メルク、「アービタックス」の臨床試験で転移性結腸直腸癌患者への効果を確認
過去最大規模のアービタックス(R)臨床試験において転移性結腸直腸癌患者の
無増悪生存期間が有意な延長を示す
メルク株式会社(本社東京、社長クラウス・ディール)の親会社であるMerck KGaA(本社ドイツ ダルムシュタット市、会長ミヒャエル・ロイマー) は2007年4月中旬に、米国、ロサンゼルスで開催された米国癌学会(AACR)において同社の分子標的薬アービタックス(R)(セツキシマブ)が、臨床試験において転移性結腸直腸癌患者の無増悪生存期間を有意に延長するとともに、併せて高い奏効率が得られたと発表しました。アービタックス(R)は日本では2007年1月31日に製造販売承認を申請しました。
多国間臨床試験EPIC(European Prospective Investigation of Cancer)トライアルではオキサリプラチンによるファースト・ライン化学療法に反応しなかった症例を対象に、アービタックス(R)とイリノテカンによる併用療法(n=648)とイリノテカンによる単独療法(n=650)を比較した結果、無増悪生存期間はアービタックス(R)投与患者において50%以上延長し(3.98ヶ月対2.56 ヶ月、p<0.0001)、全奏効率(50%以上の腫瘍縮小)はイリノテカン単独群に比べてアービタックス(R)群の方が約4倍高い(16.36%対4.15%、p<0.0001)結果を得ました。
試験統括責任医師であるサンマルティノ病院(イタリア、ジェノバ)のAlberto Sobrero教授は「このデータは、我々に大きな自信を与えてくれました。オキサリプラチン療法を試みたにもかかわらず癌の進行をくいとめられなかった症例に対し、これまでは限られた治療法しかありませんでした。今回得た結果から、オキサリプラチン療法に奏効しなかった症例に対してアービタックス(R)を併用するという新しい選択肢を示すことになり、病状の進行を遅らせるという可能性の扉が開かれます。また、アービタックス(R)はさまざまな腫瘍タイプに効く最も活性の高い分子標的治療のひとつとして注目されていますが、EPIC試験が、最近のアービタックス(R)の有用性を示す主要エビデンスにさらに一つ付け加えられることになりました。」と述べています。
全生存期間は二つの試験群において有意な差は見られませんでした(10.71ヶ月対9.99ヶ月)。この理由として、イリノテカン単独療法群の40%以上に試験終了後の後治療としてアービタックスの投与が行われたことが原因である可能性があります。つまり、試験の両群の症例がアービタックス(R)を使用したことで、両群の最終的な生存期間の差が最小限に抑えられてしまったと思われます。
他にも、アービタックス(R)ベースの治療レジメンが全生存期間を有意に延長する可能性を示した臨床試験が示されました。例を挙げると、それまでさまざまな治療を受けてきた転移性結腸直腸癌患者において、Best Supportive Care群(※1)と比較するとアービタックス(R)群の生存期間が延長されました。また、局所進行扁平上皮頭頸部癌症例に対するアービタックス(R)と放射線治療の併用療法と、放射線治療単独療法とを比較した試験においては、生存期間中央値が、アービタックス(R)投与群で20ヶ月(p<0.03)延長しました。(※2)
■アービタックス(R)の隔週投与を裏付ける新データ
これまで毎週投与としていたアービタックス(R)を隔週投与へと変えても安全かどうかを確認する第1相試験の結果についても、AACRにおいて発表されました。患者個々の薬物動態と安全プロフィールを確認して、段階的に投与量を増やしながら投与しました。結果は、アービタックス(R)500mg/m2の隔週投与と現行の毎週投与の薬物動態はほぼ一致しており、明らかに簡便な投与の可能性が示されました。
毎年ヨーロッパにおいて370,000人以上が結腸直腸癌に罹患しています。この数字は全世界における癌の13%を占め、死亡に至る例数は年間約200,000人です。そのうち、約25%は転移性疾患を示し、転移性結腸直腸癌症例の5年間生存率は5%という低さです。
■注 釈
<EPIC試験に関して>
EPICトライアルは過去にイリノテカンを投与されておらず、オキサリプラチンを含む先行化学療法に反応しなかった上皮細胞増殖因子受容体発現の転移性結腸直腸癌症例に対して、アービタックス(R)とイリノテカン化学療法併用とイリノテカン化学療法単独の効果を調べる無作為化比較第三相試験です。症例は2つのうちどちらかの群に無作為に割り付けられました:
●第1群(n=648):アービタックス(R)(400mg/m2)の第一回目投与にひき続き、アービタックス(R)(250mg/m2)を毎週および3週間毎にイリノテカン350mg/m2 を投与。
●第2群(n=650):3週間毎にイリノテカン350mg/m2 を投与。
主要評価項目は全生存期間で、副次的評価項目は無増悪生存期間、全奏効率、安全性とQOLです。試験はヨーロッパ、オーストラリア、アジアおよび米国の250施設において行なわれました。
■アービタックス(R)について
アービタックス(R)は、世界で初めての上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)を標的とする非常に活性の高いIgG1モノクローナル抗体。アービタックス(R)はモノクローナル抗体であるため、従来の非選択的化学療法とは作用機序がまったく異なり、EGFRを特異的に標的として結合します。この結合により受容体の活性化とその下流のシグナル伝達経路が阻害され、結果的に正常組織への癌細胞の浸潤と腫瘍の新たな遠隔転移が減少します。
さらに、腫瘍細胞が化学療法や放射線療法によって受けたダメージを修復する能力を阻害し、腫瘍内の新生血管の形成を阻害し、これが全体的な腫瘍成長の抑制につながると言われています。最もよく見られるアービタックス(R)による副作用は、にきび様皮疹で、奏効率と相関すると言われています。患者の約5%においてアービタックス(R)に対する過敏性反応が起き、このうちの約半分は重度の反応です。
アービタックス(R)はすでに65カ国において販売許可を受けています。現在、アービタックス(R)をEGFR発現転移性結腸直腸癌症例の治療に使用することが承認されているのは64カ国です。アルゼンチン、オーストラリア、ベラルーシ、カナダ、チリ、中国、コロンビア、コスタリカ、クロアチア、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、欧州連合、グアテマラ、香港、アイスランド、インド、イスラエル、カザフスタン、レバノン、マレーシア、メキシコ、モンテネグロ、ニュージーランド、ニカラグア、ノルウェー、パナマ、ペルー、フィリピン、セルビア、シンガポール、韓国、スイス、タイ、台湾、ウクライナ、米国、そしてベネズエラでは、イリノテカン療法で効果が見られなかった場合に、イリノテカンと併用して結腸直腸癌の治療に使用することが承認されています。単独薬剤としてのアービタックス(R)の使用が承認されている国は、アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、チリ、コロンビア、コスタリカ、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、グアテマラ、香港、レバノン、メキシコ、ニュージーランド、ニカラグア、パナマ、ペルー、フィリピン、タイ、シンガポール、米国、ベネズエラです。
さらに、放射線療法と併用して局所進行扁平上皮頭頸部癌 (SCCHN)の治療にアービタックス(R)を使用することが承認されている国は、アルゼンチン、オーストラリア、ベラルーシ、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、エルサルバドル、欧州連合、グアテマラ、香港、アイスランド、インド、イスラエル、カザフスタン、マレーシア、メキシコ、モンテネグロ、ニカラグア、ノルウェー、フィリピン、セルビア、スイス、台湾、ウクライナ、米国、ベネズエラ。アルゼンチン、チリ、コスタリカ、エルサルバドル、グアテマラ、イスラエル、メキシコ、ニカラグア、フィリピン等53カ国です。そして米国においては、他の化学療法で改善の見られなかった再発性および/または転移性 SCCHNの患者に対するアービタックス(R)の単独療法がすでに承認を受けています。
メルク株式会社はドイツのダルムシュタットに本社を置く、世界的な総合医化学メーカー Merck KGaAの日本法人であり、1968年に設立、液晶や顔料などの化学品や試薬・分析薬、医薬品などを手がけています。
また、Merck KGaAは1668年に設立され、現在世界56カ国で事業展開を行っており、グループ従業員総数は35,000人。2006年売上高は約63億ユーロ。