NTT、放送・プロ向けのH.264リアルタイムコーデックLSIを開発
放送・プロ向けの素材伝送に対応可能な
H.264リアルタイムコーデックLSIを開発
日本電信電話株式会社(以下NTT、本社:東京都千代田区、代表取締役社長:和田紀夫)は、H.264/MPEG-4 AVC(*2)国際標準(以下、H.264)における放送素材伝送(*1)に適用可能な高品質映像の規定であるハイ4:2:2プロファイル(*3)に対応した、HDTV(*4)に適用可能なリアルタイムコーデック(*5)LSIを世界で初めて開発しました。
今回開発した技術は、2007年4月16日から米国ラスベガスで開催される国際放送機器展(NAB2007)で展示を予定しています。
○開発の経緯
NTTのサイバースペース研究所(以下、NTT研究所)(*6)では、高品質の映像配信等のサービスを実現するため、2002年夏に世界初の国際標準準拠の放送・プロ向け1チップMPEG-2(*7) HDTVコーデック LSI(VASA)を開発するとともに、VASAを活用した高品質MPEG-2ベースのコーデックシステムの開発に従来から取り組んできました。これらの技術は、2003年12月に開始された地上デジタル放送を支えるシステムLSIとして、放送局の局内外の各種MPEG-2エンコーダやデジタルTV中継網の基幹部品で利用されており、放送・プロ向け用途においてMPEG-2エンコーダのデファクト化を実現してきました。
H.264時代の本格的な到来に向けて、HDTV番組の制作を可能とする放送・プロ向けのH.264コーデックシステム機器の小型化・経済化や、スポーツライブ・音楽イベントライブ等のHDTVを超える高臨場大画面映像の効率的な実現方法も必要とされています。NTT研究所は、このようなニーズに応えるため、MPEG-2関連の開発で培った技術力をベースに、H.264の研究開発を進めてきました。
○開発内容
●放送・プロ向けH.264リアルタイムコーデックLSIの実現(別紙参照):
民生用ビデオカメラ用途等で、各社H.264 HDTVリアルタイムコーデックLSIチップを開発し搭載していますが、NTT研究所は、放送・プロ向けの高品質の実現や放送設備で不可欠な多段リンクにも耐える高機能の実現に向け、1チップでSDTV相当の処理を行いマルチチップでHDTVを処理する、放送・プロ向けH.264リアルタイムコーデックLSI(開発コード名SARA:Super Advanced Real-time CODEC Architecture for H.264 professional implementationsの略)を新たに開発しました。複数チップ間のリアルタイムコーデック処理の協調動作やストリームの多重分離処理によるマルチチップ拡張機能をチップ内に内蔵し、チップ搭載システムの構成と制御の簡単化を実現しています。
○技術のポイント
1.4:2:0フォーマットの2倍の色情報を有する4:2:2フォーマット映像処理を葉書サイズモジュールで実現
一般的にH.264はMPEG-2の2倍の圧縮率を実現できると言われていますが、汎用DSPなどを用いた従来技術では、主に4:2:0フォーマット映像を用いた家庭などへの映像配信用途を想定した規定であるH.264ハイプロファイル(*8)のHDTVエンコード/デコード処理でも、同等の映像品質を保ちつつこれだけの高い圧縮率を達成することができていませんでした。今回の成果によって、H.264の真の性能である高圧縮率を達成すると共に、4:2:0フォーマット映像の2倍の色情報を有する4:2:2フォーマット映像のHDTV(1920×1080i)エンコード/デコード処理を葉書サイズで実現することができます。
2.幅広いH.264関連装置への適用が可能
今回の成果を用いることでHDTVエンコード/デコード処理をモジュールが葉書大のサイズで実現できることによって、HDTVエンコーダとHDTVデコーダを同一筐体に組み込んだトランスコード装置や、2系統のHDTVエンコーダを同一筐体に組み込んだ2パスエンコーダなどの幅広いH.264関連装置への適用を期待できます。
3.MPEG-2からH.264へのリアルタイムトランスコード機能
今回の成果は、MPEG-2からH.264へのリアルタイムトランスコード機能を有する点も特長であり、放送局などの膨大なMPEG-2映像資産を今後のH.264映像配信サービスや地上デジタル放送のIP同時再送信などで幅広く活用していただくことにもお応えできます。
○今後の予定
本チップ搭載システム装置は、今後本格化する映像配信サービスや地上デジタル放送のIP同時再送信での利用に向けて検証を重ね、今年度第3四半期にNTTエレクトロニクス(株)から販売開始予定です。
<用語解説>
*1 素材伝送
放送業界において番組編集の元となる画像や音声を伝送すること。通常のBSデジタル放送等のビットレートはMPEG-2 HDTVでも20Mbps程度ですが、それらのHDTV番組を制作する過程で使用される素材伝送では、60Mbpsから150Mbpsといわれる高レートの品質が必要となります。
*2 H.264/MPEG-4 AVC
ITU-TのVideo Coding Experts Group(VCEG)とISO/IEC JTC 1のMoving Picture Experts Groupとの合同チームであるJVT(Joint Video Team)で規格化され、従来方式であるMPEG-2などの2倍以上の圧縮効率を実現可能な一方、MPEG-2と比較して、10倍~100倍の膨大な演算量を要するとされています。
*3 ハイ4:2:2プロファイル
ハイ4:2:2プロファイルは、ハイプロファイルに4:2:2色空間への対応を追加したものです。放送・プロ向けに必要な機能とされています。
*4 HDTV(High Definition Television)
従来のテレビに比べ、走査線数を増加し、画面ワイド化、音声のデジタル化などをはかり、格段に画質と音質を改善した放送方式。
*5 コーデック(CODEC:COder and DECoder)
映像や音声データを所定のストリームに圧縮するエンコーダ(Coder)と、逆に圧縮されたストリームから映像や音声データに伸張するデコーダ(Decoder)の、両方の機能を有するもの。
*6 サイバースペース研究所( http://www.ntt.co.jp/cclab/ccsouken/sp/sp_index.html )
ブロードバンド・ユビキタス時代の情報通信サービスの基盤技術として、映像や音声などのメディア処理の高度化による新しい価値の創出や、自然で快適な高臨場感コミュニケーション環境の実現などに向けた研究開発に取り組んでいる研究所です。
*7 MPEG-2(Moving Picture Experts Group-2)
MPEGは動画像圧縮に関する国際標準方式。そのうちMPEG-2は、HDTVを含むテレビ映像など高品質な映像の標準符号化方式で、DVDやデジタルテレビ放送にも適用されています。
*8 ハイプロファイル
メインプロファイルにHDTV画像サイズに有効であるとされている8x8画素整数変換、量子化マトリクスなどを追加したプロファイルです。
・別紙 SARAチップ写真
http://www.ntt.co.jp/news/news07/0704/070406a_1.html