理化学研究所、64テラフロップスの分子動力学シミュレーション専用計算機の運用開始
理研計算機センターで日本最大規模の
分子動力学シミュレーション専用計算機を運用開始
◇ポイント◇
・ 地球シミュレータの1.5倍の演算性能を一人の研究者が占有して実行可能
・ 理研で開発した専用計算機(MDGRAPE-3)を計算機センターに導入
独立行政法人理化学研究所(野依良治 理事長)の情報基盤センター(姫野龍太郎センター長)は、64テラフロップス(TFLOPS)(※1)のピーク性能を持つ分子動力学シミュレーション専用計算機「MDGRAPE(※2)-3」(エムディーグレープ・スリー)を理研のスーパー・コンピュータ・システム「理研スーパー・コンバインド・クラスタ(略称:RSCC)」に組み込み、理研内の研究者に対し4月2日からサービスを開始します。
MDGRAPE-3は、横浜研究所(小川智也所長)ゲノム科学総合研究センター(榊佳之センター長)システム情報生物学研究グループ高速分子シミュレーション研究チーム(泰地真弘人チームリーダー)が開発した専用計算機で、昨年6月世界で初めて1ペタフロップス(PFLOPS)を実現しました。また、MDGRAPE-3を利用した計算が、昨年11月にアメリカ・フロリダ州タンパで開催された国際会議SC2006でゴードンベル賞(※3)(ピーク性能部門 Honorable Mention)を受賞しています。
MDGRAPE-3は分子動力学(※4)の専用計算機で、今回開始するサービスでは、地球シミュレータ(※5)の1.5倍の演算性能を一人の研究者が占有して実行することができるようになります。このような利用環境は世界的にも例が無く、薬剤の開発などで行われるタンパク質の分子動力学シミュレーションや、ナノサイエンスでの物質の結晶状態などの解析に威力を発揮することが期待できます。
* 以下、詳細は関連資料を参照
<ご参考>
● 新RSCCシステムは、2007年4月21日(土)に開催される理研和光研究所一般公開(関連リンク参照)で公開予定です。
<補足説明>
(※1) フロップス(FLOPS)
フロップス(FLOPS)=1秒間に何回浮動小数点演算ができるかを表す単位。ペタフロップス(PFLOPS)は1015FLOPS=1秒間に1,000兆回、テラフロップス(TFLOPS)は1012FLOPS=1秒間に1兆回、ギガフロップス(GFLOPS)は109FLOPS=1秒間に10億回の演算を行う能力を現す。
(※2) MDGRAPE
東京大学が1989年から天文シミュレーション計算機GRAPEを開発。その後、理研は同 システムをベースに分子動力学専用システムとしてMDM(MDGRAPE-2)を開発、2004年8月には世界最高速のMDGRAPE-3チップを開発した。 さらに、2006年6月にはMDGRAPE-3チップを計4,808チップ用いて1ペタフロップス(1秒間に1,000兆回の演算を行う能力)を実現する分子動力学シミュレーション専用コンピュータ・システムの開発に成功した(2006年6月18日記者発表)。2006年11月にはその一部を使ったシミュレーションで、汎用計算機に換算したときの実効計算性能185テラフロップスを達成した成果により2006年のゴードンベル賞(ピーク性能部門 Honorable Mention)を受賞した(2006年11月17日記者発表)。
(※3) ゴードンベル賞
ゴードンベル賞は、その年に行われた最高の高性能実用計算、最高の価格あたりの実用計算に与えられる賞で、1987年に始まった権威ある賞である。ゴードンベル賞には、4つの部門があるが、毎年全ての部門で表彰が行われるわけではなく、表彰するに値する論文がある時に、表彰が行われる。4つの部門は、次のとおり。
Peak performance based on sustained floating point operations per second
Price per performance ratio measured in sustained flop/s per dollar of acquisition cost
Special accomplishment for innovation in scalable implementation
Scalability achieved through language construct
(※4) 分子動力学
多体の原子間ポテンシャルの下で系の静的、動的安定構造や、動的過程(ダイナミクス)をコンピュータ・シミュレーションによって解析する手法。
(※5) 地球シミュレータ
NECが開発した多目的型では世界最速(2003年現在)を誇るベクトル型並列スーパーコンピュータ。総プロセッサー数5,120個、最大理論演算性能は40TFLOPSに及ぶとされている。コンピュータ内に仮想地球を作り、大気や海水、地殻の状態を高速かつ高精度にシミュレーションでき、中長期的な環境変動や災害などの予測、解明に使用される。また、バイオ・ナノなど先進分野でも利用されている。