NICT、波長分散補償を用いない20Gbit/s光信号の長距離伝送に成功
波長分散補償を用いない20Gbit/s光信号の4,000km以上の長距離伝送に世界で初めて成功
独立行政法人情報通信研究機構(以下、NICT。理事長:長尾 真)の平成18年度の高度通信・放送研究開発に係る委託研究テーマ「λアクセス技術の研究開発」プロジェクトにおいて、株式会社KDDI研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:秋葉 重幸)は高効率無線方式であるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式を光領域に適用し、高速伝送を実現する新たな方式を開発しました。
本方式により、従来、高速伝送に必要であった分散補償ファイバを使用することなく、20Gbit/s光信号を従来の4倍となる4,000km以上の長距離伝送することに成功しました。
本成果は、将来の100ギガビット級イーサネットの実現につながる技術であり、3月25日から米国・カリフォルニア州アナハイムで開催されたOptical Fiber Communication Conference/National Fiber Optic Engineers Conference(OFC/NFOEC 2007)にて発表されました。
<背景>
光伝送システムにおいて、1つの波長当たりの伝送速度を高速化する検討が進められています。伝送速度を単純に高速化すると、光ファイバの性質の一つである波長分散により伝送している光信号の波形拡がりが大きくなり、伝送可能な距離が非常に短くなります。(補足資料1)そのため従来は拡がった波形を狭める特殊な光ファイバ(分散補償ファイバ)を用いて伝送が可能な距離を延伸していました。しかしながら、拡がった波形を狭めて元の信号波形を戻すためには分散補償ファイバを最適な長さに調整する必要があり、特に伝送速度が高速になるほど調整は精密に行う必要があります。一方、イーサネットは、調整箇所を無くして簡単に扱うことができるのが特長の規格です。現状のイーサネットは10ギガビット毎秒が規格の最高速度となっており、最近になって100ギガビット毎秒級の規格化が検討され始めた状況ですが、100ギガビット毎秒級イーサネットの実現には分散補償ファイバが不要な実用的な高速光伝送技術が必須となります。
<成果概要>
このような課題を解決するために、NICTでは、委託研究「λアクセス技術の研究開発」(受託先:日本電信電話株式会社、日本電気株式会社、国立大学法人東京大学、三菱電機株式会社、株式会社日立製作所、株式会社KDDI研究所、学校法人慶応義塾大学、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社の8者)を実施し、株式会社KDDI研究所にて分散補償ファイバを不要とする高速光伝送技術の研究開発を行ってきました。
本研究開発は、一つの波長で伝送する信号を細分化することにより、伝送路による波形拡がりの影響を低減可能な方式であるOFDM方式(補足資料2)を光伝送システム用に改良を行ったものです。光伝送システムにOFDM方式を適用する場合、送信信号から光搬送波を除去して伝送し、受信器において局発光を加えて受信するコヒーレント光検波方式の適用が一般的に有効ですが、この方式では局発光の位相雑音や周波数ずれによりデータ誤りが増えるため、これらの影響を低減することが重要となります。その解決策として、OFDM信号中に目印となる信号(パイロット信号)を挿入して伝送し、受信側でパイロット信号を使って局発光の位相雑音や周波数ずれの影響を抑圧する方式を新たに開発しました。(補足資料3)本方式の有効性を確認するために、実証実験を実施し、波長分散補償を行なわずに、20ギガビット毎秒信号を4,000km以上に渡って伝送することに成功しました。本成果はOFDM方式を用いた光伝送の従来の世界トップデータと比較し、伝送速度で約3倍、伝送距離で約4倍に達しています。(補足資料4)
<今後の展開>
今回開発した方式は、100ギガビット級イーサネットへの適用をはじめとした、さらなる高速化を目指して、研究開発を今後も行っていきます。
(※ 補足資料1~4は関連資料を参照してください。)