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2024'11.25.Mon
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2007'06.07.Thu

理化学研究所、RIビームファクトリーで新同位元素を発見

RIビームファクトリーで新同位元素の発見に成功

- 世界に冠絶する次世代加速器施設のRI生成能力の高さを証明 -


◇ポイント◇ 
●ウランイオンを光速の70%まで加速、ベリリウムと衝突させ、新同位元素を発見
●最終目標値の1/100,000程度のビームで、早くも中性子過剰な新同位元素の発見に成功
●元素の起源解明など原子核物理の根源となる研究がスタート 


 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、仁科加速器研究センター(矢野安重センター長)が推進している次世代加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)(※1)」で、中性子過剰領域に存在する未知の放射性同位元素(※2)(RI)を生成することによって、新同位元素の発見に成功しました。今回見つかった新同位元素は、パラジウム(元素番号46)-125(質量数)です。パラジウムの安定な同位元素で中性子過剰なものは、質量数110の同位元素であることから、15個も中性子が過剰な未知の同位体です。
 この新同位元素は天然に存在する最も重い元素であるウランを、超伝導リングサイクロトロン(SRC)等の加速器システムで光速の70%まで段階的に加速した後、生成標的であるベリリウムに衝突させ、ウラン特有の核分裂反応(※3)を用いて生成しました。さらに、生成したRIを超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)で収集・分析し、中性子過剰な新同位元素として特定しました。
 RIBFの心臓部であるRIビーム発生系施設は平成19年3月に完成し、現在、各装置の初期調整を行っている段階です。今回の実験で得られたウランビームの強度は稼動動開始直後のため、最終目標値の約10万分の1で、1秒あたり約1億個でした。新同位元素の発見には、ウランのような重い元素を従来の世界水準を越えるビーム強度で加速し、さらに生成したRIを効率的に収集することが必要となります。今回、新同位元素の発見に成功したことは、SRC、BigRIPS等から構成したRIビームファクトリー発生系施設が、中重核(※4)領域のRI生成能力において世界最高性能であることを証明したことになります。
 RIビームファクトリー計画では、水素からウランまでのすべての元素のRIビームを世界最多の4,000種類発生できる唯一の研究施設を建設し、この施設から創出される多くの新しい原子核をも包含する「新たな原子核モデルの構築」、さらに「元素の起源の解明」といった原子核物理の根源的な研究に挑戦することを目指しています。
 今回、新同位元素の発見に成功したことは、世界に冠絶する施設として期待される人類未踏の研究成果の序章として、国際的に熾烈な開発競争を続けているRIビーム発生施設の開発で日本が先鞭をつけたことになります。
 今後は、引き続き未知の放射性同位元素(RI)生成実験を行うとともに、RIビーム発生系施設で生成されるRIを詳細かつ多角的に解析する装置を平成24年度までに順次整備し、RIビームを活用した世界初となる本格実験に挑戦していきます。
 今回の新同位元素の発見の成果は、開催中の原子核物理国際会議INPC2007で6月6日、緊急報告しました。 


1.背 景 
 原子核は陽子と中性子で構成され、原子核の性質は陽子数と中性子数で決まります。原子核を陽子数と中性子数で分類した図表を核図表と呼び、今回見つかった原子核は図1の核図表上に位置しています。パラジウム-125の陽子数は46で中性子数は79です。
 この新しい原子核が見つかった領域は、陽子数50、中性子数82といった魔法数(※5)近傍の原子核であり、原子核物理学者が注目している領域です。魔法数を持った原子核は一般的に安定で堅く丸い形状をしていると考えられていますが、魔法数近傍の領域ではどのような形状となっているのか注目を集めています。また、この領域の原子核は鉄からウランまでの元素生成に関わる原子核だと考えられています。今回の新同位元素の発見は、この原子核物理学者が長年抱いてきた問いを解くための第一歩を踏み出すことに成功したと言えます。
 地球上に天然に存在する安定な原子核は約300個ですが、理論的には10,000個の原子核が存在するといわれ、その殆どが放射線同位元素(RI)で不安定な原子核です。
 原子核物理学は、約100年前、放射性同位元素(RI)の発見とともに始まりました。まずは天然に存在する安定な原子核や半減期(寿命)の長い不安定核の研究が行われ、様々な理解が進みました。その後、加速器を用いて人工的に放射性同位元素(RI)を生成することができるようになると、原子核物理学は加速器技術・RI分離技術の向上とともに段階的に発展し、現在では、半減期(寿命)が極端に短い不安定核の研究ができるようになってきました。
 理研では1937年に仁科芳雄博士が日本初、世界で2番目の加速器を建造して以来、世界最先端の加速器研究施設としての地位を保持し、既存の加速器施設では1990年以来、安定原子核では見られない不安定原子核に特有の「中性子ハロー(※6)」や「魔法数の喪失と新魔法数の出現」の研究などで実績を上げています(2000年5月29日プレス発表など http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2000/000529/index.html )。
 今回、未知の放射性同位元素(RI)の生成に成功したことは、従来の世界水準と比し加速器技術・RI分離技術が飛躍的に向上したことを意味し、原子核物理学の新たな歴史が、理研の施設でつくられようとしています。  


2.研究手法 
(1)RIビームファクトリーの装置群 
 RIビームファクトリーは、既存の加速器(RILAC、RRC)を増設する形で3基の新たなリングサイクロトロン(fRC、IRC、SRC)と超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)から構成されるRIビーム発生系施設を整備し、重イオン(※7)の加速能力とRIビーム生成能力を飛躍的に高め、既存施設では軽い元素に限られているRIビームをウランまでの全元素にわたって世界最大強度で発生させ、さらに、独創的な実験設備群を整備し生成したRIを多角的に解析・利用することを目指しています(図2)。
 RIビームは、安定な原子核のイオンビーム(重イオンビーム)を高いエネルギーまで加速し、それを生成標的(ターゲット)に照射して、「入射核破砕反応(※8)」または「ウラン-238の核分裂反応」を利用することによって発生させます(図3)。特にウラン-238の核分裂反応は、質量数50から140に至る広い範囲で中性子過剰なRIを生成する能力がとても高いと考えられています。例えば、ニッケル(陽子数28)-78を生成する能力は従来型の入射核破砕反応に比べ約1,000倍です。
 RIビームファクトリーでは、既存の重イオン加速システムと3基の新しいリングサイクロトロンで段階的にエネルギーを上げていく「多段式」の加速方式(図4)を採用して、ウランまでのすべての元素の大強度イオンビームを核子当り345MeV(水素から質量数40までのイオンビームは核子当り400~440 MeV)まで加速できるように設計されています。今回のウランビームの加速も、この「多段式」の加速方式で行いました。
 超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)は、核分裂反応によって生成したRIを磁石(磁場)の力で効率良く収集・分離するように設計されています(図5)。ウランが標的元素と衝突して生ずる核分裂で解放されるエネルギーは大きく、生成された核分裂片はビームの進行方向に沿って大きな角度に広がって生成されますが、BigRIPSは超伝導四重極電磁石を擁し、この大きく広がった分裂片の約半分をも集める能力を誇ります。
 BigRIPSは、世界初のタンデム(直列)型のRIビーム生成装置であり、2つのステージで構成されています。第1ステージはRIの収集と分離の機能をもち、第2ステージではRIの特定を行います。この設計思想の原点は、理研の既存施設で行われているRIビーム実験での実績・経験から生まれたもので、タンデム型を採用したことにより、ビーム強度を損わずに生成されたRIを特定することが実現しました。

(2)新同位元素の特定
 今回の新同位元素の発見は次のように行いました(図5)。
1)SRCを含む加速システムで加速したウランビームを生成標的であるベリリウムに衝突、核分裂反応を起こしRIを生成。
2)生成したRIを、BigRIPS第1ステージへ通過させ、中性子過剰なRIのみ選別し分離。
3)分離した中性子過剰なRIをBigRIPS第2ステージに通過させ粒子識別を実施

 原子核を特定するためには、RIの元素番号Z、質量数A、電荷量Qを決定する必要があります。重い原子核では分裂片に電子がつくことがあり、電荷量は例えば電子が一つ付くとQ=Z-1になります。従って、電荷量も測定する必要があります。これらの量を決定するために生成したRIの飛行時間、エネルギー損失量、運動量、運動エネルギーを測定しました。これらの測定量から元素番号Z、質量数A、電荷量Qを導出し、横軸A/Qと縦軸Zの粒子識別の図をつくります(図6)。図の1点が分裂片1個に相当しています。Zが46の同位体だけを選び、A/Qのヒストグラムをつくることによって、パラジウムの新しい同位体を発見しました。
 今回、発見したパラジウムの新同位体125Pdは59個生成できました。安定同位体110Pdより15個も中性子過剰で、パラジウムの同位体では1997年に124Pdが発見されて以来のことです。
 今回生成した放射性同位元素(RI)125Pdの陽子数は46で、中性子数79で中性子の魔法数との違いは3だけです。この周辺の原子核の性質を今後調べることによって、この領域での魔法数喪失現象の有無について研究を行うことができます。また、これらの放射性同位元素(RI)は鉄からウランまでの元素生成過程に関与する原子核だと考えられています。今後、ウランビームの強度を向上させると、半減期や精密な質量を測ることができるようになり、宇宙における元素合成過程の理解へ挑戦することができるようになります  


3.今後の展望 
 RIビームの発生利用技術は、日本人研究者の手により1980年代半ばに発明され、安定線(※9)から遠く離れて存在するエキゾチックな不安定原子核の構造を探る、唯一の研究手段として世界中で積極的に用いられてきました。その結果、極端に中性子や陽子が多い不安定原子核には、これまで原子核の基本的性質と考えられてきた「原子核の飽和性(密度一定)」を破る中性子ハローや中性子スキン構造を持つものがあることや、「殻モデル」が予言する従来の魔法数が魔法性を失い新たに別の魔法数が出現するなど、これまでの「原子核像の常識」を覆す核構造の存在が随所に発見されつつあります。これらの異常な核構造までも包括して説明する「究極の原子核モデル」の構築が求められています。そのためには、いまだ発見されていない安定線から遠く離れた原子核を可能なかぎり多種生成しそれらの特性を調べ、多様な原子核構造の全貌を明らかにする必要があります。
 RIビームファクトリーでは約4,000種類の不安定核を生成することができます(図7)。その内約1,000種類は、人類未踏の不安定核です。今後、加速器システムを着実に高度化し、この未踏の不安定核生成へ挑戦していきます。
 RIビームファクトリーの完成によって、主要テーマである「究極の原子核モデルの構築」だけにとどまらず、そもそも元素はどのようにして生まれたのかという「元素の起源解明」といったさらに根源的な研究が可能となります。また、RIビームファクトリーで得られる成果は、物理学、天文学、化学といった基礎科学分野だけにとどまらず、医療、環境、園芸産業、農業、食糧、工業、IT、考古学などの応用分野にも及ぶことが期待されています。RIビームファクトリーは、今年度より、独創的な基幹実験設備を順次整備し、生成されたRIビームを多角的に解析し、精細な物理現象の解明という目的の達成を図るとともに、新しいRI技術による新産業の創出に貢献していきます。
 RIビームファクトリーは、次世代加速器施設として世界の研究者が注目しています。今回の実験は、ドイツ・米国の研究者も参加し、国際共同研究チームによって行いました。
 今年2月に開催した国際実験課題採択委員会では、向こう2年分の実験課題を公募したところ、国内外から19課題、延べ265日分もの実験課題申請があり、そのうち約7割が国際共同研究です。RIビームファクトリーは本年度から本格的な実験を開始し、世界の最先端研究施設として国際的な共用を開始します。


*補足説明などは、添付資料をご参照ください。

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