飛島建設、高周波誘導加熱技術を利用した除去式アンカーを開発
高周波誘導加熱装置による除去式アンカーを開発
― アンカー設計の最適化・アンカー除去効率などを飛躍的に向上 ―
飛島建設(株) (社長・池原 年昭) では、高エネルギー加速器研究機構 (機構長・ 鈴木 厚人) との共同研究で、従来の機械的除去式アンカーの課題を解決する「高周波誘導加熱技術を利用した除去式アンカー」を開発するとともに、実際の工事現場で試験施工し"PC鋼より線"を高周波誘導加熱技術で確実に短時間で切断除去が可能であることを実証いたしました。
従来の工法では、偶数本の"PC鋼より線"の選択が不可避、除去不能なアンカーが生じる、引き抜き時に特殊な機械が必要などの課題があり、高周波誘導加熱技術により地中の終端部で切断除去することで、これらの課題解決を図るものです。
【高周波誘導加熱技術】
被加熱体の外周に誘導コイルを配置し、高周波電流を流すと被加熱体の表面には高周波磁束が発生します。(関連資料「参考図」参照)この磁束が被加熱体を貫通しますと、その表面に非常に高い電流(うず電流)を誘導し、被加熱体の表面では電気抵抗によるジュール熱が発生し自己発熱を起こします。
【開発の背景】
近年、仮設土留の支保工のひとつとしてアンカー工法がありますが、過密化する都市部では民地境界を侵すため、近年、除去式アンカーの使用が増えてきています。それに応えて各種の除去式アンカー工法が提案され採用されていますが、設計上複数本の"PC鋼より線"となり最適な設計が出来ない、引き抜き時、特殊なウインチ等が必要、除去不能なアンカーが生じる、除去費用が高い等の課題も有ります。本技術は、最適なアンカー本数が選択でき、簡単な装置により「PC鋼より線」を確実に除去できることなどを狙いに開発した技術です。
【本工法の特長】
(1)アンカーとして奇数本の"PC鋼より線"も採用可能です。旧来の偶数本とする必要のある除去式アンカーと比べ、最適なアンカー本数設計が可能です。
(2)耐荷体先端でのループ加工が無いので、PC鋼より線許容荷重の低減がありません。
(3)"PC鋼より線"引き抜き時、特殊なウインチ等が不要です。(今回試験施工では人力除去が可能でした)
(4)従来の一般的な除去方法では"PC鋼より線"にくせ(らせん状)が付き、引き抜き後の処理が非常に問題でありました。本工法はPC鋼より線が直線的に切断されるので、従来方式と比べ除去後の"PC鋼より線"の処理が非常に容易です。
(5)除去費用を含めたトータルコストの低減が可能となります。
【試験施工概要】
実施時期:平成18年11月13日
試験施工現場名:NEXCO 中日本 東名阪自動車道 植田南工事
除去式アンカー概要:
・ 鋼矢板部の山留め仮設材として設置される除去式アンカー。
・ 試験施工数量は3セット。
・ アンカーは直径12.7mmの"アンボンドPC鋼より線"3本組、アンカー長11m。
・ 耐荷体を有する圧縮タイプの除去式アンカーを25゜の傾斜で建込み。
・ 設計定着(緊張)荷重は31.7トン/1セット当たり。
今回、試験施工しました除去式アンカーは3セットです。(関連資料「画像:除去装置を内蔵した耐荷体」参照)
除去式アンカー1セットの構成は、3本の"PC鋼より線"をポリエチレン管で被覆し、鋼線と被覆の間にグリスを充填した「アンボンドPC鋼より線」、アンカーの緊張力を支持地盤に定着し荷重を支える構造体の「耐荷体」、および高周波コイルによる「除去装置」から成っています。
削孔後アンカーを建て込み、"PC鋼より線"を緊張しました。(削孔から緊張までは通常と同様の作業です)
引き抜きは、地上部からコイル部へ高周波電流を通電し、緊張状態のまま"PC鋼より線"を加熱切断しました。切断した"PC鋼より線"は人力にて引き抜けました。除去式アンカーに高周波電流を通電後30~40秒で全てのPC鋼より線を切断することができました。
【今後の展開】
今回の良好な試験施工結果により、装置全体のコンパクト化、および長期耐久性の確認を行い、合理的・確実な除去式アンカー工法として改良を重ね、建築・土木の幅広い現場に適用可能な技術として普及に取り組みます。
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防災R&Dセンター 技術研究所 第四研究室
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