忍者ブログ

ニュースリリースのリリースコンテナ第一倉庫

ニュースサイトなど宛てに広く配信された、ニュースリリース(プレスリリース)、 開示情報、IPO企業情報の備忘録。 大手サイトが順次削除するリリースバックナンバーも、蓄積・無料公開していきます。 ※リリース文中の固有名詞は、発表社等の商標、登録商標です。 ※リリース文はニュースサイト等マスコミ向けに広く公開されたものですが、著作権は発表社に帰属しています。

2024'11.24.Sun
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2007'05.10.Thu

理化学研究所、ミトコンドリアDNA複製開始に遺伝的組換え開始と共通の装置が働くことを解明

ミトコンドリアDNA複製の常識の一端が覆る
- ミトコンドリアDNA複製開始には遺伝的組換え開始と共通の装置がはたらく -


◇ポイント◇
 ・謎であった細胞質遺伝の基本問題(ホモプラスミー)を分子の機能で解く
 ・RNAの合成とされたミトコンドリアDNA複製開始と、細胞質遺伝の定説を書き換える
 ・神経や筋肉などの老化やミトコンドリア症対策について手掛かりに

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、ミトコンドリアDNA※1複製の定説とされていた“RNA合成”ではなく、複製開始配列でのDNA二本鎖切断などの遺伝的組換え開始と共通の反応が、子孫へ伝えられるミトコンドリアDNAの複製で主要な働きをすることを、酵母を使って明らかにしました。この発見で、(1)しばしば変異して不均一になりがちなミトコンドリアDNAが、全て同じ遺伝子組成を持つようにリセットされる仕組みと、(2)多くの遺伝子を失ったある種の変異ミトコンドリアDNAが、極端な優先遺伝をする仕組みについて、分子の機能で合理的に初めて説明できました。これは、理研中央研究所柴田武彦上席研究員と凌 楓(りん ふぉん、LING Feng)先任研究員らの研究成果です。
 ミトコンドリアは、生体の活動全てにエネルギーを供給する、細胞のエネルギー生産工場です。また、ミトコンドリアは、核とは別に独自のゲノムDNAを持っており、いわゆる細胞質遺伝(非メンデル型遺伝)を行っています。個々の細胞には、数百から数千個以上ものミトコンドリアゲノムDNAがあり、しばしば突然変異することから、このDNAの組成はかなり不均一になると予測されます。また、歳をとると、一部の組織のミトコンドリアDNAは不均一になっていきます。しかし奇妙なことに、増殖している個々の細胞や新生児では全身で、全てのミトコンドリアDNAが同一の遺伝子型組成(同一のDNA配列)を持っています。この「ホモプラスミー」と呼ばれる状態へ短時間にリセットするという細胞質遺伝の現象は、酵母からヒトまで共通にみられます。このように何故、それぞれの細胞に数百から数千個もあるミトコンドリアDNA集団が均一になるように効率よくリセットされるかは長年の謎でした。さらに、ヒトでは、多くの遺伝子を失った変異ミトコンドリアDNAが増加することによる不均一化は、神経などの老化や重篤な疾患と深く関わっていますが、その理由は分かっていませんでした。今回の発見は、こうした細胞質遺伝の謎を分子の働きで理解し、対策をたてるために、初めての手掛かりを得たと期待されます。
 本研究成果は、米国微生物学会が出版する科学雑誌『Molecular and Cellular Biology』に近く掲載されます。


1.背 景
 ミトコンドリアは、細胞のエネルギー生産工場です。酸素呼吸によって生体の活動に必要なほぼ全てのエネルギーを供給しています。同時にミトコンドリアは、真核生物の祖先に寄生したバクテリアの子孫といわれ、その名残として核とは別に独自のゲノムDNAを持っています。このミトコンドリアDNA(mtDNA)が、母親からだけ遺伝する(母性遺伝)、いわゆる細胞質遺伝(非メンデル型遺伝)を行っています。
 個々の細胞には、数百から数千個ものミトコンドリアゲノムDNAがあります。ミトコンドリアの機能である酸素呼吸は副産物として活性酸素種を発生し、その結果、ミトコンドリアDNAは、その作用でしばしば突然変異するため、このDNAの組成はかなり不均一になると予測されます。歳をとると、神経や筋肉のミトコンドリアDNAが不均一になり、歳とともに神経や運動の機能が衰える原因ではないかといわれています。しかし奇妙なことに、増殖している個々の細胞や新生児では全身において、全てのミトコンドリアDNAが同一の遺伝子型組成(同一のDNA配列)を持っています。このようにミトコンドリアDNAが均一になっている状態は、「ホモプラスミー」と呼ばれ、ミトコンドリアDNAの基本状態です。ホモプラスミーへのリセットは、ヒトでは卵母細胞ができる過程の限られた時期に、また、酵母の場合には、十数回の細胞分裂の間で起こります。この細胞質遺伝の原則は、酵母からヒトまで共通となっています(図1)。
 しかし、何故、ミトコンドリアDNA集団が効果的に均一になるようにリセットされるかは永年の謎でした。また、ヒトでは、多くの遺伝子を失った変異ミトコンドリアDNAが増加することによる不均一化が、神経などの老化や重篤な疾患と深く関わっています。細胞集団の中で、ミトコンドリアDNAの変異で呼吸の機能を失った細胞は、増殖にとって不利なはずで、本来ならば淘汰されるはずですが、それが器官の細胞集団で優性になってしまう理由は分かっていませんでした。
 これらの現象には、ミトコンドリアDNA複製や複製したミトコンドリアDNAが子孫へ分配することに関わっていると推定はされていました。ヒトでも酵母でも、ミトコンドリアDNAには、特別なDNA複製開始配列があります。その配列部位の一方の端にある転写開始配列から合成されたRNAの一部がそのまま、プライマー(合成・複製を始めるのに必要な断片)※2となりDNA複製が開始される、というのが教科書にも書かれている定説です(図2)。ところが、この定説では、それぞれのDNAが複製していくことになり、不均一なミトコンドリアDNAの集団が、ホモプラスミーという均一状態へリセットされる仕組みの説明が容易ではないという問題点がありました。
 理研中央研究所の凌 楓 先任研究員と柴田 武彦 上席研究員は、これまでに、ミトコンドリアDNAの組換えに必要なタンパク質“Mhr1”の存在とその組換えや複製でのミトコンドリアDNAへ対する働きを明らかにしています。具体的には、(1)タンパク質Mhr1が、一本鎖DNAと二重鎖DNAとの間で塩基配列がよく似たところを見つけ出して、分子間の二重鎖を作るという、普遍的な遺伝的組換え(相同DNA組換えともいう)の開始反応(相同DNA対合)を行なう、(2)Mhr1はホモプラスミーへリセットするために必要である、(3)いくつもあるミトコンドリアDNAの一つの環状DNAを鋳型にして起こる特殊な型のDNA複製(ローリングサークル型DNA複製)によってできた単位長さのミトコンドリアDNAがいくつも直列につながった多量体DNA(コンカテマー)だけが選ばれて子供の細胞に伝わり、子供の細胞では、伝わって来た多量体DNAが、もとの環状型単量体に戻ります。その結果、急速に遺伝的に均一なDNA集団になることです(図3)。この成果から、この特殊な型のミトコンドリアDNA複製開始もまた、遺伝的組換えと同様に、DNA二本鎖切断が働くのではないかと推定して、研究を進めました。


2.研究手法
 酵母では、ヒトと違い、両親のミトコンドリアDNAが子供に伝わるので、正常なミトコンドリアDNAを持つ親と変異ミトコンドリアDNAを持つ親との掛け合わせで、不均一なミトコンドリアDNAを持つ細胞を得ることが容易にできます。さらに、どちらのミトコンドリアDNAが子孫に伝わるかを調べることもできます。正常なミトコンドリアDNAを持つ親と特殊な変異ミトコンドリアDNAを持つ親を掛け合わせるとその子孫が全て、呼吸能力を失ってしまうという、“超抑制的ミトコンドリアDNA”と呼ばれる変異ミトコンドリアDNAがあります。この特殊な変異ミトコンドリアDNAがどのように子孫へ伝わっていくかについて、上記の掛け合わせという遺伝学の手法で解析しました。
 この遺伝学の実験と並行して、DNA配列、細胞の中で、DNA二本鎖切断が起こっているかどうか、その場所がどこか、細胞内でのミトコンドリアDNA分子種の状態を生化学的な手法で解析し、その結果と、遺伝学的な手法で得た結果とあわせて検討しました。


3.研究成果
 酵母の「超抑制ミトコンドリアDNA」と呼ばれるものは、大規模な欠失変異によって正常型ミトコンドリアDNAの数十分の一の部分だけからできており、正常型DNAが持つ複製開始配列のひとつを持つことが知られていました。すなわち、正常型に比べ、複製開始配列の密度を高め、正常型よりも速く複製するために超抑制現象※3が起こる、というのがこれまでの説明でした。
 凌 楓 先任研究員、埼玉大学との連携大学院生 堀 晶子と柴田 武彦 上席研究員は、この超抑制ミトコンドリアDNAを新たに得て解析したところ、超抑制ミトコンドリアDNA集団の一部で、その複製開始配列にDNA二本鎖切断が入っていることを見つけました。さらに、そのDNA二本鎖切断を入れる酵素は、酸化によってできたDNAの傷を修復する系に働く、DNA-N-グリコシダーゼ“Ntg1”であることを明らかにしました。この、Ntg1と先に見つけたミトコンドリアDNA組換えに働くMhr1の両方が、掛け合わせによってできた接合体で超抑制現象を引き起こすために必要であったことを明らかにしました(図4)。同時に、ミトコンドリアDNAの単位がいくつも直列につながった多量体を効率的に合成するためには、Mhr1に加えて、Ntg1もまた必要なことがわかりました(図5)。また、意外なことに、試験管内で、単離したNtg1に細胞から単離したDNAを反応させたところ、これだけで、ミトコンドリアDNAの複製開始配列でDNA二本鎖切断が起こりました。DNAを抽出する前に細胞に酸化ストレスを与えるとさらに、DNA二本鎖切断が多く入ったことから、ミトコンドリアDNA複製開始配列に特異的に起こる酸化損傷をNtg1が認識して、DNA二本鎖切断を行うという可能性が支持されました。
 以上をまとめると、酸化損傷に対して、ミトコンドリアDNAの複製開始配列が特に高感受性で、この配列に酸化損傷が起こると、Ntg1が働き、DNA二本鎖切断が起こり、Mhr1が、環状の別のミトコンドリアDNAを相手に組換え過程を開始します。その結果できた組換え開始中間体でおこる、本来ならば限られた修復合成で終わるDNA合成がいつまでも続くことによって、直線状多量体(コンカテマー)ミトコンドリアDNAが合成されるという全体像が描かれます。この全体像は、ホモプラスミーへのリセットをミトコンドリアDNA複製開始配列、Ntg1の酸化損傷を認識してDNA二本鎖切断を行う機能とMhr1のDNA二本鎖切断端と環状DNAから組換えを開始する機能で説明できます(図6)。
 さらに、正常型ミトコンドリアDNAと超抑制ミトコンドリアDNAを比較すると、同じ長さの多量体DNAに載る複製産物の個数は、超抑制ミトコンドリアDNAの方が、数十倍多くなることから、超抑制現象を、複製開始配列の密度に加え、子孫へ送られるDNAの複製産物の個数の違いで説明できました(図7)。このように、ミトコンドリアDNA複製開始配列に起こる特異的なDNA二本鎖切断とその切断に必要なタンパク質(Ntg1)、DNA二本鎖切断の後で遺伝的組換え反応に働くタンパク質(Mhr1)が明らかになったことで、ミトコンドリアDNA遺伝のふたつの謎が解けました。


4.今後の期待
 今回酵母で見つかったミトコンドリアDNA複製と子孫への伝達機構で、ヒトの細胞質遺伝と、変異ミトコンドリアDNA蓄積の機構が説明できます。しかし、その前に、再度、酵母とヒトのミトコンドリアDNAの複製と子孫への伝達機構が共通であるかを改めて検証し、酵母で分かったことが、どこまで、ヒトに適応できるかを明らかにする必要があります。この検証を手掛かりにすると、現在、手の打ちようがないとされている高齢化にともなうミトコンドリアDNAの変異蓄積やミトコンドリア症に対しても何らかの対策が見付かる可能性が出てきました。


*補足説明などは、添付資料をご参照ください。

PR
Post your Comment
Name:
Title:
Mail:
URL:
Color:
Comment:
pass: emoji:Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
trackback
この記事のトラックバックURL:
[24572] [24571] [24570] [24569] [24568] [24567] [24566] [24565] [24564] [24563] [24562
«  BackHOME : Next »
広告
ブログ内検索
カウンター

忍者ブログ[PR]