慶応大学、カラスの脳地図作成に成功
やはりカラスは賢い
世界で初めてカラスの脳地図作成に成功
カラスの脳は体重にしめる比率が極めて高く、10-13グラム程度であることは知られていました。しかし、どの部分が発達しているか等、詳細はあまりわかっていませんでした。慶應義塾大学人文COE*の渡辺茂教授・伊澤栄一准教授のグループは世界で初めてカラスの脳地図を作成することに成功し、近年、「道具作り」や「欺き」などの霊長類に匹敵する知性が観察されてきたカラスの脳の全貌を、詳細にわたって明らかにしました。本研究は、カラスの知性に関して脳科学的に貴重な知見をもたらし、ヒトを含めた動物の脳や知性の進化を解明する突破口になる可能性を持っています。
1.脳地図について
脳の研究には脳地図が欠かせません。この地図は、頭部を固定する座標を決めて、脳の切断面を示した3次元の地図帳のようなものです。脳地図を使うことによって、脳内の正しい位置を知ることができます。この地図は5月14日より http://www.cirm.keio.ac.jp/db/bird_brain/ で世界に公開される他、近日出版される“Integration of Comparative Neuroanatomy and Cognition”(Keio Univ. Press)にも掲載される予定です。
2.カラスの脳の特徴
カラスは、体重にしめる脳重の比率が高く、優れた知的能力を持つことが知られています(2ページ目【脳化指数】参照)。今回の脳地図の作成により、カラスの脳は、思考や学習、感情をつかさどる大脳が極めて大きく、また大脳の中でも巣外套や高外套といわれる知的活動に関係する部分が大きく、よく発達していることがわかりました。この巣外套や高外套は、ヒトを含めた哺乳類の大脳皮質の「連合野」(視覚野や聴覚野とは異なり、視覚や聴覚などの複数の情報が交わる領域)と呼ばれる部分に相当すると考えられており、複雑な情報処理を可能にしていると推察されます。一般にカラスは賢いと言われますが、今回の脳地図の作成により科学的に実証されました。
3.地図の作成方法
カラスの頭部を決まった位置に固定する脳定位固定装置の作成から始めました。ネズミやハト用装置は市販のものがありますが、カラス用装置は市販されていないので特注で製作しました。カラスの脳はマイナス20度の低温で凍結して、薄く切ります。切ったものを「クレシルバイオレット」と「ルクソールファストブルー」という色素を溶かした液で染色したうえで、顕微鏡で調べ、神経細胞が周辺に比べて密・疎になっている集団に区分していきます。同時に薄く切った脳の標本を画像化して、そこから図を作成し、神経細胞の集団に名前をつけていきます。この作業を脳のくちばし側から尾側まで1ミリずつおこない、地図帳を作成しました。
*慶應義塾大学人文COE:文部科学省が公募した21世紀COEプログラムの人文科学分野で採択された拠点。「心の解明」に向けて、脳科学、神経科学、行動遺伝学などの最新の研究成果を哲学、言語学、表象論、情報学などの人文諸学の研究蓄積と融合する統合的方法論を構築している。
【脳化指数】
(※ 関連資料を参照してください。)
【カラスの脳地図の一部】(標本写真の点線部分が巣外套・高外套)
(※ 関連資料を参照してください。)