理化学研究所、室温でスピンホール効果の電気的検出に成功
電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功
- 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 -
◇ポイント◇
●室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換(スピンホール効果)の実現に成功
●電流からスピン流への変換効率、ガリウム砒素化合物半導体に比べ、1万倍以上
●ナノスケールのスピン流回路の設計手法の確立
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、室温で伝導電子に対して強いスピン軌道相互作用※1を示すナノスケールの白金細線に電流を流し、生じるスピン蓄積(スピンホール効果)を、電気的に検出することに成功しました。この研究は、非局所手法※2を用いてスピン流※3を顕在化させ、三次元的に流れを制御する手法を確立したことで可能となりました。これは、情報を大容量で高速に処理することができる記憶媒体などを、強磁性体を使わずに実現する次世代金属スピントロニクス※4素子の開発に新たな手法を提供します。理研フロンティア研究システム量子ナノ磁性研究チームの大谷義近チームリーダー(東京大学物性研究所教授)と木村崇客員研究員(東京大学物性研究所助教)らによる研究成果です。
現在、世界でしのぎを削る競争が繰り広げられているスピントロニクス研究の中で、大容量のハードディスクを可能にした巨大磁気抵抗(GMR)効果※5に代表されるスピン依存伝導現象を支配するものがスピン流です。スピン流は、非磁性体中に蓄積されたスピンの拡散現象として生じる(電流を伴わない)スピンの流れを意味し、等量の上向き電子スピンと下向き電子スピンが各々逆向きに流れているものとして理解されます。これまでのスピン注入※6では、もっぱら強磁性体と非磁性体から成る積層構造に電流を流すことで、上述のようにスピン偏極した電流が生成されてきました。本研究では、強いスピン軌道相互作用を示す白金などの貴金属を用いることにより、磁性体を用いずに室温でスピン流を生成できることを電気的に検出し、その実態を明らかにすることに成功しました。今回の結果より得られた電流からスピン流への変換効率は、これまで報告されていたガリウム砒素化合物半導体に比べ、1万倍以上も大きいことが明らかとなりました。さらに本研究で開発した素子を用いて電流からスピン流、その逆のスピン流から電流に可逆変換できることも実験的に検証しました。
本研究成果は、米国の科学雑誌『Physical Review Letters』(4月13日号)に掲載されます。
*以下、詳細は添付資料をご参照ください。