山形富士通など、高密度ハードディスク向けアルミナナノホール列の形成に成功
高密度ハードディスク向けアルミナナノホール列の形成に成功
~1平方インチあたり1テラビットの磁気記録実現に前進~
株式会社山形富士通(以下、山形富士通(注1))、株式会社富士通研究所(以下、富士通研究所(注2))、財団法人神奈川科学技術アカデミー(以下、KAST(注3))光科学重点研究室益田グループ(グループリーダー:益田秀樹 首都大学東京 教授)は共同で、次世代のハードディスク記録媒体に向けた陽極酸化アルミナナノホール(注4,5)の一次元配列で、世界で初めて25ナノメートル(以下、nm)間隔のナノホール列の形成に成功しました。これにより、1平方インチあたり1テラビット(注6)の記録密度を持つ磁気記録の実現が期待できます。
この技術により、ハードディスクに用いられる磁気記録媒体の記録容量を現行製品の5倍以上に高められると期待できます。
今回開発した技術は、テラビット級の垂直磁気記録(注7)媒体の実現に向けた基礎研究で、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の革新技術開発研究事業として受託しているものです。
(研究期間:平成16年度~18年度、3年間)
なお、本技術の詳細は、1月7日から米国バルチモアで開催されている磁性分野の国際会議である、第10回Joint MMM/Intermag Conference(MMM-Intermag 2007)で発表しました。
<図1 開発したナノホール列の電子顕微鏡写真>
※ 関連資料 参照
■開発の背景
ハードディスクの記録密度を増やす垂直磁気記録に関する研究開発は、すでに実用化段階に入りました。今後、より高密度の磁気記録を実現するためには、磁性材料を人工的に規則正しく並べたパターンドメディア(注8)と呼ばれる記録媒体が必要となると考えられています。
一方、アルミニウムを陽極酸化したアルミナでは、ナノメートルサイズの無数の細孔(ナノホール)が形成されることが知られています。形成されたナノホールを磁性金属で充填することで、パターンドメディアの実現が期待できます。
■課題
アルミナのナノホールは、自己組織化的に蜂の巣状(六方細密構造)に形成されるため、円周方向に磁気記録するハードディスクには不向きな構造でした。それに対して当研究グループは、アルミナナノホールを一次元的に配列させる技術として、アルミニウム表面にライン状に凹凸のパターンを形成し、アルミナナノホールを一次元的に配列することに成功しています(図2(a)。2005年6月27日発表)。しかし、一次元配列の間隔は45nmまでが限界でした。
<図2 グルーブ内配列模式図(a)1列配列(b)2列配列>
※ 関連資料 参照
■開発した技術
これまでのアルミナナノホールの一次元配列は、アルミニウム表面にライン状に凹凸のパターンを形成し、凹部(グルーブ)にナノホールを1列に配列するものでした。今回、陽極酸化条件を最適化することにより、グルーブ内に2列のナノホールを形成し間隔を微細化する技術を開発しました(図2(b))。
■効果
今回開発した技術を用いて、現状の電子線描画の限界に近い50nm間隔の凹凸ラインでも、凹部の幅25nmの両側にナノホール列を形成し、25nm間隔を実現できました(図1)。これは、1インチあたり1テラビットの密度に相当します。
■今後
MMM-Intermag 2007で当研究グループは、磁性体を充填したナノホール磁性層(ナノホール配列としてはランダム)の下に軟磁性下地膜(注9)を形成し、垂直磁気記録ヘッドによる記録再生に成功したことも発表しています。今後は、ナノホールを25nm間隔で円周方向に配列し、軟磁性下地膜形成を含む記録媒体を作成し、1平方インチあたり1テラビットの記録再生を目指す基礎研究を行っていきます。
以上
■注釈
(注1)株式会社山形富士通 :
代表取締役社長 石田祥二、本社 山形県東根市。
(注2)株式会社富士通研究所 :
代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
(注3)財団法人神奈川科学技術アカデミー(KAST) :
理事長 藤嶋昭、所在地 神奈川県川崎市。
(注4)陽極酸化 :
金属を陽(プラス)極に通電することで酸化を行わせる処理。アルミニウムの場合、表面に多孔質で電気絶縁性・耐磨耗性の高い酸化被膜ができる。(注5)アルミナナノホール :
アルミナ(酸化アルミニウム)膜に生じる、ナノメートルサイズの孔。この中に磁性金属を入れたものは、将来のハードディスク記録媒体として期待されている。
(注6)1平方インチあたり1テラビット:
1インチ(25.4ミリメートル)四方に、10の12乗(1テラ)個の情報ビットが記録された状態。25nm間隔は、1インチに10の6乗個が並ぶことになるため、1インチ四方では10の12乗個となる。
(注7)垂直磁気記録 :
磁界が磁気記録面に対して垂直に向くよう磁性体を配置する方式。1970年代後半に東北大学の岩崎俊一教授(現、東北工業大学学長)が提唱。
(注8)パターンドメディア :
磁性粒子が人工的に規則正しく並べられた記録媒体。磁性粒子1つにつき1ビットを記録することにより、高密度記録が可能となる。
(注9)軟磁性下地膜 :
軟磁性体は磁束を吸収しやすい磁性体であり、これを記録層の下地膜とすることにより、磁気ヘッドからの磁束を記録層に集中させて書込みの効率を向上させることができる。