住友金属、X100・X120超高強度大径溶接鋼管を開発
X100・X120超高強度大径溶接鋼管の研究開発について
当社はこの程、陸上・長距離ガスパイプラインプロジェクトに対応したX100・X120(*1)超高強度大径溶接鋼管(*2)を開発した。
この研究開発に当たっては、当社が国内で唯一保有するバースト試験設備(*3)を最大限活用した。そこで、開発した超高強度大径溶接鋼管が高圧操業下で十分に高い安全性を有することを確認しており、ExxonMobil社殿、BP社殿から高い評価を得ている。今後の実ラインへの適用については、引き続きメジャーオイル、エンジニアリング会社、各国研究機関との共同研究を推進する。
なお、量産化に向けた取り組みについては、世界に先駆け、鹿島製鉄所へ総額100億円の設備投資(平成22年完了予定)を決定している。
記
1.開発の背景
近年のエネルギー需要の増加により、大径溶接鋼管への需要の大幅な増大が予想される中で、陸上・長距離ガスパイプラインプロジェクトにおける、高圧高効率輸送による輸送コストの低減と、大径溶接鋼管の薄肉化による建設コスト低減を可能にする、X100・X120超高強度大径溶接鋼管の開発と実用化に寄せられる期待は非常に大きい。
2.開発内容
(1)概要
・ X100:BP社殿 サンプル提供による評価試験への協力(平成12年-平成17年)
開発したX100大径溶接鋼管の特性を調査し、ラインパイプ用として実用可能であることを確認した。更にガスバースト試験も行い、安全性も確認した。
・ X120:ExxonMobil社殿 共同研究開発(平成7年-平成18年)
大径溶接鋼管母材から共同開発を実施し、試作した大径溶接鋼管の特性を確認すると共に、鋼管敷設時に必要な特性(現地溶接性、鋼管曲げ特性等)も確認した。
いずれも当社の大径溶接鋼管の優れた特性が認められており、X120についてはExxonMobil社殿から、その性能が開発目標を達成したとして承認されている。
(2)開発のポイント
超高強度大径溶接鋼管の開発に当たっては、製鋼プロセスにおける高清浄度化(リン、硫黄、窒素などの不純物の低減)や熱間圧延時の制御圧延(*4)の適用の他、以下の先進技術を適用した。
・ 世界初、微量ボロン制御による母材及びシーム溶接金属(*5)の高強度・高靭性化
大径溶接鋼管用母材及びシーム溶接金属中の微量ボロンを制御することによって、世界で初めてX80~X120の高強度大径溶接鋼管の鋼特性を向上させることに成功した。特にX120母材については、微量ボロン適用による1000MPa級の引っ張り強度と優れた低温靭性、更に溶接性を向上させた。
・ Advanced ACC(*6)適用による母材組織の微細化と強靱化
大径溶接鋼管用母材では、これまでも圧延後にACC(加速冷却)が適用されてきたが、水冷停止温度は450~550℃であった。今回、超高強度大径溶接鋼管用母材の製造に当たり、より少ない合金元素量(溶接性を高めるのに必要)で、組織微細化と強靭性を得るため、水冷停止温度を400℃未満とするAdvanced ACCを開発し適用した。
3.超高強度大径溶接鋼管の開発を支えるバースト試験設備
当社は、高強度大径溶接鋼管の高圧操業下における安全性を評価するため、外径20インチ(508cm)以上に対応可能な国内唯一のバースト試験設備を保有しており、大径溶接鋼管の開発に大きく貢献している。
(1)水圧バースト試験(水圧による大径溶接鋼管の破壊試験)
開発した大径溶接鋼管が、設計に定められている強度を有しているかどうかを直接確認できる。その他、破壊の起点および破壊前の変形性能の調査に適用される。X100・X120超高強度大径溶接鋼管の開発に当たっては、その開発段階で、繰り返し水圧バースト試験を行い、その性能を評価することで、材料開発、製造条件の適正化に貢献した。
(2)ガスバースト試験(ガスによる大径溶接鋼管の破壊試験)
ガス(通常は窒素ガス)またはガス+水を大径溶接鋼管内に充填し、ガス圧で破壊を行うことで、実際の天然ガスパイプラインのように内圧の掛かった状況を模擬し、「き裂伝播挙動(*7)」を調査する。き裂伝播シミュレーション技術の高精度化を通じて、き裂伝播停止に必要とされる大径溶接鋼管の性能を明らかにすることで、安全な大径溶接鋼管の開発に貢献している。また、今回の開発では、ガスバースト試験時の三次元破壊過程を世界で初めて高速度カメラで撮影した。
<用語解説>
(*1) X100・X120
1平方mm当たり70kg(X100)、84kg(X120)までの強度(=内圧)が掛かっても変形しない鋼管のこと。XとはAPI(American Petroleum Institute:米国石油協会)のラインパイプの強度記号で、数字の100は降伏強度(Yield Strength)が100ksi(kiro pound square inch)以上の鋼管のことである。
(*2) 大径溶接鋼管
大径溶接鋼管とは、厚板を母材とする鋼管と、薄板を母材とするスパイラル鋼管の2種類に大別できるが、ここでは厚板を母材とするガスパイプライン向け大径溶接鋼管のことを指す。製造方法は、厚板をUプレス-Oプレスにて鋼管状に成形後、鋼管の内側と外側からSAW(Submarged Ark Welding:高品質で量産対応可能なアーク溶接の一種)溶接で製管される。一般に外径20インチ以上の高級大径溶接鋼管の製造に適用され、当社では鹿島製鉄所の大径管工場にて製造される。
(*3) バースト試験設備
大径溶接鋼管のバースト(内圧による破壊)特性を確認できる試験設備のこと。国内で外径20インチ以上の大径溶接鋼管のバースト特性を調査できるのは、当社が総合技術研究所(波崎:茨城県神栖市)に所有する設備のみである(詳細は参考資料参照)。
(*4) 制御圧延
圧延時の加熱温度および圧延温度を制御し、圧延後の鋼板組織を微細化する技術のこと。
(*5) シーム溶接金属
大径溶接鋼管(*2参照)は厚板の中央を押し曲げて円形にし溶接を行うが、この溶接部をシーム溶接と称している。シーム溶接金属はその部分の金属組織を意味する。
(*6) ACC
ACCは「Accelerated Cooling」の略で圧延後の加速冷却を意味する。通常、水(スプレー、水+圧空など)による冷却を行い、当社厚板設備ではDAC(Sumitomo Dynamic Accelerated Cooling)と呼ばれている
(*7) き裂伝播挙動
き裂(割れ)がどのように鋼管を進行し、停止するかの挙動。万が一、不測の事態で鋼管が破壊した際に、短い距離で、き裂が停止することがガスラインパイプの安全性に重要。実管バースト試験を実施し、き裂伝播停止特性を調査することより、ガスラインパイプの安全性を推定することができる。
以 上