日立と旭化成と産総研、塗布製法を用いた有機薄膜トランジスタのアレイ形成技術を開発
塗布製法を用いた有機薄膜トランジスタのアレイ形成技術を開発
半導体、ゲート絶縁膜、保護膜を塗布製法で形成し、移動度0.1cm2/V・sを達成
株式会社日立製作所(執行役社長:古川一夫/以下、日立)、旭化成株式会社(代表取締役社長:蛭田史郎/以下、旭化成)、独立行政法人産業技術総合研究所(理事長:吉川弘之/以下、産総研)、財団法人光産業技術振興協会(会長:野間口有/以下、光協会)は、このたび、経済産業省、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(理事長:牧野力/以下、NEDO)の支援・委託を受けて、塗布製法によって、有機薄膜トランジスタ(有機TFT:Organic Thin Film Transistor)をマトリックス上に配置して形成する、アレイ形成技術を開発しました。
本技術は、液晶ディスプレイの画素スイッチに、有機TFTアレイ*1を利用するためのものです。今回、半導体膜、ゲート絶縁膜、および保護膜の形成に、低コスト化に有利な塗布製法を用いるとともに、従来、塗布製法による有機TFTの課題であった半導体膜中に結晶粒界が生成されるのを抑制し、移動度性能を改善することに成功しました。今回、画面サイズ5インチ、RGB表示方式で画素数240×320(QVGA相当)のディスプレイに対応する有機TFTアレイを試作したところ、トランジスタの移動度*2が平均値0.1cm2/V・sを超え、小型液晶ディスプレイで利用可能な性能が得られました。有機TFT技術は、次世代表示デバイスとして期待されるシートディスプレイを、低コストで製造する技術として注目されていますが、その実用化に向けて大きく前進しました。
*1 TFTアレイ:基板上に薄膜トランジスタがマトリックス状に配列された基板。
*2 移動度:トランジスタの性能指標の一つで、電荷の動きやすさ、すなわちトランジスタ内を電荷が動く速度を表す。この数値が大きいほど、トランジスタの動作スピードが早くなります。TFTをディスプレイの画素スイッチに用いる場合、移動度が高いほど、画面の大型化が可能となります。
なお、本成果は、2007年5月20日から米国・ロングビーチで開催されるディスプレイに関する国際会議「Society for Information Display 2007」にて発表します。
●画像:塗布製法を用いて試作した有機TFTアレイ
(※ 関連資料を参照してください。)
◆技術開発の背景
近年、究極の薄型ディスプレイとして、薄くて軽量、簡単に持ち運びが可能なプラスチック基板を用いたシートディスプレイへの期待が高まっています。このシートディスプレイを低コストで製造する技術として、液晶ディスプレイなどの表示素子の画素スイッチに、有機TFTを利用するための研究開発が活発に進められています。有機TFTは、現行ディスプレイ製品で使われているシリコンTFTに比べプロセス温度が低いため、フィルム状のプラスチック基板に直接形成できることに加え、塗布製法で形成することによって真空装置を不要とし、生産性の向上と設備コストの削減を両立できるという大きな利点があるためです。
しかし、従来、塗布製法を用いた有機TFTでは、半導体膜中に結晶粒界が数多く生成され、これによってトランジスタの移動度が低下するという課題がありました。移動度は動画表示性能の指標であり、この値が大きいほど画面の大型化が可能となりますが、従来、塗布製法による有機TFTでは、実用的な移動度性能が得られていませんでした。また、画素スイッチをして利用するためには、有機TFTをマトリックス状に配置したアレイ状に形成する必要があります。このため、広い面積で結晶粒界の少ない半導体膜を形成する技術や、有機TFTの上層に表示素子が形成される際に、その形成プロセスで有機TFT性能が劣化するのを防止する保護膜技術など、有機TFTのアレイ化に対応した塗布製法技術の開発が求められていました。
◆今回開発した技術の特長
1.ペンタセン溶液を用いた結晶性の高い半導体膜の塗布製法技術
半導体膜材料にペンタセン溶液を使用し、量、温度、蒸気圧、および基板の表面エネルギーの最適化した塗布製法によって、結晶性の高いペンタセン半導体膜を形成する技術を開発しました。
2.ゲート漏れ電流を抑制する塗布製法によるゲート絶縁膜
触媒を混合した低温効果型のポリシラザン溶液を用いて、ゲート絶縁膜を塗布製法で形成する技術を適用しました。ポリシラザン膜は、塗布したのちに大気中で焼成(高温で焼き固めて性質を変化させるプロセス)することによって酸化ケイ素膜になりますが、アモルファスシリコンTFTで用いられている真空プロセスで形成した窒化ケイ素と同程度にまで、漏れ電流を抑制することができます。さらに、ペンタセン半導体と絶縁膜界面を良好な状態で形成できるため、高い移動度が得られるという特長があります。
3.高いプロセス耐性を有する3層構造保護膜
ポリシラザン/樹脂/樹脂の3層構造を有する塗布形成膜を保護膜に適用しました。これにより、半導体の加工、ならびに液晶の積層時に発生する有機TFTの性能劣化を抑制することができました。
今回、開発した有機TFTのアレイ形成技術を用いて、画面サイズ5インチ、RGB表示方式で画素数240×320(QVGA相当)のディスプレイに対応する、有機TFTアレイ(トランジスタ数:約23万個)を試作したところ、トランジスタの移動度は平均値が0.1cm2/V・sを超え、塗布製法で作製した有機TFTアレイとしては、最も高い性能が得られました。また、この移動度は、小型の液晶ディスプレイで利用可能な性能であり、今回開発した有機TFTアレイ形成技術の有用性を確認できました。
◆今後の予定
今後は、半導体膜およびゲート絶縁膜の形成温度を低下させ、プラスチック基板上へ有機TFTアレイを形成し、高品質な超薄型ディスプレイの開発をめざします。
(※ 画像は関連資料を参照してください。)