情報通信研究機構、世界最速・最高密度の光ファイバー通信を実現する「高速光変調器技術」の開発に成功
世界最高速度・最高密度の光ファイバ通信を実現する高速光変調器技術の開発に成功
<背景>
ネットワーク上のトラフィック量は急速に増加しており、今後もさらなる増大が見込まれます。こうした状況を踏まえ、現在、100GbEの検討がなされています。これを実現するには多重化される1チャネルあたりの容量拡大が必要で、それには光変調デバイスの高速化と多値化(1度に2ビット以上の情報を送る)が不可欠です。さらに、波長多重化の拡大や、コストの低減化も重要なファクターとなります。
一方、光ファイバ伝送に適した波長帯域は限られており、商用の光通信システムでは一般にCバンドとよばれる帯域が利用されています。2001年には、Cバンド以外の帯域も同時に利用することで10.9Tb/sの伝送容量の報告がありましたが、特殊な光アンプが必要等の問題があり、これ以降、容量拡大の報告はありませんでした。
<今回の成果>
NICTは、これまでに光周波数シフトキーイング(FSK)*4変調器の開発に成功し、企業への技術移転を図り、すでに製品化に結びつけるなど高い技術開発力を有しています。こうしたFSK変調器は光の「周波数」のみならず「強度」、「位相」の各要素を高速かつ正確に制御する能力を持っています。特に差動4相位相変調方式(DQPSK)は、周波数利用効率が高く、将来の変調方式として期待されていました。
今回は、電極構成、駆動方法を工夫することにより、100Gb/sをこえる超高速DQPSK信号発生を実現する高速動作可能な変調器を開発しました。本変調器を用いてベル研により実施された伝送実験では、光ファイバ伝送容量のCバンドにおけるデータ伝送世界記録(12.3Tb/s)、周波数利用効率の世界記録(3.2b/s/Hz)、そして100Gb/s以上の伝送速度での長距離伝送記録(2,000km)が、それぞれ達成されました。これらの世界最高レベルの数値データ等から、世界をリードするNICTの光変調に関する技術力の高さが実証されました。
尚、伝送実験結果をECOC 2006において2件のポストデッドライン論文として発表いたしました。
<今後の予定>
今後のネットワーク利用を支える実用技術として、社会に貢献することを目指し、さらなる変調技術の高速化、多重化技術との融合、長期の安定した稼動を実現するための集積デバイス技術・制御技術の開発を進めてまいります。今回の実験はCバンドのみで行いましたが、新たな帯域利用との併用にも挑戦し、さらに数倍の伝送容量の拡大に取り組みます。
報道資料
独立行政法人情報通信研究機構(以下NICT。理事長:長尾 真)は、米国ルーセントテクノロジー社ベル研究所(以下ベル研。)と共同で、超高速高密度光ファイバ伝送に向けた差動4相位相変調方式*1による高速光信号発生技術の開発に成功しました。この変調技術*2を用い、ベル研において、100GbE(100Gb/sに対応したイーサネット規格)*3への対応が可能な実用帯域であるCバンドでの世界最高速度・最高密度の光ファイバ伝送を達成しました。
<研究内容に関する問合せ先>
情報通信研究機構
新世代ネットワーク研究センター
Tel:042-327-7490 Fax:042-327-7938
E-mail: kawanish@nict.go.jp
【用語解説】
*1 差動4相位相変調方式(Differential Quadrature Phase Shift Keying:DQPSK)
PSKの一種で隣り合うタイミングの光信号間の位相を4通りに変化させることで一度に2ビットの信号を安定に伝送できる。
*2 変調技術
光通信では光の3つの要素:振幅(明るさ)、位相(タイミング)、周波数(色、波長とも同義)のいずれかを変化させることで信号を表現するが、その変化をさせる方法のこと。
*3 100GbE(100Gb/sに対応したイーサネット規格)
次世代のネットワーク規格として期待されている100Gb/sに対応したイーサネット規格。動画像配信などの伝送容量を必要とするアプリケーションの普及に伴う通信トラフィック増大に対応するために、イーサネット規格の革新が進み、現在、100GbEの検討がなされている。
*4 周波数シフトキーイング(Frequency Shift Keying : FSK)
周波数を切り替えることで情報を伝送する方式。NICTで独自に開発した光FSK変調器を用いると高速の信号伝送が可能。光パケットシステムでのラベル信号発生に利用可能。高速大容量伝送にも適している。
http://www2.nict.go.jp/pub/whatsnew/press/040302/040302.html
位相シフトキーイング(Phase Shift Keying : PSK)
位相を切り替えることで情報を伝送する方式。超長距離伝送に適しているとされる。FSK変調と同じくラベル信号発生にも利用可能であるが、信号検出に光の波動性を利用した方法が必要で、レーザの安定性が要求される。
補足資料1(*添付資料参照)