日立、静岡理工科大と高速動作を両立する位置決め技術を開発
5ナノメートルの精度と毎秒400ミリメートルの高速動作を両立する位置決め技術を開発
半導体製造装置などの精密機器での作業時間を短縮することが可能に
株式会社日立製作所 日立研究所(所長:小豆畑 茂/以下、日立)と学校法人静岡理工科大学(学長:荒木 信幸/以下、静岡理工科大学)は、このたび、誤差5ナノメートルの精度と最大移動速度、毎秒400ミリメートルの高速動作を実現する超精密位置決め装置の試作に成功しました。本装置は、リニアモータでありながら電磁石と永久磁石の間の吸引力が相殺されるという特長をもつ「トンネルアクチュエータ」の技術を用いることにより、空気や油の圧力を利用する高価な支持機構の代わりにリニアボールベアリングを用いて、コンパクトな超精密位置決め装置を実現しました。本技術は、半導体製造装置、光学関連装置、バイオ関連装置などの精密機器へ用いることにより、精密機器の作業時間を短縮でき、高価な精密機器の生産性向上に寄与できるものと期待されます。
近年、半導体製造装置など高精度な位置決めが必要な装置では、工程の作業時間短縮のために、高速移動が可能なリニアモータが用いられつつあります。しかし、一般的なリニアモータは、回転モータを切り開いて平面に展開した構造となっているため、電磁石と永久磁石の間に発生する磁気吸引力を回転モータのように相殺することができません。そのため、これらの間隔を維持する支持機構に大きな力がかかり、支持機構としてリニアボールベアリングを使用するとボールの変形による位置ずれが避けられないため、ナノメートルクラス(10億分の1メートルクラス)の超精密位置決めが必要な場合には、空気や油の圧力を利用する高価な支持機構が必要でした。
日立は、2001年に電磁石と永久磁石の間の磁気吸引力が相殺される独自構造のリニアモータ「トンネルアクチュエータ」(図1参照)を考案しました。ユニークな形状の磁極歯を交互に組み合わることで、電磁石の磁極の間にトンネルのような空間を設け、この中に永久磁石を通して直線駆動させるものです。上下の磁極歯の間に磁界が形成されるので、この中に設置された永久磁石には、上下の磁極歯からの磁気吸引力が働き、互いに相殺されます。また、上下の磁極歯の間に磁束が流れることで漏れ磁束が少ないので、大きな駆動力が得られます。日立は、2004年に加速度40G(重力加速度の40倍)の「トンネルアクチュエータ」を実現しています。
今回、日立と静岡理工科大学は、上下の磁極歯の間に設置した永久磁石の磁気吸引力が相殺されるという「トンネルアクチュエータ」の特性に着目し、空気や油の圧力を利用する高価な支持機構を用いることなく、リニアボールベアリングとの簡単な組み合わせで、ナノメートルクラスの超精密位置決め装置を構成することに取り組みました。
従来の「トンネルアクチュエータ」の永久磁石は薄い板状で、たわみ易かったため、回転ローラを入れて、たわみを防止していました。ナノメートルクラスの超精密位置決め駆動に「トンネルアクチュエータ」を用いる際には、この回転ローラによる摩擦が位置ずれの要因になることから、回転ローラを用いない構造にすることが課題でした。
そこで、日立は、永久磁石の中央に「垂直尾翼」のような補強板を装着することで、「トンネルアクチュエータ」の優れた特性を損なわず、永久磁石部の剛性を強化しました。その結果、磁束トンネル中での永久磁石のたわみが解消され、回転ローラをなくすことに成功しました。
永久磁石の剛性を強化した「トンネルアクチュエータ」とリニアボールベアリングの組み合わせで超高精密な位置決め装置を試作した結果、位置決め分解能5ナノメートル、最大移動速度、毎秒400ミリメートルの性能を確認できました。
今回開発した「トンネルアクチュエータ」を用いた超精密位置決め装置は、部品点数が少なく、シンプルな構造のため、応用製品への取り付けが容易です。今後、次世代半導体製造装置、光学関連検査装置、バイオ関連装置などの超精密位置決め装置として用いることが期待されます。
※図1.2は添付資料を参照
以 上