早大と日立など、情報家電の開発期間短縮が可能なマルチコア技術を開発
情報家電の開発期間短縮が可能なマルチコア技術を開発
4コア型システムLSI、並列化コンパイラ、マルチコアAPIを開発し3.4倍の速度向上を自動並列化で実現
学校法人早稲田大学(総長:白井克彦/以下、早稲田大学)と株式会社日立製作所(執行役社長:古川一夫/以下、日立)、株式会社ルネサス テクノロジ(会長&CEO:伊藤達/以下、ルネサス テクノロジ)は、このたび、高性能な情報家電ソフトウェアの開発期間の短縮に貢献するマルチコア技術を開発しました。本技術は、複数のプロセッサコアを1チップに集積して並列に動作させることで高性能化を図るマルチコア・プロセッサ技術、並列化コンパイラ技術、並列処理プログラミング(Application Programming Interface/以下、API)技術からなります。今回、4個のプロセッサコアを集積したマルチコア型システムLSI(以下、マルチコアLSI)、自動並列化コンパイラ、API解釈系を試作しました。情報家電で使われるオーディオ圧縮のプログラムを評価対象として用いて、開発技術の性能評価を行い、1個のプロセッサコアでプログラムを実行した場合の処理速度と比べて、3.4倍の高速化を確認しました。本技術により、並列処理プログラムを自動的に生成できるため、高性能な情報家電を短期間に開発できるようになります。
本研究開発は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が、2005年度から実施中の「リアルタイム情報家電用マルチコア技術の研究開発」(プロジェクトリーダー:早稲田大学 笠原博徳教授)により、実施されたものです。また、マルチコア・プロセッサの仕様(アーキテクチャ)および並列処理プログラムの仕様(API)は、本研究開発事業の一環として早稲田大学が設置した委員会(委員:日立、ルネサス テクノロジ、株式会社富士通研究所、株式会社東芝、松下電器産業株式会社、日本電気株式会社)にて、共同で検討、開発されたものです。このコンパイラとAPIを用いることにより、アーキテクチャ仕様に準拠したマルチコア・プロセッサ上でのソフトウェア開発を、短期間で容易に行うことができます。なお本APIの第1版は今年度中に一般公開する予定です。
早稲田大学、日立、ルネサス テクノロジは、今後も、映像やオーディオのストリーミングなど情報家電向けの応用を題材として、今回開発したマルチコア技術の評価を進めるとともに、早稲田大学は、前述の委員会の活動を継続し、参加6社と共に、マルチコア向けソフトウェアの開発効率化を目指して、マルチコア・アーキテクチャおよびAPIを拡充していく予定です。
■本技術開発の背景
カーナビゲーションシステムやデジタルTV、DVDレコーダー、家庭用ゲーム機、携帯電話などの情報家電は、近年、ブロードバンド・ネットワークへの接続をはじめ、音声・画像など多様なメディア処理機能の搭載、さらには一般家庭への普及に伴う安全性の向上など、目覚しい進歩を遂げています。今後、一層の進展を推し進めていくためには、情報家電の中核となるシステムLSIの性能向上に加え、消費電力の低減、さらには、短い製品サイクルに対応した開発期間の短縮が求められています。近年、高性能化・低消費電力化に対応する新技術として、1チップ上に複数のプロセッサコアを集積し、それらを並列に動作させることによって高い性能を少ない消費電力で実現するマルチコア技術が、高性能なパソコンやサーバで採用され始めています。これを情報家電で広く利用していくためには、並列に動作する組み込みプログラムを短期間に開発することが求められていました。
■本技術の特長
1.早稲田大学と情報家電機器・LSIメーカー6社が共同策定したマルチコア・アーキテクチャとAPI
従来のマルチコア用プログラムは、プログラムを実行するプロセッサ・アーキテクチャに強く依存していたため、他のアーキテクチャへの移植が難しく、開発効率に問題がありました。そこで、早稲田大学と委員会に参画した情報家電機器・LSIメーカー6社は共同で、メモリの構成などを定義するマルチコア・アーキテクチャと、同アーキテクチャにおける並列処理プログラムの動作やデータ配置・転送などを指示するAPIを策定しました。これにより、今回策定したアーキテクチャに準拠したマルチコアLSIの間では、共通の並列化コンパイラを利用できるので、プログラムの移植性が格段に向上し、開発効率を大幅に改善させることができます。
2.情報家電向け並列化コンパイラ
従来、並列化コンパイラでは、多数のデータに対して同じ演算を繰り返すループ処理部分に対してしか並列処理が行えませんでした。しかし、情報家電機器では多種多様なアプリケーションが実行されるため、プログラム中のループ部分のみの並列化では、高速化を図りにくいという問題がありました。開発したコンパイラは、より大きな処理単位での並列化を行う「粗粒度タスク並列化」を含め、プログラム全域から並列性を抽出する「マルチグレイン並列化」を実現しています。
また、処理の高速化の問題になっていたメモリウォール問題に対処するデータ配置の最適化や、高機能DMA(Direct Memory Access)コントローラを用いたデータ転送オーバーヘッドの最小化、さらに、各プロセッサコアの動作周波数・動作電圧、電源遮断制御を行う消費電力の最小化の機能も実現しています。
3.情報家電向け4コア集積マルチコアLSI
今回策定したマルチコア・アーキテクチャに準拠する最新のSuperH?*マイコンコアを4個、1チップに集積し、マルチコアLSIを開発しました。なお、本マルチコアLSIの詳細は、2007年2月11日から米国サンフランシスコで開催された「国際固体素子回路会議(ISSCC:International Solid-State Circuits Conference)」にて報告しました。
本マルチコアLSI、並列化コンパイラ、API解釈系を用いて、情報家電で使用されるオーディオ圧縮プログラムに対する並列処理性能の評価を行ったところ、プロセッサコア1個の場合に比べ3.4倍の速度向上を確認でき、本マルチコア技術の有効性を実証することができました。
*SuperHは、(株)ルネサス テクノロジの商標です。