タカラバイオ、多発性骨髄腫の遺伝子治療の臨床試験にレトロネクチンをライセンス供給
ピーター・マッカラムがんセンター(メルボルン)が行なう
悪性血液腫瘍の一種である多発性骨髄腫の細胞遺伝子治療に、
レトロネクチン(R)【*】をライセンス
タカラバイオ株式会社(社長:加藤郁之進)は、オーストラリアのピーター・マッカラムがんセンター(Peter MacCallum Cancer Centre, メルボルン市)のプリンス(Miles Prince)教授らのグループが実施する多発性骨髄腫の遺伝子治療の第I相臨床試験に、当社が開発したレトロネクチン(R)をライセンス供給します。本臨床試験は、多発性骨髄腫患者6名に対して行われる予定です。
多発性骨髄腫は悪性血液腫瘍のひとつで、免疫応答の重要な役割を担う抗体を産生する細胞ががん化することにより発症する疾患です。がん化した細胞は、骨髄のいたるところで増殖し、周囲の骨を破壊し、さらに免疫システムの異常や腎障害といった深刻な症状を引き起こします。多発性骨髄腫の発症率は毎年10万人中約3~4人で、特に高齢者に多く発症することが知られています。現行の主な治療法は抗がん剤による化学療法ですが、この治療法では平均生存期間は約3年で、新たに有効な治療法が求められています。
プリンス教授らが実施する本臨床試験では、まず、患者から取り出したT細胞【*】に、がん化した細胞の表面に発現しているルイスY(Lewis-Y)【*】という糖鎖抗原を特異的に認識するキメラ受容体【*】遺伝子を、レトロウイルスベクター【*】により当社の開発したレトロネクチン(R)を用いて高効率に導入します。この遺伝子を導入したT細胞を培養して大量に増やした後に患者の体内に戻します。通常のT細胞はルイスY抗原を発現しているがん細胞を認識しにくいのですが、ルイスY抗原を特異的に認識するキメラ受容体遺伝子を導入したT細胞は、がん化した細胞の表面に発現しているルイスY抗原を認識して、がん化した細胞を特異的に攻撃すると考えられます。
このコンセプトに基づき、マウスにルイスY抗原をもったヒトの卵巣がんを移植しておき、ルイスY抗原を特異的に認識するキメラ受容体遺伝子を導入したT細胞を作用させると、89%のマウスでがん細胞の増殖が著しく抑制されることがプリンス教授らによって発表されています(PNAS,vol. 102, 19051-19056, 2005)。
当社がライセンスしたレトロネクチン(R)を用いて行われる臨床試験は、本臨床試験が世界で41番目となります。また、当社が日本・欧米諸国以外の地域で行われる体外遺伝子治療臨床試験にレトロネクチン(R)をライセンスするのは今回が初めてのことです。いまや体外遺伝子治療は難病治療の有効な一手法として世界中に広まりつつあり、同時に当社のレトロネクチン法も体外遺伝子治療に用いられる技術のスタンダードとしてよりいっそう認知され、さらに広がっていくものと期待しています。
当資料取り扱い上の注意点
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【*】は関連資料「語句説明」参照