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2025'02.25.Tue
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2007'04.05.Thu

理化学研究所、DNAのメチル化判定を短時間で光学的・電気的に行うシステム原型を作成

光や電気で遺伝子制御の決め手「メチル化」を診る

- メチル化シトシンの直接標識システムを完成 -
 

◇ポイント◇ 
・DNAのメチル化した部位と選択的に結合する金属錯体などを開発 
・従来一晩かかっていたメチル化検出を最短1時間に大幅短縮 
・がんなどDNAメチル化異常の病気診断の新たな方法として期待 

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、遺伝子発現制御に強く関与する「DNAのメチル化」した部位に結合する金属錯体※1を開発し、従来一晩かかっていたDNAのメチル化の判定を1~3時間程の短時間で光学的・電気的に行えるシステムの原型を作成しました。理研フロンティア研究システム(玉尾皓平システム長)岡本独立主幹研究ユニットの岡本晃充独立主幹研究員による研究成果です。DNAのメチル化は、DNAを構成する塩基のひとつ「シトシン」に対して生じる反応で、いつ・どの遺伝子からタンパク質を作るのかを制御し、タンパク質合成に必要なRNAへの転写ステップを正しく調節します。このメチル化は、遺伝子の働きを不活性化する役割を果たしますが、異常を起こすと発がんへ至ることも知られています。そのため、メチル化が発生するDNAの位置や、その量は正常なのかを即時に計測することが必要です。
 現在のDNAメチル化判定法※2では、亜硫酸水素塩(bisulfite)や制限酵素が主として用いられていますが、DNAの思わぬ分解や反応時間の長さなどが問題となっています。また、メチル化したシトシンとそうでないシトシンを目に見える形で区別する方法は、限られていました。
 研究ユニットは、オスミウム※3という金属試薬がもつ酸化力を応用し、メチルシトシンに安定なDNA-金属複合体(オスミウム錯体)を形成させ、塩基配列の中の特定のシトシンで、メチル化しているかどうかを、蛍光や電気シグナルの強さで1~3時間の短時間で判別できるようにしました。また、DNAと金属錯体との複合体形成反応の起こりやすさが、メチル基の有無に応じて大きく異なることを見いだしました。この複合体を構成する部品で、複合体形成を補助する役割を持つ「ビピリジン※4」と呼ぶ金属配位子※5に、色素や電気応答性素子を連結することで、シトシンメチル化を蛍光や電気シグナルを用いて検知することが可能になりました。具体的には、1本鎖状態にした標的遺伝子サンプルに、オスミウム、ビピリジン配位子、活性化剤を加えて1~3時間室温で静置し、その後ビピリジン配位子に好みの応答素子を連結する実験で性能を確認しました。この手法では、従来法(特にbisulfite法)に比べて大幅に反応時間が短縮でき、また遺伝子サンプルの切断などの損傷が起こりません。
 研究ユニットは、反応だけでなく金属配位子も新たに開発し、好みのシグナルを使って配列特異的にメチル化を判定する方法を構築しています。遺伝子のメチル化は、「エピジェネティクス※6」という遺伝子発現の制御に関わる重要な役割を果たしており、細胞の運命やがん化に強く影響します。今回開発した方法は、将来、簡便ながん診断に威力を発揮すると期待されます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『Journal of the American Chemical Society』(5月12日号)に掲載されます。 


1.背景 
 先天的な遺伝子の多型とは別に、後天的なDNAのメチル化・脱メチル化が遺伝子発現のスイッチングに著しい影響を及ぼすことが知られています。エピジェネティクス機構と呼ばれるこのDNA修飾は、細胞の分化やがん化など、細胞の機能を決めるさまざまな場面で役割を果たし、生命をつかさどる重要なメカニズムのひとつとなっています。遺伝子発現のスイッチングに関わるDNAのメチル化が、配列のどこで起こっているかを知ることは、メチル化で発生する細胞のがん化の機構を解く上で決定的な役割を果たすと同時に、がん診断の有効な指標として活かすことができると考えられます。しかし、長鎖DNA中のほんの1ヶ所のメチル基の有無を、生化学的に判定することは容易ではありません。従来のDNAメチル化の検出は、制限酵素を使って非メチル化認識配列を切断して調べる方法や、亜硫酸水素塩を活用して非メチル化シトシンを加水分解する方法で行ってきました。しかし、一晩にわたるなど長時間の反応時間や、サンプルの非特異的切断が発生するなどの問題があり、手法の改善が求められています。また、メチル化を光や電気などで直接計測する(ゲル電気泳動を使わない)方法では、PCR※7による間接的な蛍光標識導入法のほかには知られていません。研究ユニットは、これまでとはまったく異なる発想でメチル化直接検出法を新たに開発し、従来の問題点の解決を図りました。

2.研究手法 
 研究ユニットは、モデル実験で検討し、標識に最も適したビピリジン配位子を化学合成しました。続いて、金属錯体の核となるオスミウム酸カリウム、金属錯体に付加するビピリジン配位子、オスミウム酸カリウムを活性化するためのヘキサシアノ鉄酸カリウムなどを含む反応水溶液を用意しました。1本鎖状態の標的遺伝子サンプルを、この反応溶液に1~3時間室温で静置し、メチルシトシンを選択的に反応させ、錯体形成を引き起こしました。さらに、余剰試薬をフィルターで取り除いた後、蛍光色素や電気応答する好みの標識素子をビピリジン配位子に連結し、標識素子からのシグナルを観測しました。 

3.研究成果 
 1本鎖状態の標的遺伝子サンプルを用意し、オスミウム酸カリウム、上記ビピリジン配位子、ヘキサシアノ鉄酸カリウムなどを含む反応水溶液中に1~3時間室温で静置しました。その結果、「5-メチルシトシン※8」に対して反応が起こり、金属錯体を形成しました(図1)。一方、メチル化されていないシトシンに対しては反応の進行が極めて遅くなります。したがって、これらの両者を、錯体形成反応を使って明確に区別することができました。配位子を種々検討した結果、4,4’位に置換基をもつ2,2’-ビピリジン配位子が、メチルシトシンに対する錯体形成反応に最も適していることがわかりました。この金属配位子は、末端をアミノ基で置換したリンカー※9を有しており、メチルシトシンとの金属錯体形成後に、そのアミノ基を介して色素や電気応答性素子を取り付けることができます。生成したオスミウム錯体(図2)に蛍光色素(フルオレセイン、ヘキサクロロフルオレセイン、テトラメチルローダミン、BODIPYなど)を取り付けると、それぞれの色素に対応する蛍光波長での蛍光強度を調べることで、シトシンのメチル化を検出できました(シトシンがメチル化されているとライトアップされます)。さらに、蛍光標識ハイブリダイゼーション※10プローブと組み合わせると、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の効果によって、どの配列にメチルシトシンがあるかを高い効率で選択的に検出することが可能になりました(図3)。一方、金属錯体に対し電気応答性素子アントラキノンを取り付けると、メチル化を電気シグナルで判定できるようになりました(図4)。これらの手法を用いることで、がん化抑制に大きな影響を与えるp53遺伝子※11の中の特定位置のシトシンについて、メチル化の有無を判定することができました。
 今回のオスミウム錯体形成を用いたメチル化判定法は、メチル化シトシンへの直接標識を用いて光シグナル・電気シグナルを観測する画期的な方法であり、同時に、従来のbisulfite法でのメチル化解析と比べ圧倒的に短時間で終了することができます。

4.今後の期待 
 本研究で扱ったDNAのメチル化の異常は、細胞の分化やがん化の機構に重要な働きをすることが知られています。したがって、今回開発した技術は、細胞のがん化に関する研究を効率的に推し進めるための研究ツールとして高く評価することができます。さらに、短時間測定、シグナル測定が可能であるため、一晩もの長い測定時間が必要な従来法と比べて、装置化に適しています。今後は、この技術を基盤とした診断装置の開発へ向けて検討を進めていく予定です。


<補足説明>
※1 金属錯体 
 中心の金属イオンとそれを取り囲む有機分子(金属配位子)から成る複合体。 
 
※2 従来のメチル化判定法について 
(1)制限酵素法 
 ・教科書に記載されている最も古典的な方法。 
 ・制限酵素による切断(メチルシトシンを含む配列での切断活性の低減の利用)。 
 ・反応時間は、制限酵素の種類による。1~数時間が一般的。 
 ・検出可能な配列が極めて限られていることが問題。 
 ・生じたDNA断片の鎖長を、ゲル電気泳動を用いて判別することで、メチル化部位を決定。 
 
(2)亜硫酸水素塩法 
 ・現在最も一般的に用いられている方法。 
 ・亜硫酸水素塩のシトシン6位への付加に伴うシトシンからウラシルへの加水分解(メチルシトシンでの加水分解活性の低減を利用)。
 ・反応後、PCRを行い、シーケンシングするか、プローブのハイブリダイゼーションによる検出を行うかしなければならない
 ・反応時間は、一般的には16時間(一晩)。 
 ・非特異的切断反応が起こり、ほとんどのサンプルで断片化が進んでいる。 
 
※3 オスミウム 
 76番元素。酸化物である四酸化オスミウムは、炭素-炭素二重結合を酸化し、ジオール(2つのアルコール)を与える。
 
※4 ビピリジン 
 オスミウムイオンの配位子として使用。 
 (※ 参考図あり)
 
※5 配位子、金属配位子 
 窒素、酸素、リン、硫黄などの原子の非共有電子対もしくは炭素-炭素多重結合などのπ電子を介して金属イオンに結合して錯体構造を形成する有機分子のこと。 
 
※6 エピジェネティクス 
 DNAの塩基配列の変化を伴わない、遺伝子発現制御に関わる後付けの修飾である。主たる現象として、DNAのメチル化修飾、ヒストンのアセチル化やメチル化、リン酸化が知られる。正常な発生や分化に関わる重要な機構であり、特に個体発生に際してダイナミックな変化をし、次世代の細胞へと伝えられていく。その破綻によりさまざまな発生・分化異常やそれに伴う疾病が生じ、最近では、がん治療や再生医療においてますます重要なテーマになりつつある。 
 
※7 PCR 
 ポリメラーゼ連鎖反応。遺伝子を増幅する代表的な方法。現在の遺伝子研究に必須の技術で、微量のDNAを短時間で100万倍ほどに増やすことができる。 
 
※8 5-メチルシトシン(シトシンメチル化) 
 エピジェネティクス機構の最も代表的な例。DNAのメチル化修飾は、遺伝子の実体である塩基配列を変えることなく、つまりコードするアミノ酸配列を変えることなく、その発現を制御する。真核生物では、一部の生物の例外を除き、ゲノムDNAのシトシンの5位がメチル化修飾を受ける。「CpGアイランド」と呼ばれるシトシンとグアニンが連続する配列を多く含む領域は、一般的にメチル化の標的になり、シトシンがメチル化されると脱アミノ化反応によりシトシンからチミンへの突然変異が起こりやすくなる。
 
※9 リンカー 
 分子を構成する複数の機能要素を、構造的につなぎ合わせる炭素鎖。炭素鎖の途中に、窒素や酸素などの原子を含むこともできる。
 
※10 ハイブリダイゼーション 
 DNAは、2本の鎖からできている。それぞれの鎖が、塩基間の水素結合を介して結合し、2重らせん構造を形成することを、ハイブリダイゼーションという。本件では、ターゲットの1本鎖DNAと色素連結DNAプローブによる2本鎖構造の形成のことを指す。 
 
※11 p53遺伝子 
 p53遺伝子は、RB遺伝子とともにがん抑制遺伝子としてよく知られている。p53遺伝子は悪性腫瘍において高頻度に異常が認められる。

 
図1 5-メチルシトシンでの錯体形成・蛍光標識 
 青色が、5-メチルシトシン。赤がオスミウム、黒がオスミウムを中心とした金属錯体部分、緑が蛍光標識(ヘキサクロロフルオレセイン)をあらわす。 
 
図2 5-メチルシトシン上に形成したオスミウム錯体(緑色がオスミウム) 
 
図3 メチル化DNAの蛍光検出 
 
図4 メチル化の電気的検出 

(※ 図1~4は関連資料を参照してください。)

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