富士通研究所、汚染状況をリアルタイムに分析する汚染センサーを開発
LSI製造におけるミニ・エンバイロメント向け汚染センサーを開発
~汚染状況をリアルタイムに分析~
株式会社富士通研究所(注1)は、LSIの製造歩留まりや品質を下げる原因となっている空中の汚染物質を分析するために、QCM(Quartz Crystal Microbalance)(注2)による汚染センサーを開発しました。本センサーは、最近の半導体製造における主流となっているミニ・エンバイロメント(注3)で使用される密閉容器内で測定できるものです。リアルタイムで汚染状況の分析が可能になることで、汚染の原因追及が容易になるため、製造歩留まりや品質の向上につながります。
本技術の詳細は、9月25日から27日まで東京で開催される15回半導体生産技術国際シンポジウム(ISSM2006)で発表します。
【 開発の背景 】
LSI製造時の歩留まりを下げる原因のひとつに、空中の汚染物質があります。空中の汚染物質がデバイスに付着すると、腐食などを起こすために歩留まりや品質の低下につながります。また、汚染物質はガス状のため、原因や汚染経路を特定しにくい問題がありました。
【 課題 】
これまでは、汚染物質はサンプリング分析法で調べていましたが、この方法は分析に時間がかかり、リアルタイムでは分析できないため、どこで汚染物質が混入したかの原因究明が困難でした。また、最近主流となってきたミニ・エンバイロメントでは、ウェーハの保存や搬送にポッドという密閉容器を使いますが、ポッドにはサンプリング分析法は使用できません。そこで、容器内の汚染物質をリアルタイムに分析できる技術が新たに必要になってきました。
【 開発した技術 】
今回、QCMを用いた容器内の汚染センサーを新たに開発しました(図)。QCMは、水晶発振子の表面に物質が吸着すると発振周波数が変化することを利用したもので、1平方センチあたり0.5ナノグラムの物質が吸着しただけで1ヘルツ変化するという高い検出効率を持っています。
ミニ・エンバイロメント向けのセンサーを実現するためには、小型のQCMセンサーを開発するとともに、内外の接続においてフレキシブル・フラットケーブルを使用することで容器に穴をあけるなどの改造を加えることなくセンサーを挿入できる接続方法を考案しました。
またQCMには、吸着した物質の種類を特定できないという欠点がありましたが、本センサーと一緒に金属板を入れておき、あとでその表面をXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy,X線光電子分光法)(注4)で定性分析する手法を取り入れることで弱点を補いました。
これらにより、従来困難であったポッド内の汚染状況の分析をリアルタイムかつ高感度に行うことを可能にしました。
●図 開発した汚染センサー(センサー下部の丸い部分がQCM)
(※ 関連資料を参照してください。)
【 効果 】
本技術は、従来のミニ・エンバイロメントを用いた製造ラインに即、適用することが可能です。しかも、製造プロセスのどの段階で汚染物質が混入したかの特定が容易になるので、対策が立てやすくなり、製造歩留まりや品質の向上が期待できます。
【 今後 】
今後は、本技術の効果を富士通株式会社における実際のLSI製造プロセスで検証するのに加え、さらに利便性の高い分析装置の開発を行っていく予定です。
以上
[注釈]
注1 株式会社富士通研究所:代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
注2 QCM(Quartz Crystal Microbalance):水晶発振子に物質が吸着すると発振周波数が変化することを利用して、吸着したものの質量を非常に高い感度で測定する装置。
注3 ミニ・エンバイロメント:半導体を製造するクリーンルーム全体を清浄にするのではなく、ウェーハの周囲の局所環境だけを清浄に保つ方法。ウェ-ハの保存や搬送にポッドと呼ばれる密閉容器を使う。
注4 XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy):物質にX線をあてて、出てくる電子のエネルギーを調べることによって、物質に含まれる元素や、物質の状態を調べる分析法。