三菱重工、TAI社と半導体製造装置のキー技術「MCR-CVD成膜技術」を事業化
半導体製造装置のキー技術「MCR-CVD成膜技術」を事業化
三菱重工 初のカーブアウト
三菱重工業株式会社と株式会社テクノロジー・アライアンス・インベストメント(TAI社)(※1)は共同で、塩素プラズマだけで金属成膜を実現する革新的なMCR-CVD(塩化金属還元気相成長法 Metal Chloride Reduction-Chemical Vapor Deposition)成膜技術の事業化へ乗り出す。三菱重工が世界で初めて開発に成功し、半導体製造分野の次世代技術として期待を集めるMCR-CVD成膜技術の知的財産・開発資源を、TAI社が本目的のために設立した事業会社に集約することによりスピーディな事業展開をはかるもので、総合企業が開発しながら事業化の難しい有望な技術資源を戦略的に社外へ切り出し、外部の経営資源も導入しながら成長加速を目指す三菱重工初のカーブアウト(※2)となる。
MCR-CVD成膜技術の事業化を担うのは、TAI社が全額出資して昨年設立した株式会社フィズケミックス(PCX社)。同社はこれまでも三菱重工から知財ライセンスを受けてMCR-CVD成膜装置の事業化を検討してきたが、同事業関連の資源を同社へ集約することで、より効率的かつスピーディな事業化を目指す。
PCX社の運営に当たっては、TAI社が人材と資金を供給するほか、業務の委託や提携のコーディネイトに当たる。一方の三菱重工は、MCR-CVD成膜装置関連の人材・知財・設備をPCX社へ集約する。また、三菱重工はPCX社が進める研究開発に対し、人材や試験・評価設備といった面で総合企業の特徴を活かした協力を継続していく。
PCX社は資本金3億1,000万円。本社を東京・赤坂に置き、MCR-CVD成膜技術を搭載したLSI用装置(配線、メタルゲート)やMEMS/積層LSI用貫通配線装置(※3)などの積極的な拡販を目指す。
MCR-CVDは、塩素プラズマによる還元作用を利用してLSIウエハーに配線やトランジスタ電極を形成する成膜技術。塩素ガスと固体金属しか使用せず、これまで必要とした特殊なガスや金属錯体などを用いないため、設備が単純で、運用・メンテナンスを劇的に単純化できる利点を持つ。また、埋込み性に優れることから、LSI製造のコスト要因となっている複雑な前後工程を削減できると期待されている。
三菱重工はこの技術を2002年末に開発、基本技術46件を国内外へ特許出願するとともに、実用装置の開発に着手してきた。しかし、事業展開のための人材や顧客・ベンダーとのパイプ不足などのため、市場の要求するスピードに十分追随できたとはいえず、このような状況を打破するため、今回の決断となった。
PCX社は今後、この分野の専門リソース(人・技術・ネットワーク)を集め、フルに活用していくことで、機動的な事業運営を展開していく。TAI社はこれを全面的に支えて事業価値の向上を目指し、一方の三菱重工は、自らが進める半導体関連装置事業とのシナジー効果の増大をはかっていく。
※1 株式会社テクノロジー・アライアンス・インベストメント(TAI社)=三菱商事と日本政策投資銀行が折半出資で設立した投資会社。わが国初のカーブアウト専門ファンドとなる「イノベーションカーブアウトファンド」(総額:約150億円)を運営。
※2 カーブアウト=企業内の技術・事業シーズを成長戦略に基づいて社外へ切り出し、親元企業からの支援と連携を保ちつつ、不足する経営資源については外部から機動的に取り込む企業ベンチャーの一形態。
※3 MEMS/積層LSI用貫通装置=MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)や積層LSIを製造する際に、MEMS/LSIチップの表から裏へ内部配線を形成するための装置。従来はメッキで成膜。
以 上