東北大学、ナノ秒パルスレーザーを用いたシリコンウエハ加工変質層の完全修復に成功
- 単結晶基板製造のイノベーション ―
ナノ秒パルスレーザーを用いた
シリコンウエハ加工変質層の完全修復に成功
東北大学大学院工学研究科ナノメカニクス専攻の閻 紀旺准教授、厨川常元教授の研究グループは、特定条件でのナノ秒パルスレーザー照射を用いて単結晶シリコン加工物表面のアモルファス層の単結晶化および転位の完全消滅を同時に進行させることにより、加工変質層の完全修復に世界で初めて成功しましたので、お知らせいたします。本手法は、無欠陥の単結晶表面の生成を可能にするもので、半導体基板や光学デバイスの分野において、未来の新しい製造プロセスの可能性を示すものとして期待されています。本研究の一部は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)産業技術研究助成事業の支援を受けて行われました。なお本研究は、東北大学機械系で現在3つ走っている文部科学省21世紀COEプログラムの一つ、「ナノテクノロジー基盤機械科学フロンティア」(プロジェクトリーダー庄子哲雄教授)における融合研究プロジェクトの一つであります。
[背 景]
単結晶シリコンは最も重要な半導体基板材料であると同時に,優れた赤外線光学材料でもある.シリコンの形状創成は切削・研削・ラッピングなどの機械加工によって行われているが,加工による単結晶シリコンのアモルファス化や転位の発生によって数十~数百nmの加工変質層が形成され,基板性能に大きな影響を及ぼす.現在,主に化学的機械研磨(CMP)で加工変質層の除去が行われているが,変質層の残留や能率の低下,形状精度の劣化そして廃液の排出による環境汚染などが問題となっている.本研究では,パルス幅が数ナノ秒のNd:YAGレーザー第2高調波を加工面に1回照射するだけで加工変質層における相変態や転位などを一括して完全な単結晶構造に修復する技術を開発する.
[修復原理]
シリコンの加工変質層は,通常,アモルファス層および転位層の2つの層から構成される.本研究の原理を図1に示す.すなわち,加工変質層部分のレーザー吸収率がバルク領域より著しく高いことを利用し,変質層のアモルファス部分のみをナノ秒速で溶融させると同時に,転位を液相・固相の界面に向けて移動させることで完全に消滅させる.その後,無転位のバルク領域を種としてナノ秒速で液相エピタキシャル結晶成長させる.その結果,結晶構造における欠陥が完全になくなり,バルク領域と全く同様な単結晶構造が得られる.
[修復結果]
図2は,レーザー照射部とその近傍の断面TEM 写真である.図2から,レーザー照射部では結晶欠陥のアモルファス層と転移層が単結晶に修復されているのが明らかである.図3は,レーザー照射部分と未照射部分,それらの境界部,バルク単結晶部分の電子線回折像である.図3からも,レーザー照射により表面欠陥のアモルファス層と転移層がすべて単結晶構造に修復されているのが明らかである.
[優位性]
■材料の除去が全く伴わないため,基板の形状精度をそのまま維持することができる.
■高周波ナノパルスレーザを使用することで極めて短時間での変質層修復が可能である.
■切りくずや化学廃液を全く排出せず,環境に悪影響を与えることのないクリーン技術である.
■複雑形状工作物への適用が可能で,局所の選択的修復や表面組織の制御も可能である.
[応用展開]
本研究で提案する加工変質層の修復法により,部品形状精度の劣化や環境汚染負荷なく,加工ダメージの完全除去が可能であることを明らかにした.本研究成果は,大口径シリコンウエハやその他の半導体基板の高品質製造へ大きく貢献するものとして期待される.上記以外にも赤外線光学部品や新機能マイクロメカニカルデバイスの開発へと応用展開可能である.なお現在,本技術を実用化させるための装置開発も進めている.
[成果発表]
本研究成果の一部は,国際学術誌Semiconductor Science and Technologyに掲載された.
J.Yan,T.Asami and T.Kuriyagawa: Response of machining-damaged single-crystalline silicon wafers to nanosecond pulsed laser irradiation,Semiconductor Science and Technology,22 (2007) 392-395.
*参考図は添付資料をご参照ください。