NICT、電界カメラのリアルタイム化原理の実証に成功
電界をその場で映し出すカメラの原理を実証
―回路の動作をリアルタイムに確認、通信機器の開発・試験の高効率化を実現―
独立行政法人情報通信研究機構(理事長代行:田中栄一、以下NICT)は、電界の分布を視覚的に表示する映像装置(電界カメラ)のリアルタイム化原理の実証に成功しました。今回試作した装置では、信号処理の高速化原理の適用に成功し、回路から染み出す電界の分布を毎秒30フレームの速度で映し出し、回路の実イメージと並べて表示できる機能を確認しました。携帯電話などに用いられる高周波回路の動作状態やその変化の様子、周波数に対する依存性といったイメージ情報をその場で確認することができます。今回の原理実証により、回路や機器の動作状態の情報を容易に、かつ即座に確認することが可能となり、通信機器の開発や試験の高効率化が図られるものと期待されます。
<背景>
今日のパソコンや携帯電話、無線LAN、衛星放送受信機器などには、その心臓部に高速な電子回路(高周波回路)が組込まれています。高度な情報通信機器を開発するには、高周波回路の設計と試作、そして性能試験が繰り返され、多くのリソースが投入されますが、試作回路内部の動作状態が即座に診断される手法が開発されれば、開発過程において格段の効率化が図られます。また、機器試験の場面でも同様の効率化が期待できます。しかし、回路内部の動作は眼で見えないものであり、それを表現し診断するためには、外部の信号を測定しその結果から内部状態を推定する方法に頼らざるを得ない状況です。これに対して、最近、内部動作を反映する回路上の電界に注目し、その値を微小な測定子により検出する技術の適用が検討されています。しかし、回路全体の電界分布の把握には測定子の機械的走査が必要であり、そのための時間が分オーダーから時間オーダーを要するとともに、即座の診断を実現するためには新しい原理が必要とされていました。
<今回の成果>
NICTでは、マイクロ波回路上の電界分布を画像として表示する際、機械的走査を必要としない超並列光ヘテロダイン法を考案し、それを適用した電気光学結晶方式の電界観察技術の研究開発を行ってきましたが、今回、電界分布画像表示をリアルタイム化する原理の実証に成功しました(図1、図2)。試作装置では画像表示に至る信号処理の高効率化に成功し、100×100画素の電界分布イメージが毎秒30フレームの速度で連続的に取得され、かつモニタ上にリアルタイム表示も可能です。これは、信号処理のための演算装置を高速イメージセンサに直結させ、高速演算機能によって必要なデータのみを抽出する新しい原理を利用することにより実現できたものです(図3)。
(注)図1~3は、補足資料2に記載。
<今後の展望>
本技術は高度な情報通信機器の開発やそれらの過程で用いられ、それらの作業効率化に寄与するものと期待されます。今後は、感度性能を改善し、回路動作診断アルゴリズムの確立等、技術移転を視野に入れた研究開発を進める予定です。
●補足資料1
【用語解説】
・電界:電波や電気信号の一成分。回路面から上方にわずかにしみ出しています。
・リアルタイム:ここでは測定時刻に遅れることなくイメージの表示がなされる即時性を表します。
・マイクロ波:一般に、周波数300MHzから30GHzの電磁波をマイクロ波と呼びます。携帯電話や無線LAN等の無線通信機器に幅広く利用されています。
・電気光学結晶:加えられた電界に応じて光の屈折率が変化する結晶のことです。
・高速イメージセンサ:画像が高速かつ連続的に取得されるセンサ。デジタルカメラなどに用いられるイメージセンサと比較して、単位時間当たりの画像取得速度は100倍以上高速化されています。
・電界カメラ:今回開発した電界をリアルタイムで映し出す装置を電界カメラと呼んでいます。英語ではLive Electro-optic Imaging(LEI)と表現しています。
●補足資料2
図1.電界カメラのイメージ図。高周波回路(T字型)から電気信号に応じた電界(赤色)が染み出し、それがリアルタイム撮像装置によって視覚的に映し出されています。虫メガネの形態は将来の夢を表したものであり、現状では原理実証実験用の装置が用いられています。図中の電界分布は実測結果です。
図2.T字型高周波回路に電界カメラを適用した結果を示します。回路裏面の金属板が右方に移動することにより回路動作条件が変化しますが、それが回路動作に及ぼす影響がリアルタイムに映像化された例(左側は電界分布像)が示されています。右側は実イメージであり、金属板の移動によって回路透過光が変化する様子が現れています。並行して、金属板の影響による回路信号電界の変化が左側の図にも明らかに現れています(白い部分)。
図3.電界カメラのシステム構成(a)と新しい信号処理方式が記されています。演算装置がイメージセンサに直結されることによりリアルタイム化が実現されました。
(※ 図1~3は関連資料を参照してください。)