東レ、耐熱性と剛性などを高めた植物繊維強化ポリ乳酸プラスチックを開発
植物繊維強化ポリ乳酸(PLA)プラスチックを開発
-耐熱性と剛性、成形性を向上 用途拡大に期待-
東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:榊原定征、以下「東レ」)はこのたび、ポリ乳酸(PLA)とセルロースを主成分とする植物繊維1)をコンパウンド(混練)2)して耐熱性と剛性3)および成形性を向上させた植物繊維強化PLAプラスチックを開発しました。バイオマスプラスチックで世界最高レベルの150℃の耐熱性をはじめ、従来のPLAプラスチックに対して2倍の剛性と成形時間の大幅短縮を実現した他、植物繊維を混ぜても優れた成形外観が得られるなど、バイオマスプラスチックの物性を抜本的に改良しました。当社は本開発品について、自動車部品、電気・電子部品、土木・建築資材、家具等、幅広く用途開発を進めていきます。
これまでPLAの強度を向上させるため、補強材として植物繊維を配合する技術が開発検討されてきましたが、均一に混ざらないことによる成形品の外観不良をはじめ、PLAが成形時に分解しやすいこと、さらには射出成形時の成形サイクル4)が長く耐熱性も低いなど、実用的なプラスチック材料としては用途展開に限界がありました。本技術により、量産性に優れた射出成形法で、既存の石油系プラスチック同等以上の耐熱性と剛性を有するPLAプラスチック製品の生産が可能になります。
本技術は、株式会社昭和丸筒(本社:大阪府東大阪市、社長:岩本泰典)と昭和プロダクツ株式会社(同上)の協力を得て、独自の樹脂コンパウンド技術と新開発の結晶化促進技術の融合により実現しました。技術ポイントは以下のとおりです。
1.独自の樹脂コンパウンド(混練)技術の開発
PLAと植物繊維を独自のコンパウンド技術により溶融混練することで、成形時にPLAが分解しやすい問題を解決するとともに、成形品の外観および剛性の向上を同時に実現しました。本技術の開発により植物繊維を最大50%まで均一に混練・微分散できる他、発泡体の成形も可能になります。
2.PLAの結晶化促進技術の開発
PLAポリマーと植物繊維との相互作用に基づく結晶化促進作用を極限追求した結果、PLAの結晶化速度をプレーンPLAの50倍、最新の改良技術との比較でも10倍高い革新的な結晶化促進技術を開発しました。その高い結晶性により成形時間を大幅に短縮するとともに、均一に分散された植物繊維の補強効果により150℃の耐熱性と従来比2倍の剛性を実現しました。
PLAは、トウモロコシなどの植物に含まれるデンプンを発酵して作られる乳酸を重合して製造するバイオマスポリマーです。石油資源の節約をはじめ、二酸化炭素の排出量を抑制する”カーボンニュートラル”効果により、地球温暖化の防止に貢献する環境低負荷素材として期待されています。本格普及に向けては、耐熱性や剛性の改良、生産性の改善などが課題となっていましたが、本技術の確立により、PLAのさらなる用途拡大が期待されます。
東レはコーポレート・スローガン”Innovation by Chemistry”(化学による革新と創造)のもと、情報・通信・エレクトロニクス、自動車・航空機、ライフサイエンス、環境・水・エネルギーの重点4領域に向けた先端材料の拡大を推進しています。環境領域においては、PLAをはじめとする非石化原料を使用した製品用途の開発に取り組んでいます。東レは独自の先端技術を活かした研究開発のInnovationを推進することで、PLA統合ブランド”エコディア”5)をはじめとする環境配慮型製品の事業拡大を目指して参ります。
なお当社は本開発技術を、5月22日(火)から開催される「2007NEW環境展」(主催:(株)日報アイ・ビー、於:東京ビックサイト・東ホール)、及び5月23日(水)から開催される「人とくるまのテクノロジー展2007」(主催:(社)自動車技術会、於:パシフィコ横浜・展示ホール)にて出展紹介いたします。
以 上
【 用語説明 】
1)植物繊維:植物の茎・葉・靭皮(じんぴ)・種子などから得られる繊維。主成分はセルロースで、衣料や紙の原料となる。
2)コンパウンド(混練):目的とする性能や機能を得るために、プラスチックのベース樹脂に強化材や添加剤を配合すること。本技術では、溶融状態のプラスチックと添加剤を混ぜ合わせる溶融混練により配合を行う。
3)剛性:成形品の変形しにくさを表す物理量で、一定の力を受けたときに変形し難いほど剛性が高いとされる。材料としては、弾性率が高いものは、剛性が高い材料となる。
4)成形サイクル:1回の射出成形が開始してから終了するまでの単位時間。成形サイクルが短いほど生産性が高い。
5)”エコディア”:植物由来のプラスチックであるポリ乳酸に、東レ独自の技術を加えた繊維・樹脂・フィルム製品の統合ブランド。