NICT、対話と行動を学習するロボット技術を開発
世界で初めて、対話と行動を学習するロボット技術の開発に成功
~利用者に適応したコミュニケーションの実現~
独立行政法人情報通信研究機構(理事長代行: 田中栄一)は、日常生活支援ロボット分野において、対話と行動を学習するロボットの知能化技術の開発に世界で初めて成功しました。本技術の開発により、ロボットが、幼児の発達過程と同じように実世界における利用者とのやり取りを通して、利用者の意図や状況を適切に理解できるコミュニケーション能力の学習が可能となりました。実用化されれば、これまで障壁とされてきた、生活環境への言語処理適応問題が解決し、日常生活支援ロボットに不可欠な、利用者の生活空間や習慣に応じた自然で効果的なコミュニケーションが実現できるものと期待されています。さらに、音声対話インターフェース分野の新たな市場の創出も期待できます。
<背景>
日常生活支援ロボットの研究開発は、世界的にも日本がリードする状況にあります。しかし、こうしたロボットの対話機能に関しては、設計者によって与えられた固定言語知識に基づく言語処理技術を採用しているため、ロボット自身が利用者毎に異なる状況に応じた発話の意味(*1)を適切に理解することができず、現状ではまったく不十分な状況です。
<今回の成果>
予め言語知識を与えるのではなく、利用者の状況に合った対話と行動の言語能力を、ロボット自身が幼児の発達と同じように、音声と画像と動作によるコミュニケーションを通して学習する技術を開発しました。
従来の言語学習型ロボット(*2)は名詞のみを用いた学習であったのに比べ、新たな技術として、行動の学習も可能とし、名詞に加えて動詞や文法も学習することができます。さらに、言語 的知識、行動に関する非言語的知識、実世界知識などの種々の知識を、適応的に関連付ける方法も考案し、状況に応じて利用者の意図を適切に推定できるようになりました。
人間とのコミュニケーションを通して、その場で数十個の単語と単純な文法などを学習し、利用者の発話に従い、机の上に置いた縫いぐるみを操作したり、質問に音声で答えたりすることができるようになりました。
「いつものかばんを持ってきて」などの人間の発話に対してロボットが適切に行動したり、気が利いたタイミングで「雨が降りそうだから傘を持って出かけた方がいいですよ」などと 教えてくれる機能の付加につながる重要な基礎技術を実現しました。
<今後の展望>
より日常的な生活に近い環境で、より大規模で実用的な知識の学習機能・性能の評価・検証に取り組みます。
尚、本技術は6月14-15日に開催される国際シンポジウム(*3)で発表予定です。本技術の一部は国立情報学研究所との共同研究の成果です。
補足資料
【用語解説】
*1 発話の意味:
発話の意味は、コミュニケーション参加者が置かれた状況によって、さまざまな影響を受けることがあります。状況によって異なる意味を持つ発話は、たとえば以下のとおりです。
発話者A: コーヒーを飲むかい?
発話者B: コーヒーを飲むと目が覚めるわ。
ここで、発話者Bの発話は、もしBが今から夜遅くまで仕事をする必要がある状況ならば、Aの申し出を受け入れたいという意味を持ち、もしBが今から寝ようとしている状況ならば、断りの意味を持つことになります。
*2 言語学習型ロボット:
MIT(マサチューセッツ工科大学)のDeb Roy氏により開発された知能ロボットシステムTocoは、操作者が物を見せながら単語を発声することにより、物の概念とそれを指し示す名詞とを学習します。
*3 国際シンポジウム:
International Symposium on Universal Communication
期間:2007年6月14 - 15日
場所:ハイアットリージェンシー京都
発表講演
日時:6月15日10:00~
タイトル:Learning Conversations: Developmental Approach to Situated Language Processing
講演者:独立行政法人 情報通信研究機構 知識創成コミュニケーション研究センター 音声言語グループ 岩橋直人