国際農林水産業研究センター、熱帯性魚類の稚魚を安定供給する技術を開発
熱帯性魚類の稚魚を大量・安定に供給できる技術の開発
熱帯性魚類の種苗生産技術は未確立で、稚魚の死亡率が高いため、安定した人工種苗生産技術の確立が求められています。独立行政法人 国際農林水産業研究センター(JIRCAS)では、アラキドン酸という必須脂肪酸を熱帯性魚類の親魚の餌に加えることにより、産卵量が増加し、ふ化した仔魚の生残率も大幅改善すること、さらに、ふ化した仔魚の餌にアラキドン酸を加えると稚魚の生残率が大幅に改善することを明らかにし、熱帯性魚類の種苗を安定的に量産できる技術を開発しました。
本技術は発展途上国の養殖産業の振興・普及およびFAO(国連食糧農業機関)が掲げるブルーリボリューション(青の革命:養殖を含めた漁獲量の飛躍的増大)の達成に有用な技術です。
●用語解説:
アラキドン酸はDHAやEPAとおなじ必須脂肪酸の一種であり、産卵やストレス耐性をつかさどる重要な生理活性物質です。
一般に海産魚類にはDHAおよびEPAが多量に含まれ、アラキドン酸はほとんど含まれていないとされてきました。そのため、熱帯性魚類を養殖するうえで、アラキドン酸の重要性については考慮されていませんでした。
【 背景 】
発展途上国では野生の稚魚を大量に捕獲して養殖に用いるため、魚類資源の減少・枯渇が危惧されています。一方、熱帯性魚類の種苗生産については産卵が不安定でふ化仔魚の生残率は低く、稚魚の死亡率は極めて高いなど、安定した人工種苗生産技術の開発が強く望まれています。
JIRCASでは、国際プロジェクト「マングローブ汽水域における魚介類の持続的生産システムの開発」の一環として、2002年から4年間、東南アジア漁業開発センター養殖部局(フィリピン)と共同して「熱帯性魚類の種苗生産技術の開発」に取り組みました。
本技術成果は共同研究機関である東南アジア漁業開発センター養殖部局において高く評価され、その業績は養殖部局長より顕彰されるとともに養殖部局広報誌において成果が紹介されています。また、本研究の成果の一部は既に国際専門誌に発表され、これからも他の部分を発表する予定です。
【 内容 】
1.まず、冷水性(サケやマス)・温水性(タイやヒラメ)魚類とは異なり、熱帯性魚類(ハタ類、フエダイ類、フエフキダイ類、アイゴ類)の生殖巣にはアラキドン酸が多量(冷・温水性魚類の約4倍)に含まれていること、このことがサンゴ礁域やマングローブ域に生息する生物にとって普遍的な事実であることを明らかにしました。
2.次に、アラキドン酸の効果を確かめる実証試験を現場ふ化場(東南アジア漁業開発センター養殖部局)で実施し、親魚の餌に適量のアラキドン酸を加えることによりフエダイ類やアイゴ類の産卵量増加(約3倍)やふ化仔魚の生残率の大幅改善(18%から36%へ)に成功しました。
3.さらに、ふ化仔魚の餌に適量のアラキドン酸を加えることにより稚魚の生残率を大幅に改善(約3倍)することにも成功しました。
図1.生殖巣に含まれるアラキドン酸のEPAの量に対する比
図2.ゴマフエダイの産卵総数(×100万個)
図3.ゴマアイゴ稚魚の生残率(%)
(※ 関連資料を参照してください。)
【 今後の展開 】
1.アラキドン酸の有効性について規模を拡大した現地ふ化場で実証試験が行われ、実用性・汎用性の高い技術に改良される。
2.上記の成果がマニュアル化されることで、熱帯域のふ化場への普及に貢献する。
【 問い合わせ先 】
研究代表者:理事長 稲永忍
研究推進責任者:水産領域長 北村章二(TEL:029-838-6370)
広報担当者:広報室長 松本訓正(TEL:029-838-6707 FAX:029-838-6709)
