日立とユビキタス研、UWB無線通信センサネット端末向けLSIの低消費電力技術を開発
UWB無線通信センサネット端末向けの、LSIの低消費電力技術を開発
回路への電源供給制御により、端末の消費電力をデータ送信時6分の1、受信時3分の2に抑制
日立製作所中央研究所(所長:福永泰/以下、日立)は、高精度な位置検出を特長とするUWB*1無線通信方式(UWB-IR)2を用いたセンサネット端末(センサノード)向けの、LSIの低消費電力技術を開発しました。送信時・受信時ともに、必要な時に必要な回路部にだけ電源を供給することにより動作電力を低減したものです。また、UWB無線の特徴である位置検出においても低電力な動作を実現するために、受信した無線信号をデータに変換する受信回路とセンサノードの位置を検出するための回路を1つの回路にまとめ、位置検出用に追加する回路サイズを従来の10分の1以下として消費電力を低減しました。
今回は、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所(所長:坂村健/以下、ユビキタス・ネットワーキング研究所)が試作した1cm角の超小型センサノードに本技術を採用したところ、採用しない場合に比べてセンサノードの消費電力がデータ送信時に約6分の1、受信時に約3分の2に、それぞれ低減されることを確認しました。本技術により、5分に1回、位置検出動作とデータ送信を行うことを想定した場合、150mAhのボタン電池を使って約10年間にわたってセンサノードが駆動可能になることが期待されます。
センサネットは、身の回りのモノや人、環境の温度、振動、脈拍などの情報をネットワーク経由で収集することで、空調・照明の管理、食品衛生管理、災害監視、健康管理などを実現する技術です。例えば、厨房や食品倉庫で温度や湿度を検知し、検知したデータをもとに遠隔操作で空調の設定変更を行うことで、食品の品質管理や安全性を高めることなどに活用できます。測定されたデータを利用して、社会生活のさまざまな場面で新しいサービスが可能になることから、次世代の情報システムとして期待されています。
センサネットの大規模なシステムを構築する場合、膨大な数のセンサノードが必要になるため、消費電力を低く抑え、電池交換などのメンテナンスを不要にすることや、測定対象の位置を正確に把握できる高精度な測位機能が必須となります。このため、近距離通信領域において現在広く用いられている無線通信方式であるIEEE802.15.4に比べて通信容量が大きく、ビットあたりの消費電力が格段に小さいことに加え、高い測位精度を特長とするUWB-IRを用いたセンサネットが注目され、その実用化に向けた研究開発が進められています。
こうした状況の中で今回、日立は、ユビキタス・ネットワーキング研究所によるUWBセンサノードの開発において、LSIの実装を請け負い、日立の高周波技術および低消費電力化技術を利用して、センサノード向けの、LSIの低消費電力技術を開発しました。開発した技術の詳細は以下の通りです。
1.「データ送信時のセンサノード動作電力を低減する「電力供給制御回路技術」
無線通信回路の消費電力は、データ送信時に特に大きくなります。そこで、センサノードを構成する無線送信回路やマイコンなどの機能回路ごとに、電源供給を制御する回路技術を開発しました。この電源制御により、必要な時に必要な機能回路だけに電源を供給することができ、消費電力が大きい無線通信機能回路への電源供給時間が短くなるため、送信時の消費電力を最小限に抑えることができます。
2.データ受信時に最も消費電力が大きなアナログフロントエンド回路の低消費電力技術
受信した無線信号を処理するアナログフロントエンド(AFE)回路は、センサノードを構成する機能回路の中で最も消費電力が大きな回路です。基地局から届く無線信号は、このAFE回路内部を順次、高速で伝達される形で処理されていきます。そこで、AFE回路を細かく分割して電源スイッチを設け、受信信号が伝達していく時間に合わせて内部回路の電源スイッチをオン・オフすることによって電源供給を最小限にし、低消費電力化を実現しました。
3.受信回路を用いた位置検出機能の小型、低電力化を実現
受信機能回路の一部を用いてセンサノードの位置検出を行う回路技術を開発しました。この結果、位置検出を実現するために追加する回路のサイズを、従来の10分の1以下とし、センサノードの小型化に加え、消費電力の増加を抑制することが可能となりました。
今回開発した技術を、ユビキタス・ネットワーキング研究所が試作した容積1cm角のUWB-IR方式のセンサノードに採用したところ、センサノードの消費電力が本技術を適用しない場合に比べてデータ送信時に約6分の1に、受信時に約3分の2に、それぞれ低減できることを確認しました。これは、5分に1回、測位動作とデータ送信を想定した場合に、150mAhのボタン電池で10年の電池寿命に相当する電力性能であり、本技術は今後、センサネットワークのアプリケーションや市場の拡大に向けて、大規模センサネットワーク実現のための基本技術として期待されます。
本技術は、2007年6月14日から京都で開催される大規模集積回路に関する国際会議「Symposium on VLSI Circuits」にて発表する予定です。
なお、ユビキタス・ネットワーキング研究所が試作した容積1cm角のセンサノードは,総務省委託研究「ユビキタスネットワーク技術の研究開発・超小型チップネットワーキング技術の研究開発」の成果です。
*1 UWB:Ultra Wideband(超広帯域)。
*2 UWB-IR:UWB Impulse Radio。
以 上