物体を透過できるという光や赤外線にはない特徴があるため、近年、ミリ波をつかったイメージセンサーが注目されています(図1)。特に、自動車の走行支援用途・セキュリティ分野・医療用途への適用が見込まれています。
図1 開発したイメージセンサーにより撮影したミリ波画像(左)と、光学写真(右)
※添付資料を参照
■課題
ミリ波パッシブイメージセンサーは、物体が放射する熱雑音に含まれる微弱なミリ波信号を受信するため、受信用の増幅器MMIC(注4)は低雑音性と高い増幅率をもつことが求められます。しかし、従来の技術では増幅率を高めると回路の動作が不安定になるという問題があり、低雑音・高利得増幅器を安定動作させることが困難でした。
■開発した技術
今回、以下の2つの技術を組み合わせることにより、低雑音性と高い増幅率の両立を実現する増幅器MMICの開発に成功しました。
1.カスコード増幅器(注5)の低雑音・高安定化技術:
従来のカスコード増幅器は安定化のために抵抗を入れる構造で、それが雑音の原因になっていました。増幅回路のトランジスタ間を接続している配線の長さを最適化することにより、カスコード増幅器の低雑音・高安定化の両立をはかる技術を開発しました。
2.チップ内部を伝搬する不要電波を除去する技術:
従来、高い増幅率をもつ増幅器を設計する際に、半導体基板の内部を伝搬する不要電波があると回路の動作が不安定になり、最悪の場合は発振してしまうという問題がありました。そこでチップの内部に抵抗層を導入することでこの不要電波を除去する技術を開発し、これにより高い増幅率をもつ増幅器MMICを実現しました。
■効果
今回開発した低雑音・高利得化技術を用いて試作した増幅器MMICは、雑音指数3.2デシベル(dB)、増幅率33dBという世界最高性能を実現しました(図2)。これはイメージセンサー受信器の性能に換算すると、画像の取得時間を従来の10分の1にすることが可能になります。さらに本MMICを用いて94ギガヘルツ帯ミリ波イメージセンサーを試作し、ミリ波画像の取得に成功しました(図1)。
図2 開発したパッシブイメージセンサー用
低雑音・高利得増幅器のチップ写真
※添付資料を参照
■今後
今回開発した技術は、2010年を目処に製品化を目指します。
以 上
■注釈
注1 東北大学:
総長 井上明久、所在地 宮城県仙台市。
注2 インジウムリンHEMT:
HEMT(High Electron Mobility Transistor,高電子移動度トランジスタ)は、1979年に株式会社富士通研究所の三村高志氏が発明した、高速・低雑音性にすぐれた化合物半導体によるトランジスタ。基板にインジウムリン(InP)を用いることで、より高速な構造を実現できる。
注3 ミリ波イメージセンサー:
物体から放射される熱雑音スペクトルのうち、ミリ波帯(35GHz帯や94GHz帯など)における信号を受信して物体の画像情報を得るシステム。
注4 MMIC:
Microwave Monolithic Integrated Circuitの略。マイクロ波の増幅、発振、ミキサなどを目的としたIC。
注5 カスコード増幅器:
増幅回路の一つで、ソース接地トランジスタとゲート接地トランジスタを組み合わせた回路構成となっている。